第17話 悪魔研究会、活動中
亜矢は学校の正面の昇降口から中へと入り、悪魔研究会の場所を目指そうとして立ち尽くす。
廊下は左右に伸びている。まずその左右のどちらへ行けばいいのかが分からないのだ。
「場所を聞いていなかったわ。しまったわね」
ここまで近づいたら悪魔の力で探れるかもしれないが、逆に向こうにも気づかれる恐れがある。何せ悪魔を研究している会なのだ。悪魔の力を探知する方法を持っている可能性がある。
ここまで来ておいて相手に気付かれて逃げられるのは嫌だった。
どうしようかと考える。その時、ちょうど一人でやってきた(重要。大勢でやってきたら亜矢は声を掛けられなかっただろう)気の良さそうな女子生徒がいたので場所を訊ねることにした。
「ちょっとそこのあなた? 悪魔研究会の場所を知らないかしら」
「ああ、あの陽菜ちゃんの」
陽菜の名前が真っ先に出る辺り、どうやら陽菜というのは本当にこの町ではかなりの有名人らしい。
まあ、陽菜の事はどうでもいい。悪魔研究会の場所を教えてもらう。
「それならあっち行ってこっち行ってこうだよ。頑張ってね」
「ありがとう」
気の優しい少女に礼を述べる。聞きたい情報が得られたので歩みを再開する。
「やはり訊ねるなら根暗そうなぼっちよりああいうとろそうな奴がいいわね」
この町で活動を進めてきて亜矢も少し自信がついてきた。
そういえば校門前で会った根暗そうなぼっち少女からは名前も連絡先も聞かなかったが、後で悪魔の研究がどれぐらい進んでいるか報告するという約束を果たしに行くにはどうすればいいだろうか。
どうでも良かった。自分の求める情報さえ得られれば、亜矢はそれで良かった。
「待ってなさいよ。悪魔研究会」
自分の目的だけを意識して拳を握って覚悟を決める。
そんな他校の少女の姿を不思議そうに見る生徒もいたが、陽菜が部外者をたまに学校に入れていることにはみんな見慣れているので誰も不審に声を掛けてくることはしなかった。
その目指す先は悪魔研究会。そこでは何が待っているのだろうか。
その日の放課後も華凛は友達の陽菜と雅と一緒に悪魔研究会の部室に来ていた。
悪魔だと知られる以前は華凛はたまにここへは顔を出す程度で一人で帰ることもよくあったが、悪魔だと知られてからは陽菜と雅のやる気と活動も活発になり、華凛は今では頻繁にここを訪れるようになっていた。
雅が本棚に並んだ書籍から一冊の黒い図鑑のような大きな本を取り出し、華凛に見せてくれた。
そこに載っていたのは過去に現れた歴史的に有名とされている悪魔達だった。華凛にあるのは学校で習った知識だけで悪魔方面の知識はさっぱり知らなかったので、これが有名な悪魔達だと言われても戸惑ってしまうのだが。
「とまあ、過去にはこんな有名な悪魔達がいたわけだけど」
「そうなんだ」
一通り有名な中でも特にメイン級の物とやらを紹介してから、雅は鼻息を鳴らして興奮気味に顔を向けて訊ねてきた。
「でだけど、華凛ちゃんはどの悪魔に近いんだろう」
「華凛ちゃんほどお強いのでしたら、きっとご先祖様も一目置かれるほどに有名だったはずですわ」
陽菜までこっちを気にして顔を近づけて覗きこんでくる。
「えっと……」
二人からそう期待されて訊かれても華凛は先祖の事なんて何も知らなかった。正直に答えると二人は考えた。
「華凛ちゃんの家族に訊くしかないか」
「それは止めて」
雅の出した意見をすぐに却下する。家族には悪魔の事はバレるなと言われているのだ。悪魔の事を訊きに行くなんて論外だった。
「そうですわね。親をこの研究会の活動の件に関わらせるべきではないとわたくしも思います」
幸いにも陽菜はすぐに受け入れてくれた。彼女の物憂げな顔を見て、そう言えば陽菜の父は悪魔が嫌いだと雅が言っていた事を華凛は思いだした。
それは何も特別な事では無く、普通の人は悪魔と一緒だというと良い顔をしないものだろう。その事は華凛も知っている。
悪魔に近づく意見を却下されて雅は不満そうに頬を膨らませていたが、次の意見を出してきた。
「華凛ちゃんには他に悪魔の知り合いはいないの?」
「うん、悪魔はみんな正体を隠して生きているから」
華凛の強大な悪魔の力を使えば隠れている悪魔の居場所を探知するのは可能かもしれない。
だが、隠れて生きているのに不用意に探すような事をしたらきっと迷惑になると思う。悪魔の力を広範囲に使えば人間に察知される危険もあるので、華凛は悪魔を探すことには反対だった。
その反対の態度は友達の二人からは見ただけで分かったので無理強いはしなかった。
そこで雅が何かに気付いたかのように立ち上がった。黒板のところに行って黒板消しを持ってきた。
「悪魔を見つける方法を閃いたよ。人間の力で。もちろん陽菜ちゃんのお父さんの権力も使わずに」
「「え!?」」
予期せず華凛と陽菜で言葉が被ってしまう。二人顔を見合わせてから、一緒に雅の意見を聞くことにした。
講師役となった雅は嬉しそうに瞳を煌めかせてハキハキとして言った。こんな時の彼女は本当に楽しそうだ。教室のみんなは普段の物静かな雅しか知らないから彼女のこんな一面を見たら驚くかもしれない。
「人通りの多い商店街等にこの運命の黒板消しをセットしておくの。チョークをこう増し増しにして付けておけば簡単には拭い取れないはずだよ。これで悪魔を見つけられるよ」
「却下。町の人に迷惑を掛けることは許せませんわ」
「ぶう」
陽菜にすぐさま意見を却下されて、雅の喜んでいた顔が不満に変わった。それでも自分の意見を捨てきれないのかそのチョークを増し増しにして付けた黒板消しをせめてものように部屋の入口にセットした。
華凛はそれを帰りに通る時には忘れないように外しておこうと心に刻んでおく。雅が戻ってきて陽菜が会議を再開させる。
「では、今日は何をしましょうか」
「うーんとねー……」
そうして、意見を出し合って今日の活動が進んでいく。
その時の華凛達は気づいていなかった。今この瞬間にも悪魔の手と足がこの部室に迫りつつあることを。
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