第33話 悪魔と戦う者
学校の校庭で壮平は自分の目的の邪魔をしようとする亜矢ごと校舎を破壊しようと攻撃を放とうとする。
だが、その寸前で空から背後に降ってきた物体があって、彼はその攻撃を取りやめて振り返った。
もうもうと上がる土煙の中から現れたのは未知の巨大な鉄のロボットだった。悪魔よりも大きく今の悪魔化した壮平でも見上げてしまうほどの背丈がある。
「また邪魔が入ったのか。せっかく張った結界を無視してどいつもこいつも!」
彼が感じたのは驚きよりも苛立ちだけだ。
壮平はこの場所に余計な邪魔が入らないように昨夜のうちに周りに人払いの結界を配置しておいた。それなのに余計な邪魔が次々に入ってくる。
彼にとってはこの学校を破壊して華凛の悔しがる顔さえ見られればそれだけで良かったのに、簡単な目的さえ達成できずに苛立ちを抑えきれなかった。
こうも邪魔が入っては普段の壮平なら一度撤退して計画を見直すところだったが、今の彼にはそのような譲歩をする余裕はなかった。
あの大悪魔の少女の顔を一刻も早く屈辱に変えてやらなければ気が済まなかった。計画の変更などありえないことだった。
立ちはだかるそのロボットに乗る人間は悪魔の悪だくみなど全く意に介さず一笑に伏した。
「悪魔のやる事など聞くまでもなかろうな。どうせまたこの町で破壊活動をするつもりなのだろう! 分かっているぞ!」
そして、そんな太陽の予測は当たっていた。
ただ亜矢にその気は無かったという事だけを除いて。彼にとって悪魔は同罪だ。
太陽はロボットのカメラが映すコクピットのモニター画面を通して悪魔を睨んだ。
「貴様らはまた凝りもせずに悪事を働くつもりなのだろうがな。だが、もうさせんぞ! この私と平和の守護者ピースキーパーがやらせはせんのだ! みんなまとめてこの町から吹き飛ばしてくれるわ!」
太陽が気迫とともにペダルを押して操縦レバーを操作して前進する巨大ロボットが必殺のパンチを繰り出す。迫る鋼鉄の拳。そんな人間の造った鉄くずの攻撃など壮平は簡単に受け止めるつもりだったが、亜矢が危険に感づいて飛び出していた。
「お兄ちゃん! あれは駄目!」
「なに!?」
庇うように前に飛び出す妹。今の壮平は自分の目的を達成する事ばかりに気を取られていて他の事が見えていなかった。
そうでなければ亜矢が気づけたことぐらい普段の壮平なら気づけていだだろう。
それはただのロボットの鉄のパンチではなかった。光の力が噴出し、悪魔の力をズタズタに引き裂いて消滅させた。
それはアマツ所長の施した天の光エネルギー。悪魔の力と対を為し、対悪魔に特化した破壊する力だ。その効果は種族悪魔に対して抜群。
クリティカルヒットした光の力は亜矢の防御を容易く粉砕し、迫る鋼鉄の拳が少女の体を叩きつけ、壮平と亜矢は一緒に学校の壁へと叩きつけられた。
「お前は邪魔だ! もう家に帰れ!」
壮平は上に乗った彼女の体をどかそうとするが様子がおかしかった。
「うう……」
亜矢は苦しんでいる。これぐらいの攻撃なら悪魔ならたいしたことがないはずだが、光の力が亜矢の体を蝕んでいた。
「なんだ、この光は。くっ」
それは壮平の初めて見る不思議な光だった。
その光は触れただけで壮平の指を焦がした。まともに全身で食らった亜矢の痛みはどれほどだろうか。
想像で未知のエネルギーに関することが分かるはずもなかった。
「知ったことか。余計な邪魔をするからそうなるんだ」
壮平は今度こそ亜矢の体を跳ねのけようとするが、その手を止めてしまう。
光を恐れたのではない。光など触れずとも邪魔な物ぐらい爆風で吹き飛ばせる。だが、迷った。
光の力に触れずに排除するには亜矢ごと吹き飛ばすしかない。
ロボットのカメラが悪魔二人の方に向けられる。
「まだ息があるのか。往生際の悪い奴らめ。今度こそ全力のスペシャルダッシュパンチを叩きつけてやるぞ!」
悪魔を粉砕する巨大ロボットが高速のダッシュで向かってくる。壮平だけなら亜矢を見捨てて空へ飛んで逃げれただろうが、彼女を置いていくわけにはいかなかった。
「くそっ、こんな光が何なのだ!」
亜矢の体に触れようとするが光に弾かれてしまう。悪魔の力でこれの効果を消すには時間が必要だが、もうそんな時間はない。
敵はすぐそこに迫っている。壮平は決めた。
「あまり僕達を舐めるなよ!!」
逃げることなく戦う事を。そもそも華凛以外を相手に逃げることなど屈辱でしかない。予定に無かった相手だったので戦う愚を犯さなかっただけだ。
壮平は向かってくる巨大ロボットに向かって悪魔の炎弾を放つが全く通用しなかった。
このロボット、ピースキーパーは悪魔を倒すために造った兵器なのだ。悪魔の力など効くはずが無かった。
壮平が施した人払いの結界を無視して太陽がここに来れたのも、この身を包む兵器が悪魔の効果を退ける光のエネルギーで動いているからに他ならない。
悪魔の力など通用しない。太陽は自らの勝利を確信して笑った。
「悪魔よ。お前達がこの町で好きに暴れる時代は終わったのだ! これからは私がこの町の平和を守る!」
ロボットのパンチが唸る。最初の何倍もの威力で迫りくる。壮平は亜矢を庇って覆いかぶさった。だが、予期された攻撃は来ない。
目を開けると自分達の前で庇ってロボットの腕を受け止める大悪魔の少女の後姿があった。
その姿を壮平が忘れるわけがない。
「なぜお前が僕達を庇う!」
「助けに来たから!」
「まだ悪魔がいたのか!」
太陽がアクセルを強めても華凛は全く退かない。光のエネルギーを噴出させてもその小さな悪魔の少女の拳は全く引かれない。
「わたしの友達に手出しはさせない!」
攻撃の来る予感に太陽は無理せずロボットを下がらせた。華凛は追撃することをせず手を下ろす。
静かな風が戦場となった校庭に吹き抜けた。
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