第24話 二人が悪魔を好きな理由
華凛は案内をする陽菜と雅の後に続いて玄関ホールを横切り、階段を昇り、廊下を歩いていく。
初めて来た豪華な屋敷は子供心に探検したい気分にさせられるが、そんな日常の遊びを申し出るような雰囲気ではない。
陽菜も雅も黙って速足になっていて真剣な顔をしている。
それほど屋敷の者に見つかるのはまずいのだろうか。華凛には分からないので二人に従って黙ってついていく。
ふかふかの絨毯を踏みしめながら廊下を歩き、人目が無い事を確認してからエレベーターに乗って上がり、やがて一つの部屋の前に辿り着いたところで今まで前を歩いていた陽菜が立ち止まって振り返った。
「さあ、ここですわ。どうぞお入りになって」
「失礼します」
「わたしも失礼」
そして、陽菜の案内で入った部屋はそれはもう立派な部屋だった。テレビ番組でも凄い部屋は見た事はあるが、ここはそれ以上かもしれない。
とても個人の私室とは思えないほど綺麗で広くて整っている。
華凛が夢のような景色を驚いて見ていると、雅がいたずらっぽく言ってきた。
「華凛ちゃん、この部屋には何かが足りないと思っているよね?」
「え!?」
そう言われても華凛には何が足りないのか分からない。思いもよらない発言を元に考えてみる。
この部屋にはテレビやソファやテーブルやベッドだってあるし、いろんな女の子らしい小道具だってあるし、壁際には本棚もある。この部屋には何でも揃っていると思うが。
考えながら見渡しても分からない華凛に対して、陽菜には雅の言ったことが分かっているようだった。
さすがは華凛より古くから雅と付き合っている旧友といったところだろうか。通じ合う物があるようだった。
「フフン、華凛さんのお望みの物はここにありますわ」
「んーー」
華凛にはその望みが通じていなかったが。
陽菜が歩いて手に取ったのは机に置いてあった普通の小箱だった。まるで中に宝石でも入っていそうな箱だ。まさかそれが華凛の望む物だろうか。
女の子としては興味が無いと言えば嘘になる物だ。瞳を煌めかせてしまう。
だが、キラキラとした夢を見る華凛の期待に反して、開けた小箱の中にあったのは何かのボタンだった。
陽菜の指がその何のへんてつもないボタンを押す。すると壁際にあった本棚が左右に別れて後ろに隠された部屋が現れた。まるで秘密基地のようだ。
奥は暗がりにあって見えにくい。悪魔の力を使えば視力を上げて注視することは可能だが、今は悪魔の力を使うことは止めておく。
今日はなるべく人間として過ごすように決めて来ているから。
陽菜の案内でその隠し部屋の方へ近づき、そこに飾られてある物を指して陽菜が教えてくれた。
「ここにあるのはわたくしが集めた悪魔グッズです」
「また増えてるね。凄い」
雅はここにある物の事は知っているようだった。それでも前より凄くなっているらしいが。
華凛がきょとんとして見ていると陽菜が温かく微笑みかけてきた。
「どうぞ華凛ちゃんも遠慮なく見ていってください」
「うん」
華凛は悪魔ではあったが、それほど濃い悪魔マニアというわけでは無かった。
だから正直、学校では教えてくれない悪魔の事を知りたい気持ちはあったけど、あまり濃い趣味を見せられても困ってしまうのだが。
薦めてくれる二人の気分を害したくはない気持ちはあったので形だけでも興味のある素振りを見せて、その部屋にある物を見せてもらうことにする。
あまり広い部屋ではない。それでもいろいろあるなと思う。雅はとても喜んで手に取っていた。
「この部屋は父のいない間に作らせましたのよ。見つからないように」
「そうなんだ」
見ている途中で陽菜がこの部屋の成り立ちを教えてくれる。
最初はそれほど興味のなかった華凛だったが、見ている途中で段々と興味が出てきた。だが、今日の用事はこれを見に来たことじゃない。
