第21話 管狐 のイイズナ
「 テメェ イタチじゃねぇな 」
クロチィーらは結局イタチの群れのボスに従い彼らのアジトへと着いて行く事となった。そこは古い雑居ビルの地下にある今は使われていないボイラー室で換気用のダクトから複雑な経路をつたい侵入する。
サブが目の前の小さなイタチに言う、室内には先程襲って来たイタチらが身構えて取り囲んでいる状況だ。
「 私はイイズナ この町でイイズナは私だけだからそのまま名前にしてある 」
壁際を這うパイプの上ちょこりんと座ったイタチがクロチィーらを見下ろしながら口を開く。
「 イイズナ?聞いたことあるなぁ 確かイイズナって言やぁ
「 兄ぃ イタチなのにキツネなんすか 何なんすそりゃ?」
カササギが話に割って入る。
「 もののけや妖怪の類いだよ 」
「 人聞きの悪いこと言うんじゃないさ れっきとしたイタチ科の動物だよ 猫 」
サブの言葉にイイズナが返す。
イイズナは他のイタチより色鮮やかな茶褐色で顎の下から腹にかけてはくっきりとした純白の柔らかそうな毛で被われている。
「 それで俺らをどうする気だ イイズナさんよ 猫なんか食ってもうまかねぇぞ 」
「 あんたらのその格好 旅をしているんだろう ちょいと頼み事を引き受けてくれ 」
「 悪りぃ 急いでんだ イタチの頼み聞いてる暇はねぇ 」
「 この町は私らの縄張りだ タダで通すとでも思うかい 猫 」
サブが困った顔をしてカササギを見遣る。
「 おい カササギ 何が問題無いだよ 問題大有りじゃねぇかよ 」
「 おっかしいなぁ この辺はトラブルも少なくて平和な地域のはずなんすよ 」
「 それはいったいいつの話だ?」
カササギの言葉にイイズナが呆れ顔で履き捨てる。
「 ちゃんと説明してくれ イイズナ 」
「 始まりは3年前 奇妙な猫が現れてからだ 半分黒猫半分白猫 」
「 …… 」
「 それから猫どもがおかしくなった それでイタチ族の危機に御山から私が呼ばれたってわけだ 今は川向うに押し込んでいる 」
「 それで 俺らにどうしろと 」
「 あいつらのリーダーに話をしに行って欲しい リーダーさえどうにか出来ればまだ平和的解決の道はある それが出来なければ血で血を洗う全面戦争だ それは私らとて本意では無い 」
「 断ったら?」
「 貴様らから血祭りだ 死体を境界の橋にぶら下げてやる 」
キィーッ!っと取り囲んだイタチ達が牙を剥き興奮して威嚇する。
「 わかったわかった こちとらも旅の渡世猫だ いざこざを知らん顔じゃぁ男がすたるっつうもんよ いいだろう 話をしに行くよ 」
「 小さいのは人質に置いてきな 信用したわけじゃないからな そのかわり帰ってくるまでの安全は保証してやる 」
「 しゃあねぇなぁ クロチィー 大丈夫か?」
「 うん 大丈夫だよ イタチさんたちとお留守番してたらいいんでしょ 」
「 ……まあ そんな感じだ ンじゃ 時間が勿体ねぇ カササギ 行くぞ 誰か境界の橋とやらまで案内してくれ 」
そうしてサブとカササギは1匹のイタチに伴われクロチィーを残しその場を後にする。
サブとカササギは川に架かる鉄橋に来ていた。鉄橋の手前にはずらりとイタチ達が並び警戒態勢をとっている。
「 橋って こっちの橋かよ 」
「 当たり前だ お前ら媚び売った猫と違ってなぁ俺らイタチ族は人間なんかの目に触れないように生きているんだ 人間の渡る橋など使えるか まあ橋なんか無くても川渡るくらい俺らなら屁でも無いがな 」
「 こそこそ生きてるだけじゃんか イタ公 」
「 何だと!」
「 やめねぇか 」
案内係のイタチとカササギの間にサブが割って入る。
「 橋の下の鉄骨のルートを通りな 電車が上を通ると音で耳がやられるし振動で落っこちる可能性がある それだけは注意しろ 今から30分後に貨物が通る それまでは大丈夫だ 向こうにも警備の猫が居ると思う 後はそいつらに聞け 」
「 わかった あんがとよ 必ず戻って来るが状況はあちらさん次第だ 時間的猶予は欲しい 」
「 いいだろう イイズナ様には伝えておく 」
「 頼んだ じゃぁ行くぞカササギ 」
「 へい じゃあなイタ公 」
サブとカササギは鉄橋の下の狭い隙間に入って行く。
