異世界酒場に猫を

 



 異世界という概念の下あらゆる者たちがその酒場に集う。勇者であったり魔王であったり、元勇者が元魔王とアイドルの追っかけをしていたり、と。恐らく時々酒場から不穏な会話が聞こえたりするのであまりいい世界情勢ではないだろう。では猫の要素はどこにあるのかというと酒場のマスターが人間なのである。そして、酒場を訪れる人間らしき者たちはみんな猫なのだ。猫が故に読み手は猫の会話を一切理解できない。ただにゃあにゃあと蚊よりも喧しく泣くばかりである。読み手が知れるのはただ、マスターの言葉のみ。マスターはなかなかの美男子なダンディであるが猫の耳やしっぽが生えているので猫なのだろう。

 なんたる人間社会の皮肉であろうか。


「ちょっと。夏目先生。何を書いてるんですか!」

「いや、異世界酒場に猫をという題で新作をだな……」

「もう猫を主人公にしても面白みもないんですから。人気のある恋愛ものを書いてください」

「いや、わしは――」


 とまあ、我が主人はあほな小説を書いては編集とかいう役職の常識人に怒られているのである。

 吾輩であるか?

 吾輩は猫である。まだ、名はない。というか最後まで名前がない気がする。



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