第五章 運命の日
第29話 祝福するような朝
次の日の朝、目覚めるとまるで今日という日を祝福するかのような気持ちの良い天気だった。
窓から差し込む心地の良い朝陽が照らす自室で陽菜はベッドから身を起こし、猫のように背伸びをした。
「ふああ~、よく寝ましたわ」
何だかいつもよりぐっすりと眠れたような気がする。それはこれだけ今日の天気が良いからだろうか。窓の方へ歩いていってカーテンを開けると抜けるような青く澄み渡る朝の空だった。
それだけならいつもの見慣れた風景だ。いつもより気分が弾んで思えるのは友達が家に来ているからだろう。会おうと思えばこれからすぐに会える。部長としては気分も明るくなるというものだ。
「さて、長く待たせるわけには行きませんわね。この家の者として真っ先の行動を心掛けなければ」
陽菜は身だしなみを整えてから部屋を出ようとして、ドアのノブに触りかけた手を止めた。
「? 変ですわね」
何故かここから出てはいけないような、そんな予感がしたのだ。
「もう夜ではありませんし、構いませんわよね」
意識せずに呟いた。
美風が出るなと陽菜に命じたのは昨夜の間だけだった。もう朝になっていたので問題はなかった。
その禁じる命令はもう陽菜の記憶には無かったが、体が覚えていた。
そんな命令の残滓も朝陽の差し込む部屋で陽菜の目覚めた意識がはっきりしてくるにつれて消え失せていった。
「いつまでもこうしているわけにはいきませんわ。朝食の用意をしませんとね」
夢から覚めたように気分を一新。陽菜はもう不思議な気分に囚われることはせず、元気な足取りで屋敷の廊下へと踏み出していった。
華凛が目覚めるともう陽菜と雅は起きていた。雅はまだ夜更かしでもしたかのように眠そうにしていたが、陽菜はすでにしゃんとしていた。
さすがみんなに褒められるお嬢様は行儀が良いと華凛は思う。
朝食の用意が出来た食堂の席。昨夜はここで晩御飯を戴いたが、屋敷の食堂はやはり広い。
今朝の華凛はいつもの部活のメンバーである陽菜と雅と一緒に美味しく朝食を楽しんでいた。今は余計な大人はいない。
太陽には悪いがやはりこのメンバーの方が落ち着く。華凛はリラックスした気分で黙々と食事を食べていた。
そうして過ごしていると雅が食事の手を止めて陽菜に訊ねた。
「陽菜ちゃん、昨夜はやはり無理だったの?」
「え? 無理って何が……?」
陽菜は少し考えて、それから答えた。
「……ええ、そうですわね。昨夜は無理でしたわ」
コーヒーを飲む陽菜の答えはどこかぎこちない。ちゃんとしているように見えてもやはりまだ朝起きたばかりで少し寝ぼけているのかもしれないと華凛は思った。
しっかり者の陽菜でも華凛と同じ年の少女なのだから。彼女でも朝はこんななんだなと思いながら、華凛は食事を続けた。
やがて何事も無く朝食を終えた。みんなでごちそうさまをして、使用人の人達が食器を片付けていく。
今朝はテレビのニュースもそう悪い事件を伝えていなくて、また一日平和に過ごせそうだと華凛は思った。
さて、ラスボスのいない間にこれからどう彼に好かれるか作戦を考えようと華凛がぼんやりしていると他人から評される顔で思考を始めると、メイドさんがやってきて陽菜に伝えた。
その話は陽菜から改めて雅と華凛に向けて伝えられた。
「アマツさんが用事があるから来てほしいそうですわ」
「今度はラスボスの片腕の方か。何の用なんだろう」
「それはまだ分かりませんが……」
今朝の陽菜はどこか歯切れが悪い。雅と受け答えしながら、何か魚の小骨が取れそうで取れないような不思議な顔をしていた。
こんな時こそ自分がはっきりしないといけない。これからの行動を華凛から提案する。
「行ってみようよ。それで開ける道もあるかもしれない」
「おお、華凛ちゃんが乗り気だ」
「ですわね。相手が誘っているのだからここは乗る事に致しましょう」
そうして、二人もやる気になってメンバーの意見が一致したところで。華凛達は朝から食堂を出て研究所の方へ移動することにした。
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