3周年記念セールの風船を欲しがった猫
アほリ
3周年記念セールの風船を欲しがった猫
「あら!店に猫入ってきたよ!!」
パートの店員が、スーパーマーケットの中に三毛の野良猫が入ってきたのを見て、駆けつけた店長に指差した。
「おいこら!!どら猫!!品物を荒らす気か!!」
モップを持ったもうひとりの店員は、血相を変えて三毛の野良猫を追い払いに来た。
「で、どら猫は何処に居るんだ?!」
「あそこの子連れのお客の子供に配る、オープン3周年記念の風船を膨らませている特設テントに入っていったわ!!」
「コノヤロー!!」
・・・・・・
しゅ~~~~~~~~~~~!!
雌の三毛猫は、スーパーのアルバイトがヘリウムガスを入れて膨らませている風船が、テントの天井にいっぱい浮いているのを見上げていた。
しゅ~~~~~~~~~~~!!
三毛猫は、そのカラフルな風船を不思議そうな顔で見詰めていた。
しゅ~~~~~~~~~~~!!
しゅ~~~~~~~~~~~!!
どんどん次々と風船は膨らみ、アルバイトが膨らませた風船の紐を束に、入店してきた子供達に『オープン3周年セール』と書かれたそのヘリウム入りのゴム風船を次々と配っていた。
三毛猫は、テントの天井の風船を見上げていた。
見上げていた。
見上げていた。
目に涙で潤ませてじっと風船を見上げていた。
しゅ~~~~~~~~~~・・・
ぱぁーーーーーん!!
「うにゃっ!!」
三毛猫は、アルバイトが膨らませた風船が、ヘリウムガスを入れすぎてパンクした破裂音で思わず声をあげてしまった。
「あーーーっ!!やっぱりここに居た!!どら猫!!」
店員がモップを掲げて、テントに乱入してきたのだ。
ばさっ!!ばさっ!!ばさっ!!ばさっ!!
「うにゃーーーーっ!!」
店員は鬼の形相で、モップを『侵入者』の三毛猫で叩いてきた。
「しっ!しっ!しっ!しっ!」
「うにゃーーーーっ!!」
執拗にけしかけてくる店員に追われて、三毛猫はたまらなくなって、風船のあるテントから逃げ出した。
・・・・・・
「わたしが・・・わたしが何をしたの?!」
三毛猫は、建物と建物の真ん中で隠れて荒い息をしていた。
「わたし・・・あの風船が欲しいのに・・・どうしても欲しいだけなのに・・・!!」
三毛猫の目から悔し涙が滲んでいた。
「ああ・・・あの風船が欲しい・・・あの風船には・・・!!あの風船には・・・!!あの風船には・・・!!」
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
三毛猫の息は、更に荒くなった。
胸が、ドキドキと破裂する位高鳴った。
「欲しい・・・欲しい・・・やっぱりあの風船がとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても欲しいぃーーーーー!!」
三毛猫は居ても立っても要られなくなり、またスーパーマーケットへ一目散に走って行った。
・・・風船は・・・?
テントの中はアルバイトが一通り風船を膨らませた終わり、今一休みしてスーパーから支給された弁当を食べていた。
・・・あった・・・!!
テントの天井には、膨らませた風船がまだ何個からへばりついて浮いていた。
・・・『ママ』・・・待っててね・・・
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
三毛猫は何を思ったのか、掲げた前肢の肉球で風船に付いている垂れ下がった紐を何度もジャンプして掴もうとした。
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
・・・届かない・・・!!
・・・届かない・・・!!
・・・紐が高すぎて『ママ』に届かないよーーー!!・・・
ぴょーーーーん!!
ぴょーーーーん!!
「あっ!今さっきの猫だ!!こら!風船を悪戯するな!!」
アルバイトに見付かってしまった。
「何だ何だ!!」
「店員さーん!またあの猫が!!」
「まーた!あいつか!!保健所へ通報しろ!!」
「それはちょっと可哀相ですよ!!」
「可哀相も糞もあるか!!猫はな・・・」
・・・な・・・何で・・・!!?
