サード アニバーサリー インパクト

亜未田久志

終焉に祝福を


 真っ赤に染まる空。

 黒髪と金髪の少女が二人、斜めになったビルの側面に器用に立っていた。

「世界が終わる」

「そうだね」

 そう返したのは金髪の少女。

「アリサは怖くないの?」

 黒髪の少女が聞く。

「いつかは来るものだからね、亜理紗ありさこそ怖くないの?」

 金髪のアリサが黒髪の亜理紗に聞き返す。

「分からない、とても不思議な気分……あっ」


 空から一つ何かが落ちて来た。


 その巨大な何かは、赤く輝き、その輝きは白い極光へと変わり、地面へと激突して衝撃となった。

「隕石、増えてきたね」

 辺りを見回せば、小さなクレーターが大量に出来ていた。

「これが今回の終焉ってわけだ」

「今回の?」

 黒髪の亜理紗が小首を傾げる。

「この世界は二度、終わりを迎えているのさ」

「どうしてアリサはその事を知ってるの?」

「終わりを迎えても、すべてが消えるわけじゃない、何かしら痕跡は残る。それを調べたまでさ」

「そうなんだ。ねぇアリサ、私達の痕跡も残るかな」

 金髪のアリサはバツが悪そうに後ろ頭を掻く。

「それは……どうだろう、一個人が残せるものはとても少ない」

「でもないわけじゃないのね?」

「……そうだね、残しに行こうか。私達の生きた痕跡あかしを」

 二人はビルの側面を器用に滑り降りた。


 遊具がボロボロに壊れた公園。

 まだクレーターの被害に遭っていない場所。

「隕石にもある程度パターンがあるみたい。多分ここには世界が終わった後も隕石は落ちてこない……かもしれない」

 金髪のアリサはしょっていたリュックから色々と道具を取り出した。

 リュック側面に括り付けていた大きなスコップ。

 中からは銀色の箱に、紙、ペン、ノートぐらいの大きさの薄い鉄板、小さな石板。ナイフ。

「それでどうするの?」

「私達の言葉を残そう、この箱は丈夫だけどもしもの時のために色んな媒体に残しておこう」

「うん、わかった」

 二人は、紙にペンで、石板と鉄板にはナイフで文字を記していく。

「ねぇ! 私、この音嫌い!」

 鉄板をナイフで引っ掻いた時の音だ。

 黒髪の亜理紗が悲鳴を上げる。

「我慢だよ亜理紗」

 そういう金髪のアリサも顔をしかめていた。

 ようやく二人は最後の言葉を書き終える。

「アリサはなんて書いたの?」

 黒髪の亜理紗が、金髪のアリサの持つ紙を覗き込む。

「私の知っている事を出来るだけ書いたつもりだよ、これでも知識には自信があるからね」

「なにそれつまんない」

「そうかな、じゃあ亜理紗は何を書いたの?」

「私達の事! アリサ・フォレストは優しくて物知りで頼りがいがあって大食いで――」

「ちょっとちょっと! そんな事、後世に残さないでよ!」

「そして私、八重洲亜理紗はちょっとドジだけどかわいくていざという時頼りになる素敵な女の子!」

「はははっ、亜理紗らしいや」

「最後に一緒の事書かない?」

 唐突に亜理紗が提案する。

 首を傾げるアリサ。

「一緒の事?」

「そう! 世界滅亡三周年おめでとう! って!」

 それを聞いてしばらく沈黙するアリサ。

 亜理紗は思わず顔を覗き込む。

「……ぷっ、あははははっ! そんな事書くのは亜理紗ぐらいだ!」

「何よ! 急に黙るからびっくりしたじゃない!」

「だって世界が終わるんだよ? なんで祝うんだい?」

「終わるって事は、何かが始まるって事よ、それはきっと素晴らしい事だわ。そしてこの箱を開けた人はきっと始まった後の人、だったら祝ってあげなきゃ、新しい始まりよおめでとう! って!」

「いいよ、いいね! 最高だ亜理紗! 書こう世界滅亡三周年おめでとう!」


「「世界滅亡三周年おめでとう!」」


 古代、子供達の遊び場と見られている廃墟に調査班が向かった。

 その地面から何かが埋まっている反応があった。

 そこにあったのはボコボコになった銀の箱だった。

 危険性は無いようなので開けてみる。

 そこにあったのは――


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