第34話 もつれ糸
「 何かウチの者らがすまないねぇ 」
カゲフミが人気の無い公園の隅で頭を下げる。
「 何でぇ もう終いか 新宿猫エチュードも大したことねぇなぁ 」
黒斑のある白い生き物が鼻息荒くこれでもかと目を見開き声を荒げた。
「 またそうやって挑発する 喧嘩吹っ掛けに来たんじゃないっしょ ゲジガジに怒られても知らないよナナフシ 」
耳の端がギザギザに欠けた茶黒のサビ猫がうんざり顔で諌める。
「 今日はクオン先生もいんだ このまま3人でエチュードのシマ落とすのもぜんぜん有りだぞアキ ゲジガジ親分も喜ぶぞ 」
「 何だ ようやく俺の出番か?」
ベンチで退屈そうにしていた背中に傷のある黒柴犬がシッポを振って跳ね起きた。
「 出番か?じゃなくって 先生は暇だからって勝手に付いて来ただけっしょ 何なのさこの人たち 」
「 あんたアキだろ 私はエチュード先代頭首カゲシロの娘でカゲフミだ 今は外周りを仕切ってる 非礼は詫びた 今度はそっちが説明しとくれ まずその隣で喋ってる謎の生き物はいったい何なんだい 」
「 あっ この猫もどきはゲジガジ親分とこの子分のナナフシさん 一応本人は自分は猫だと思ってるみたいだからその体で 」
「 ……そ そうなのかい それで後ろのワン公はトラブルバスターのクオンだよねぇ 」
「 おっ さすが先生 有名人じゃん なんか付いて来ちゃってさ 別に気にしなくていいからさぁ 」
「 気にするなって言われても気になるさぁね トラブルは私らの飯の種だからね 商売仇じゃないか 」
「 その飯の種で僕前に殺されかけたんだけどさぁ 」
サビ猫のアキが恨みがましい顔でカゲフミに返す。
「 ヤクザに手配されるような事仕出かす方が悪いんだろ 自業自得さぁ それでクオン雇って仕返しに来たのかい 」
「 違う違う ゲジガジの口利きで情報仕入れに来ただけだよ そしたらそこのペケ印が突っかかって来て 」
「 何だとアキ この傷の恨み忘れるとでも思ってんのか 」
「 あんたらの道理じゃ敵に後れを取る方が悪いんじゃないのかい 」
「 そうだ ヤラれる方が悪りぃんだよ 多摩猫舐めんなよ 潰すぞ若造 」
黒斑のナナフシが大声でイキり立つ。
「 いやいやナナフシ 僕多摩猫じゃないからさぁ 声 大きいよ 」
「 …… 」
カゲフミがモンジに困った視線を送った。
「 はいはい わかりましたよ 僕がやりますよ で アキさんは確か西東京の六ヶ村会の預かりってことになってませんでした なんで多摩のゲジガジ親分のとこに 」
「 例のはぐれ猫騒動のあと 何かと大変でさぁ ご近所さん同士で色々協力してもらってんだよ 」
「 なるほど それで今日の用件とは 」
「 学者猫を探してんだけど 」
「 学者猫っすか 何でまた 」
「 六ヶ村も多摩も例の黒白猫にいい様にヤラれたのは知ってるだろ どうもヤツは伝染病を振り撒いたらしいんだ その対処方法が知りたくってね 」
「 ……伝染病 毒って聞いたよ 」
カゲフミが険しい顔をする。
「 ここも気を付けたがいいぜ 今んとこわかってんのがヤツの仲間は人間の女2人に旅猫のムツメって名乗るサバトラのメス猫だ あとはぐれ猫ども 」
ナナフシも話に加わる。
「 で どんな病気なんすか 」
「 六ヶ村も多摩も餌に仕込まれてたみたいなんだ 最初は毒だと思ってたんだけど二次感染が始まった 症状は繰り返し酷い吐き気を催す 2週間くらいで治まるんだけどその後も微熱は続くみたいだ 多摩は全員一斉に発症してその後の悪化や再発は今のとこないみたいだ 六ヶ村は感染した猫は人間に餌を貰った一部の猫だけだったんだけどその猫に接触した猫が発症している 死者は今のとこ出ていない 」
「 ……で 医者猫じゃなくってどうして学者猫なんすか 」
「 そりゃ黒白猫のアナキーによって人為的に行われたことだからさ 医者猫なら地域にいるんだから探すまでもないよ 知りたいのはアナキーが何をやろうとしてるかだ 続きがあるはずだからね 手掛かりが欲しい 」
「 わかりました 頭 どうです 」
「 学者猫なら心当たりはあるよ 千代田の永田町に東京で最古参の学者猫がいる ウチらもよく知恵を借りてるお方で教授と呼ばれてる ここ最近は少し疎遠になってるが死んじゃいないはずだよ バツ アカスケ 案内してやんな 」
「 待ってくれ頭 なんで俺がこいつら 」
「 あんた 私の言いつけが聞けないのかいバッテン 」
カゲフミの迫力のある声にバッテンはしょんぼりする。
カゲフミは考える、西東京のはぐれ猫騒動は知っていた、その裏にあのアナクフィスィがいるのも、しかし伝染病とは何だ、そんな話聞いていない。
ここ新宿地下でも少し前から同じ症状の猫達は確認されている、はぐれ猫達は地下の最下層に押し込んでいるのだが そいつらが変な病気を持って来て感染が広まったと推測して症状が出た猫達は隔離してある。しかし先程のアキという猫の話では病気を広めているのはアナクフィスィだ。
