第二章 悪魔研究会、活動中

第6話 悪魔のいる学校風景

 この町には昔から悪魔が住んでいる。

 文明の発展とともにその存在はなりを潜めていき、今ではもうかつての伝説で語られていたほどの脅威的な悪魔は現れなくなっていたが、悪魔は今でも存在する。

 それはこんなどこにでもあるような普通の小学校の教室にも。先生に当てられて起立して本を音読している生徒。黒野華凛は悪魔である。

 それも能力が隔世して伝わったのか、最近の強い伝説的な悪魔が現れなくなったと言われる時代において、先祖の大悪魔の力に覚醒していた。

 華凛はずっと自分が悪魔である事を秘密にしていたのだが、つい先日友達の二人にばれてしまった。彼女は今もその視線を感じている。


「よし、そこまででいいぞ、黒野」

「はい」


 先生に言われて少女は着席する。そして、先生の綴っていく黒板の内容をノートに真面目に書き留めていく。そんなどこにでもある小学校の風景がここにはある。

 悪魔がいても何も変わらない。

 静かで平凡な授業の時間が過ぎていった。




 時間が経ちチャイムが鳴って授業が終わって先生が退室するのを待ってから、友達の二人は早速華凛の席にやってきた。

 明るいお日様のような雰囲気を纏ったお嬢様の真白陽菜と暗い夜空に煌めく星のようなオーラの漂う夢見がちな少女の星崎雅だ。

 彼女達はとても興味津々とした子供らしい視線を向けて言ってきた。


「華凛さん、授業ではあの力は使いませんの?」

「使わないよ」

「無限の暗記力とか超速理解とかいろいろあるはず」

「力は使っちゃ駄目って言われてるから」


 華凛が自分の悪魔の力を使わないようにしているのはバレたら困るのもあるが、親から禁止されているからでもある。

 早くから楽をすることを覚えてもろくな大人にはなれないと華凛は幼い頃から親に言い含められて育ってきた。

 それでなくても世間を困らせている悪魔のニュースを見れば、いたずらに悪魔の力を行使するのが良くないことは子供の頭でも納得の出来る意見であった。

 なので華凛は積極的に誰かに力を見せびらかすことはしなかった。

 悪魔が世間からどう思われているかをよく知っていながら興味本位で悪魔を研究するサークルを立ち上げた陽菜と雅もそれは分かっているので華凛に無理強いすることはしなかったし、部室以外の人の耳のある場所で積極的に悪魔の名前を出すこともしなかった。

 グループのリーダーの陽菜が話題を切り替えるように明るく言った。


「次の授業は体育ですわね」

「うん」

「もしかしてそこで華凛ちゃんのかっこいい活躍が見られるかも」

「いやいや、授業では見せられないからね。また放課後に部室で見せてあげるから」


 雅の期待の視線をやんわりと断り、華凛はみんなと一緒に次の授業の準備をするのだった。




 休み時間を終えて体操服に着替えた生徒達。体育館に集まってみんなでのびのびとバスケットボールを使った体育をした。


「まずは一点を取りますわよー」


 リーダーシップが取れて運動の出来る陽菜がてきぱきとみんなに指図して活躍し、あまり運動が得意でない雅と華凛は同じようなレベルでヘナヘナと足手まといにならないように動き回った。


「わたしはいつか魔術で運動が得意になってみせる」

「そう、頑張ってね」


 運動するなら魔術の研究よりも筋トレをした方が良いのではと華凛は思うが、雅に余計な事を突っ込むのは止めておいた。

 それに運動すれば体育の成績がよくなるわけではないことは自身も理解できることだった。

 誰かがシュートを決めて場が盛り上がる。授業を続けていく。



 体育の授業は何事も無く終わった。

 たいした活躍は出来なかったが良い運動は出来たと華凛は思う。悪魔の力を使わなくてもみんなの後ろについていくことぐらいなら人間の力しか使わない自分にも出来た。

 人気者になるほどの活躍は無理だが。

 陽菜はみんなに囲まれて先生にも頼られる人気者だ。

 彼女はしばらくみんなの輪から解放されそうにないので、華凛は雅と一緒に先に水道のところに水を飲みに行った。

 雅と一緒に飲む水は美味しかった。隣で頭を水に濡らした彼女が話しかけてくる。


「華凛ちゃん、疲れてない?」

「ううん、まだまだ平気だよ」

「そう、さすがだね」


 褒められても何も出せる物は無いが、雅が嬉しそうで華凛も嬉しくなった。これからの授業も頑張ろうと思うのだった。

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