第四章 陽菜の屋敷へ
第21話 陽菜からの誘い
「華凛ちゃん、今度わたくしの家に来ませんか?」
「え?」
陽菜がそう提案してきたのはいつもの三人でいつものように放課後に悪魔研究会の部室に集まっていた時の事だった。
亜矢が帰ってからまだ一週間も経っていないが、あの時の騒がしさを思いだすと今の部室の空気はどこか寂しく感じられる。
そんな冷めた空気の中での陽菜からの暖かい誘いの発言だった。
華凛は言葉の意味を考える。
(陽菜ちゃんの家って……何か凄そうな家だよね。行ったことないけど)
みんなが凄いと認める陽菜の家ならさぞかし立派な豪邸なのに違いない。だが、そこに自分を誘うってどういう事なんだろう。華凛はどこか腑に落ちない物を感じる。
何せ自分はそんな立派な人間でも無ければ、みんなに認められる品格も無いのだから。得があるようには思えない。
クラスでも誰かに頼られるような機会なんて無いのだから。
華凛が結論を固めるよりも早く、雅が何かに気付いたかのように身を乗り出して言った。
「陽菜ちゃん、ついに決断したんだね」
「ええ、わたくし決断しましたわ。この研究会の活動を前に進める為にはどのみちこれは避けては通れぬ道ですもの」
「避けては通れぬ道なんだ」
華凛にはまだピンと来ない。なぜ避けては通れぬ道なのか。友達の家に行くこととこの部の活動を前に進めるのにどんな関係があるのか。
悪魔の少女の頭にまだ閃きの電球は灯らない。ノーマルの人間だった方がしがらみ無くもっと早く決められたかもしれない。
陽菜と雅は視線を交わし合ってもうお互いの意思疎通を終えたようだ。二人して改まって物知らずな華凛の方に向き直って話を進めた。
「華凛ちゃんにはまだ話していなかったかもしれませんが、わたくしの父は悪魔が嫌いなんですのよ」
「うん、それはいつかどこかで聞いた気がする」
それは華凛の頭にあった知識だった。いつどこで聞いたかはよく思いだせなかったが、陽菜は学校では有名人なので風の噂で耳に入ったのかもしれない。
雅が拳を握って強く力説する。
「陽菜ちゃんのお父さんこそ我々にとっては目の上のタンコブだ。これを取り除かないことには我ら悪魔研究会の大きな発展は望めないよ!」
「そうなんだ」
それでどうしろと言うのだろうか。まさか文字通り陽菜の家に行って彼女の父を悪魔の力で排除しろというのだろうか。ならば全力で断るしかないのだが。
悪魔はあまり人間に良い印象を持たれていない。その印象を自分の手でさらに悪くする事は断固お断りの華凛であった。
幸いにも陽菜の提案はそんな無茶では無いけど乱暴な物とは違っていた。
「そこで華凛ちゃんに家に来てもらって、父に華凛ちゃんのことを好きになってもらおうと思っていますの」
「どうやって?」
御世辞にも華凛は明るく楽しいクラスの人気者ではない。どちらかというと目立たない日陰の地味な存在だ。
それに嫌いな物を好きになるのって大変だと思う。自分が嫌いな物で思い浮かべれば小学生の頭でも分かることだった。
だが、雅は自信ありげにはっきりと言う。
「悪魔の魅力を直接! 伝えればいいんだよ。力はパワーだ!」
「そう焦る物ではありませんわ」
興奮して立ち上がる雅を陽菜が引っ張って座らせて止め、言う。
「父の考えを簡単に変えることは出来ません。それはわたくしも分かってます。そこでまずは人間の華凛さんを好きになってもらおうと思いますの」
「悪魔を見せる前にまずは人で騙すんだね」
「騙すわけではありませんが、まずは人として好印象を持ってもらうのですわ」
陽菜と雅の間の話に華凛はなかなかついていけなかったが、段々と分かるようになってきた。
「悪魔の前にまずは人間としてのわたしが陽菜ちゃんのお父さんに好かれるように……なれるかなあ」
華凛に自信は無かったが、陽菜は笑って保障してくれた。
「大丈夫ですわ。だってわたくしが気に入っているんですもの。でも、最初はくれぐれも悪魔だとは知られないようにするんですのよ。作戦前に叩き出されては元も子もありませんから」
「うん、頑張るよ」(バレたら叩き出されるのか……)
「この作戦は重要だよ。陽菜ちゃんのお父さんは力を持っているから味方に出来ればこの町は一気に悪魔の国になれるかもしれない。ここは世界一の悪魔天国になるんだ! わたしも一緒に行って手伝うからね」
「ありがとう、雅ちゃん。悪魔の国か」
天国までは必要無いと思うが、二人の気持ちは嬉しかった。
話が纏まったところで陽菜が部長として宣言する。
「では、今度の休日に。家でお泊り会を実行しますわ!」
「「おおーーーー」」
「お? え? お泊り会?」
「悪魔の為に。お泊り会おー!」
「おーーー」
こうして二人に乗せられて、華凛は陽菜の家でお泊り会をすることになったのだった。
その事を家に帰ってから両親に伝える華凛。許可してもらえるか心配だったが……
「そうか。華凛もついに友達の家にお呼ばれされるようになったんだな」
「今時の子供は早いわねー」
「行っていいの?」
華凛は友達の家に行っていいと両親から許可が出るのか心配だったが、その心配は杞憂のようだった。
父も母もとても喜んでいた。
「もちろんだとも。人と親交を深めるのは悪い事ではないからね」
「でも、真白さんのお父さんは悪魔が嫌いだって評判だから、くれぐれも自分の正体に気付かれないようにするのよ」
「うん、それは分かってる」
陽菜から言われたことを改めて再確認して気を付けようと思う華凛。
それが過剰に態度に出てしまったのか両親に笑われてしまった。
「そう緊張しなくても、あの人でも華凛を取って食いはしないよ」
「あなたはまだ子供なんですからね。楽しんできなさい」
「うん」
そうして華凛は両親から応援を受け取って、その日はあまり過剰に気にしすぎないように寝ることにした。
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