「 坊主 おまえ あの2匹と違い最近までは人間の飼い猫だろう 」
ボイラー室の隅の乾いた草や細く割かれた紙などが敷かれたふかふかした場所でイイズナがクロチィーに話しかけて来た。
「 どうしてわかるの 」
自分より小さなイイズナに坊主と呼ばれるのはなんだか不思議な感じだ、イイズナやイタチ達は牙を剥くと獰猛なケモノ感が半端なく恐ろしいが普通にしてると小さくて丸い耳やくりっとした目などがとても可愛らしい動物である。
「 臭いだね 人間臭い 」
「 人間は嫌いなの?」
「 人間が好きな奴らなんて犬かおまえら猫くらいだろ 坊主は人間が好きか?」
「 わからない 別にそんなこと考えたことないし 」
「 まあ生まれた時から飼われてたらそうだろうな おまえら猫族や犬族は人間との共存を選択した人間の縄張りの中で生きる動物だからな イタチも共存こそしないが人間の縄張りの中のほうが楽に生きれるからそうしてるのだろう だが私ら野山に住まう動物は違う 命が奪われるのは構わない 生きるとはそう言う事だからな しかし住処まで奪われる道理は無い 人間は平気でそれをやる 自分らの都合で野山や川を切り拓き切り崩す 環境を変え生態系を破壊する 私らは蹂躪され続けるばかりだ だから人間は嫌いだ 」
「 難しくてよくわからない 」
「 そのうちわかるさ 生きていればな それよりおまえらあの猫のことを知っているんだろう 」
「 あの猫って 黒白猫のアナキーのこと?イイズナさんも会ったの?」
「 いや 私は会って無い 後から話を聞いただけだ 奴は何をしようとしている?」
サブとカササギは鉄橋を渡り終え対岸に着くと早速警備に就いていた10数匹の猫達に囲まれた。
「 貴様ら何者だ 妙な格好をしているな 」
「 どうしてイタチたちの縄張りから来た 」
「 俺らは旅猫だ あんたらのボスに話がしたい 案内してくれ 」
サブの言葉に猫達は相談して案内してくれる事になった。案内された先は河川敷の結構な広さのある公園だった。
「 こりゃ渡世猫とは珍しいなあ 俺はこの一帯を仕切るミトラだ 」
公園に備え付けられた木製の遊具の高い所に1匹の大きなキジ白猫がいた。
「 あんたがここのボスかい 俺は旅猫のサブっていうもんだ 」
「 あっしはカササギともうしやす 」
「 それで旅猫さんが何の用だい 」
「 ちょいとイイズナに頼まれてね 」
「 イイズナ?イタチどもが山から連れてきたあの山イタチか 貴様ら猫のクセにイタチの手下に成り下がったのか あのチビにこっちは隊長格が何人殺られたと思ってんだ 」
「 勘違いしねぇでくれ 俺らはただムダな血を流すことねぇって思ったから引き受けただけだ 向こうは平和的な解決を望んでる 」
「 平和的だぁ そんなもんに何か意味あんのか?」
「 いやいや 別にイタチと争ってなんの得になるんだよ?」
「 こやつら あの山イタチに妙な術掛けられて操られておりんすえ あのおチビさんなら妖術の一つくらい使えても不思議やおへんしなぁ 」
ミトラの背後から
「 おまえ …… 厶ツメ なのか?」
サブの表情が一変して険しくなった。
「 おや?どっかで見た顔や思ったら弓月のメシュードのサブじゃないかえ これは奇遇でありんすのぉ 」
「 兄ぃ 厶ツメっていやぁ 」
カササギが身構えた。
「 あゝ 4年前に仲間5人を殺し弓月を抜けたお尋ね猫の厶ツメだ 」
「 知り合いかい厶ツメ 」
寄りかかったムツメに顔を近付けミトラが意味深に問う。
「 あい 昔あちきが男にしてやりんした そういやサブ 弟たちは首が胴体から離れちまったそうどすねぇ 」
「 ……何で知ってんだ?」
「 神父様の邪魔したらあきしまへんえ 弓月風情が弁えておくんなまし 」
ムツメの瞳が妖しい光を放つ。
「 カササギ!」
サブの大声と同時に2匹は踵を返し走り出した。前方の草むらから飛び出してきた猫達に体当たりをかまして突破する。そのまま2匹は暗闇に吸い込まれていった。
「 逃げられたな ムツメ 」
「 逃げもしないし逃がしゃしませんよ ミトラの親分さん 」
そう言ってムツメがフッと笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます