第23話 陽菜の屋敷に到着

 陽菜の家は想像通りの……いや華凛の想像した以上の大きさだった。

 これではまるで一般家庭の家というよりもでかい遊園地のような敷地の広さだ。華凛は走る車の窓から横に続いている長い壁を見てそう思う。

 凄いなあと思って見ている間にも車は屋敷の門の前に到着。運転手が連絡と手続きを済ませ、巨大な門が厳かに開いていく。そして、車は中へと入っていく。

 そこに広がるのは綺麗に彩られた庭の光景。天国があるならこういう場所かもしれない。その遠くに見える建物がここは現実であると教えてくれるが。

 華凛一人ならこんな場違いを感じる場所には躊躇して入れなかったかもしれないが、運転手と雅はすっかりこの場所に慣れているようだった。二人ともしっかりとして落ち着いている。

 華凛が興奮して窓の外の景色を眺めていると、隣から雅が話しかけてきた。


「華凛ちゃん、陽菜ちゃんの家に来るのは初めて?」

「うん、初めて。陽菜ちゃんの家って凄いね」

「悪魔でも凄いと思う事があるんだ」

「うん、悪魔でも……って、これ知られたらまずいんじゃ……」


 ここには雅以外に運転手がいるのだ。もちろん話は聞こえているだろう。悪魔の力を使えば記憶を消す事は可能だが、悪魔だと知られないようにまずは人間として好きになってもらうと決めてきているのにいきなり力を使うのは気が引ける。

 今更気が付いて華凛は視線を送るのだが、雅はとっくに気づいているようで安心させるように言ってきた。


「大丈夫。余計な事を言う奴は沈めるから」

「沈めちゃうんだ……」


 呟く華凛に運転手も子供を安心させるような笑顔で声を掛けてくる。


「ハハハ、私も今の仕事は失いたくありませんから雅様の機嫌を損ねるような事は致しませんよ。むしろそんな奴がいたらこの私が沈めてやりますよ」

「だから、大丈夫。華凛ちゃんはわたしに任せておいて」

「うん」


 二人からの暖かい言葉を送られて、華凛は自分はちっぽけな事で悩んでいたんだと思ってしまう。 

 不安な事はあるがみんなが任せろと言うのだから任せておこう。華凛は友達とはありがたいと思いながら前を向く事にする。

 道路を進んで大きな屋敷が見えてくる。この広い敷地には他にどんな物があるのか子供ながらの探求心で気になるが、余計な事を言う訳にはいかないだろう。

 今日果たす目的に集中しなければならない。陽菜と雅もそれを望んでここまで連れてきてくれたのだから。


(ラスボスに挑む覚悟をしないとね)


 雅の言っていた言葉の意味をここまで来てから噛みしめる。目的地は近づいてくる。

 華凛が黙って座っている間に車は屋敷の玄関の前に到着。降りてドアに向かう事にした。


「行ってらっしゃいませ」

「うん」

「行ってくる」


 運転手に見送られ、雅とともにいざドアの前に。緊張して見上げる華凛の横で雅が屋敷のピンポンを鳴らした。

 こんなところは普通の家と変わらないんだなとどうでもいい事を思ってしまう。

 返答はすぐに来た。ドアを開けて姿を現したのは陽菜本人だった。


「いらっしゃい、二人とも。本日はよく我が屋敷へ来てくださいました」

「うん、来たよ」

「今日はよろしく」


 慣れない場所に来て華凛は緊張していたが、いつものメンバーで集まるといつもの部室での空気になれて、華凛は不安と緊張の和らぐ心地いい気分になれた。

 安心する華凛の隣で雅が陽菜に訊ねる。


「今日はメイドさんの案内じゃないんだね」

「ええ、父の息が掛かる前に内々で話をしておこうと思いまして」

「この屋敷ってメイドさんがいるの!?」


 華凛がびっくりした声を上げると陽菜が優しく、雅が声を潜めて教えてくれた。


「ええ、いますわ。父が雇っていますの」

「ここは陽菜ちゃんの家だから。でも、奴らはラスボスの手の者。今は見つからない方がいいね」

「うん」


 陽菜と雅が先を急ぎたそうにしているので、華凛は二人の案内に従うことにした。


「では、早いうちにわたくしの部屋に行きますわ」

「ラスボスが帰ってくる前に作戦会議だ」

「おおーーー」


 そして、華凛はなるべく目立たないように足音を忍ばせて、二人の後に続いて屋敷の中を移動することにした。

 華凛の悪魔の力ならステルスで存在を隠蔽することは可能だったが、今はそんな事は思いつかなかったし、悪魔だと気づかれるデメリットを考えればこれで良かったのかもしれない。

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