「うにゃーーーーっ!!」
三毛の野良猫は、ざわつく店員達に激しい戦慄を覚え、気まずくなり慌ててテントから這い出て逃げ出した。
・・・・・・
ゴミ溜めと化した空き地の片隅で、三毛猫はスーパーマーケットのテントから逃げ出した時に、脚に絡んだ割れて膨らまし失敗して床に捨てられた風船の紐を解いた。
爪で、割れた風船の破片を伸ばしてみる。
『オープン3周年記念セール』
の後ろに書かれた絵。
「ママ・・・」
割れて裂かれてしまったが、地面で合わせたその絵は、1匹の可愛い猫のイラストが描かれていた。
・・・・・・
「皆、きたまえ。」
『オープン3周年セール』の風船を持ったスーパーマーケットの店長が、レジや補充で忙しいパート以外の店員全員を呼び出した。
「この今店で配っている風船の猫の絵。何がモデルか知ってる人要るか?」
誰も手を揚げなかった。
「知らないか。やっぱりな。その時は誰も働いてないから仕方無いか。
この風船の猫のモデルはな、この店が開店した日に店の裏で子猫を産んだ母猫だ。
名前は、三毛猫の『ミーコ』だ。
でもな、三毛猫のミーコは、行方不明の1以外の産んだ子猫が有志の客に全て貰われていったその翌日に、搬入のトラックに轢かれて死んだのだが・・・」
・・・まさか・・・あのどら猫は・・・
今さっきモップで、侵入してきた野良の三毛猫を追い払った店員は、顔を青ざめた。
「で、今ここで、開店3周年のこの日にあの行方不明の子猫とそっくりの三毛猫が戻ってきたのを見かけたのだが、知らんか?
ぜひ、3歳のバースデーを迎えてささやかなお祝いをしたかったのけどね・・・知らんか?」
・・・俺は・・・取り返しのつかないことを・・・!!
店員は、思わず叫んだ。
「俺!!そのどら猫・・・いやここ産まれの猫を探してくる!!
売り物のカリカリと、配布中の風船を何個から用意してくれ!!」
「すいません・・・今風船は全部配り終えたらしいんですけど・・・」
「いや!ある!!店内に、子供が誤って手を離した風船が天井に張り付いてるのが何個か浮いてます!!」
「丁度いい!!俺がその風船を脚立で取って持っていく!!カリカリは俺が自腹で!!」
店員は、カリカリとスーパーマーケットの天井に張り付いてるのを取った風船を全部持って、店から出て虱潰しに逃げた三毛の野良猫を探しに行った。
「おーいー!!ごめんよーーー!!猫!!出ておいでーーーー!!ごめんよーーー!!ごめんよーーー!!俺が悪かったーーー!!」
「何この人?」
「大の大人が片手にいっぱい風船持って!!」
「まじうけるーーー!!」
通りすがりの女子高生が陰口を叩いても、めげずに店員は、何処へ消えた野良猫を探して探して探しまくった。
「おーいー!!ごめんよーーー!!猫!!出ておいでーーーー!!ごめんよーーー!!ごめんよーーー!!俺が悪かったーーー!!俺が悪かったーーー!!」
やがて、夕方になった。
段々外が薄暗くなってきて、三毛猫を探すどころではなくなってきた。
「おい・・・どら猫・・・やっぱり・・・「出て行け」とか言わなければ良かった・・・!!」
店員は罪悪感に苛まれ、遂に途方に暮れて公園で項垂れていた。
「スーパーの店長候補を目指したかったの・・・にこれじゃ・・・これじゃ・・・ 」
「にゃーーーーん。」
後で猫の鳴き声が聞こえると思って、店員が振り向くと・・・
「にゃーーーーん。」
「どら猫!!」
後ろには、脚に割れた風船が絡んだ猫が佇んでいた。
「にゃーーーーん。」
「どら猫・・・」
店員は、その猫がスーパーマーケットにやって来た時に追い払おうとした、あの野良の三毛猫だと直ぐに解った。
その三毛猫は脚元に、割れた『3周年記念セール』の風船があったからだ。
「ごめんよ。どら猫・・・いや、ミーコの末裔。」
店員は、三毛猫の目の前でカリカリを明け、手に持っていた時間が経って艶も浮力も無くなってきた『3周年記念セール』の風船を、三毛猫に見せた。
「ほら、見てみろよ。お前のママだ。この風船にお前のママが居るぞ。」
店員はそう言うと、カリカリをガツガツと食べ始めた三毛猫の尻尾に風船の束を結んだ。
「ほうら、この風船欲しかったんだろ?お前のママの絵の入った風船。
いいかい、これからお前の名前は『ミーコ』だ。お前のママの名前だ。
お前にその名前を継承してやるから、来ないか?俺のとこへ。スーパーマーケットの看板猫に推薦してやるんだ。
もう、誰もお前を追い払いはしない。
だから、ママの分まで生きろ。
なあ・・・『ミーコ』。
3歳のバースデーおめでとう。」
その後、『二代目』三毛猫のミーコはこのスーパーマーケットの一員として『顔』となり、『ミーコ効果』で更に繁盛したそうだ。
セールの時には、尻尾に配布のものを分けて貰った、『ミーコ』の絵の入った風船の紐を結んだ三毛猫のミーコが、招き猫のように店前で佇んでいた。
「にゃ~ん。」
~3周年記念セールの風船が欲しがった猫~
~fin ~
3周年記念セールの風船を欲しがった猫 アほリ @ahori1970
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