一周して落ち着いたところで席に戻り、これからの事を話し合うことにする。
華凛は二人に今更ながら以前から気になっていた事を訊くことにした。
「陽菜ちゃんと雅ちゃんは何で今みたいに悪魔が好きになったの?」
それが分かればこれからの事にも対応できるかもしれない。
悪魔は世間では良く思われてはいない。興味の無い人はいても好かれる類の物ではないと思う。
二人の内面に踏み込むようなことは人付き合いの苦手な華凛の好む事では無かったが、ここまで一緒に来たのだから聞いておきたいと思った。
「そうですわね……」
「ラスボス戦の前に話しておくか」
二人は少し考えて話すことに決めたようだ。華凛の見えない机の下でジャンケンしてまずは勝った陽菜が先行を取って話すことにする。
「わたくしが悪魔に興味を持ったのは父が嫌っていたからですのよ」
「嫌いだったのに興味を持ったんだ」
何とも不思議な気分だが、喋る陽菜の顔には嫌味がなく穏やかだった。
彼女は話す。悪魔を好きになった理由を。
「ええ、よく知りもしないのに嫌うのは何か違うんじゃないかとわたくしは思ったのです。そして、自分の力で調べているうちに好きになっていました」
「へえ」
「悪魔は凄いから。知れば好きになるんだよ!」
雅が興奮した声を上げる。陽菜は否定することはせずに穏やかに頷いた。
「わたくしの方はこんなところですわね」
「じゃあ、次はわたしの番だね」
雅が早く言いたそうにうずうずしている。どうぞと陽菜が促してやると彼女は鉄砲玉のように語り出した。
「悪魔は人間には出来ない事をやってのける。そこには壮大なロマンがあるんだ。その歴史はずっと過去に遡り……」
雅の話は長く続いた。さすがに見かねたのか陽菜がその辺でと止めたところで、やっと鼻息を沈めて席に戻った。
落ち着いた席で華凛と陽菜が静かな息を吐くと、間髪入れずに雅は華凛の方に身を乗り出して目を見開いて訊ねてくる。
「それでどうだった? わたし達の話は」
「うん、二人が悪魔が好きなのはよく分かったよ」
「それは良かった。これからもこのチームで頑張ろうね」
「うん」
「しっ、誰か来たようですわ」
陽菜が注意を飛ばし、場が一斉に沈黙する。雅が黙ったので華凛も自分の口を押えて噤むことにした。
やがて鳴るコンコンとドアをノックされる音。
陽菜が「どうぞ」と許可を出すと、失礼しますと言って現れたのはメイドさんだった。
彼女は礼儀正しく頭を下げてから用件を伝える。
「お嬢様、旦那様がお帰りになりました」
「そう、もうそんな時間でしたのね。これから会いに行くと伝えてください」
「承りました」
陽菜の集めた悪魔グッズを見て雅の話を聞いていた間に思ったより時間が経っていたようだ。あまり作戦会議をする時間は無かった。
陽菜がこれから友達を連れて父に会いに行くから伝えて欲しいと伝えると、メイドさんは一礼して去っていった。
華凛は緊張の抜けた息を吐く。メイドさんとはもっと安らぐ物かと思っていたが、見つからないように来た判断は間違っていなかったと思わざるを得なかった。
そう言えば悪魔グッズは目を付けられなかったのかと振り返るが、すでに本棚は閉じられて部屋は元の様相を取り戻していた。
さすがは陽菜だ。華凛よりもしっかりしている。その頼りになる陽菜がリーダーとして判断を下す。
「では、行きましょうか。父の元へ」
「いよいよラスボス戦だね。あいつに会うの久しぶりだよ」
「わたしは初めて……気に入られないと」
いよいよ決戦の時が始まる。華凛は高鳴る思いに気を引き締めるのだった。
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