第22話 陽菜の家に向かう

 そして、学校に通う平凡な日々が過ぎていき、いよいよお泊り会に行く当日となった。

 鞄に荷物を詰めて出かける用意を整え終えた華凛の姿を両親が心配そうに見る。まるで壮大な冒険に出掛けようとする我が子を見送るように。

 ちょっと友達の家に行くだけなのだが。両親が心配そうにしていると逆に華凛はしっかりしないとという気分になる。


「忘れ物は無い?」

「うん、無いよ」

「真白さんの家の場所は分かっているか?」

「それなら迎えに来ると言っていたけど」


 学校でした相談で陽菜と雅がそう決めてくれた。当日はこちらから迎えに行くから家で準備しておいてと言われた。華凛はただ黙ってうなずいて申し出を受け入れた。

 華凛の悪魔の力なら陽菜の屋敷の場所をサーチしてその近くまで悪魔の翼で飛んで行くことは可能だが、せっかく二人が好意で決めてくれたので受け取っておくことにする。

 自分が悪魔だと知られるへまはしないつもりだが、万が一にでも正体がバレては困るだろうし。

 華凛の悪魔の力でいかようにも誤魔化すことは出来るが、陽菜と雅には通用しなかったのもあって決して万能ではないと肝に銘じて置く。油断は禁物である。

 やがて約束の時間が近づいてきて、玄関の方でピンポンの音が鳴った。


「はあい」

「いよいよ来たんだな、華凛の初挑戦が」

「気を付けて行ってくるのよ」

「うん」


 華凛は初めてのお使いに行くような気分で玄関へ向かっていく。ドアを開けるとそこでは見知った少女が待っていた。


「おはよう、華凛ちゃん」


 朝から星のような煌めきを持つ彼女は雅だ。教室では物静かでクールな感じだが、自分の興味のある分野をやっている時の彼女はきらきらとして弾んでいる。

 雅が楽しそうで華凛も朝から嬉しくなった。

 だが、そこにいたのは雅だけだった。いつも一緒にいる陽菜の姿が無い。


「おはよう、雅ちゃん。陽菜ちゃんは?」

「陽菜ちゃんなら屋敷の方で迎える準備をしていると思うよ」

「そっか」


 考えてみればこれから行くのは陽菜の家なのだから、彼女自身は向こうで待っているのが当然か。

 考える華凛を雅が誘ってくる。


「じゃあ、行こうか」

「うん」


 誘われて華凛は雅と一緒に玄関を離れて門の外へと向かっていく。すると黒くて立派な高級車が道路に止まっているのが見えた。

 どこかのお金持ちが近所に来たのかなと思っていたら雅の足がそっちに向かっていく。華凛は慌てて後を追いかけた。


「ちょっと雅ちゃん。どこ行くの?」

「どこって、あの車に乗っていくんだよ」

「あの立派そうな車?」

「うん、うちの車」

「雅ちゃんちの車……」


 陽菜がお金持ちの凄いお嬢様なのは学校のみんなの話から知っていたが、雅もそうだとは知らなかった。

 うちの学校には上流階級のお嬢様が多いらしいし、陽菜と付き合うほどだから雅もただ者では無かったのかもしれない。雅の何かが凄いとは学校の噂では聞いたことが無いけれど。

 車に近づくと待っていた運転手がドアを開けてくれた。


「どうぞお嬢様方」

「ありがとう」

「……ございます」


 開けてもらったドアから車の中へ乗り込み、高級そうな席にぎこちなく座る。

 隣に座る雅は慣れているらしく座る姿が様になっている。華凛も頑張ろうと思う。

 そして、華凛は緊張しながら車に揺られ、陽菜の家に向かうのだった。




 車の中は慣れない高級な別世界のようだが外に流れるのはいつもの平凡な町並みだ。華凛がぼんやりと外を眺めていると、隣に座る雅が話しかけてきた。


「華凛ちゃん、ラスボスに挑む用意は出来た?」

「うん。……って、ラスボス!?」


 どこからその単語が出て来たのか分からなくて華凛はびっくりしてしまう。

 ラスボスと言えば主人公達が挑む最後の強大なボスだろう。華凛ぐらいの年でもゲームやアニメは知っているのでその言葉の意味ぐらいは知っている。

 雅は冗談を言っているようではなかった。彼女は真面目な顔をして言った。


「陽菜ちゃんのお父さんだよ」

「陽菜ちゃんのお父さんってラスボスなの!?」

「こくり。わたしはずっと倒したいと願っていた」

「倒さないからね。気にいられる為に行くんだから」

「陽菜ちゃんはそう言っていたけど」

「わたしも同じ気持ちだからね」

「うん、作戦の成功が一番大事。星の巡りは乱すべきではないか」

「そういうこと」

「今はまだその時」

「うん、その時」


 自分の目的は忘れないようにしよう。雅と話しながら華凛はいつも以上に悪魔の自分は出さないようにしようと肝に銘じるのだった。

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