やはり自分がアキ達に同行するべきであったか、しかし、今 父の側を離れる訳にはいかない、父カゲシロは病気ではなく明らかに毒に侵されているのだ。弓月が訪れた今、事態は大きく動く筈だ。
「 おいペケ 何を隠してるの 」
「 あぁぁぁぁぁっ アキ こっちは頭の言いつけだから仕方ねくやってんだ 調子に乗んなよ 」
「 ペケだって 新しい名前また出来てよかったすねぇ兄貴 超ウケる どわッ!」
バッテンが超ウケているアカスケの頭を思いっ切り
アキとナナフシとクオンはバッテンとアカスケの案内で教授と呼ばれる学者猫の所に地下のルートを使用して向かっていた。
「 おい 新宿猫ども そもそも何でジャカゲは出てこねぇんだよ 」
「 ジャカゲって?」
ナナフシの言葉にアキが質問する。
「 ジャカゲは今の新宿猫の大親分だよ 」
「 さっきの粋な姐さんは先代の娘って言ってたよね 」
「 あゝ 先代カゲシロはウチのゲジガジ親分とも懇意にしてた 比較的穏健派のリーダーだったんだがな 去年病気で倒れ失脚したんだ 今のジャカゲはバリバリの武闘派だぞ 」
「 それで先代の娘が外周りねぇ 」
「 それでも俺らは多摩のゲジガジ親分からの客分だ 礼儀を重んじるこの世界じゃジャカゲ自ら相手すんのが筋ってもんだ それが中へも通さずあんなちんけな公園で済ませやがって 」
「 それは中に見られては不味いものがあるからであろう 」
クオンが鋭い指摘を行う。
「 こいつらとっちめて吐かせるか 」
そう言ってナナフシが身体のどこかの関節をボキボキ鳴らす。
「 アカスケ 何も喋んなよ 」
「 わかってるよ兄貴 」
「 まあまあナナフシ 気にはなるけど他所の内輪の話に首突っ込んでもさぁ 僕らは学者猫が見つかればそれでいいんだしさ 」
「 それもそうだな ジャカゲの体制になってウチとは疎遠になってっから関係ねぇか だが新宿猫 ウチのゲジガジ親分は仁義に暑い猫だ カゲシロのオヤジに困ったことがあるなら言って来いと伝えとけ 」
「 ……わかった 」
バッテンが目をそらし覇気のない返事をする。
そうこうしてる内に1匹の茶白の猫に出くわした。その猫は背中に何やら重そうな荷物を背負って四苦八苦している様子だ。
「 おい おめぇ確か教授んとこの猫だよな 」
バッテンが声を掛ける。
「 うわっ 犬! 犬! 貴方達の後ろに犬がいますよ 」
ワン!
「 ひぇぇぇっ お助けをぉぉぉ 」
茶白猫はクオンの鳴き声に腰を抜かし背中の荷物をばら撒いた。
「 また 先生 脅かしちゃダメですよ 」
「 すまんすまん 猫に怖がられるとついやってしまう 犬の性ってやつだ 許せ 」
アキの言葉にクオンが悪怯れもせずに堂々と答える。
「 ほんと ヤメて下せぃよ おいらもションベンちびっちまったじゃねぇですか 」
ついでにアカスケまでも腰を抜かしている様子だ。
「 情けねぇなぁ 本当におまえらあの新宿猫エチュードかよ 」
ナナフシの言葉にバッテンが不機嫌にアカスケの頭をまた無言で思いっ切り叩く。
「 イテっ 」
アキはばら撒かれた荷物を拾い集める、それは人間の本であった。
「 あっ ありがとうございます 」
「 別に怖がらなくていいよ あのお犬様は僕らの連れだから 君 教授を知ってるの?」
「 あっ はい 僕は教授の助手でサンって言います 御茶ノ水で珍しい本が出たから仕入れて来いって教授に言われて その帰りなんですけど 」
「 ちょうどよかったな なら後はそいつに案内してもらえ 俺らは帰んぞ 」
そう言うとバッテンはアカスケを促しさっさと姿を消した。
「 なんだアイツら 」
「 やっぱ何か隠してるよね 」
ナナフシとアキが怪訝な目で見送る。
「 兄貴 いいのかい 頭が俺ら2人も付けたって事は監視しろって事だろ 」
「 わかってる わかってるがアキの野郎は感が鋭い 俺らじゃきっとボロが出る しかもあのヘンテコリンと黒柴のクオンが一緒だ 」
「 逆に打ち明けて力になってもらうってのは?このままじゃカゲシロ様とフミ様がヤバいじゃん ジャカゲの野郎がいつ何するか アイツらが味方に付いてくれるなら百人力 いや千人力だ 」
「 時間がねぇ そんなことをしている時間はな 本来こんな重要な事にゃ頭は必ずモンジを使う なのに今回モンジを残して役立たずの俺らを使った あの弓月とかいうヤツらが来たのもあるだろうが嫌な胸騒ぎがするんだよ 」
「 やめてくれよ 兄貴のそういうの当たるんだよなぁ 」
「 とにかく 急いで戻るぞアカ 」
「 了解 」
フィィィィィッ!
シャァァァァァァァッ!
「 チっ 予定変更だ カササギとクロチィーは計画通り脱出しろ 俺は弓月メシュードとしてジャカゲを討つ 」
新宿地下の一角で興奮した新宿猫達に囲まれコクモンジャカゲとメシュードサブが今激突しようとしていた。
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