第17話 夜の終わり

 寝虚跨忌稲荷神社前では炎上爆発事故を起こした車両を中心に警察 消防 マスコミ と大騒ぎでスマホ上には緊急速報で『 深夜未明 の東京西部で車両炎上 運転手の男を緊急逮捕 テロ行為の可能性もあり 』と配信された。

 時を同じく2km程離れた住宅地の民家から出火する、この場所は前日にも真向かいの民家が不審火で全焼しており関連性から辺りは騒然となる。


 西東京中央公園では傷付いた猫の治療や行方不明者の確認やらで未だ慌ただしく猫達が出入りしている。

「 こっちの被害はどうだルチル 」

「 どうだもこうだもないよ ムチャク 見ての通りだよ 今のとこ死者は出て無いけど安否確認が取れない者や重傷者は多数さ 」

 ムチャクは俯き加減に目を伏せる。

「 すまない もう少し俺がうまくやれれば 」

「 何言ってんだい 時間的猶予もないなか神社も公園も守れたんだよ 情けない顔してないで胸をお張りよ それで神社の方はどうなんだい 」

「 あっちは人間どもが大騒ぎしてて近づけねぇ しばらくはムリだろうな 怪我人と犠牲者だけはなんとか回収出来たんだがな 」

「 どれくらいやられたんだい 」

「 人間の弓矢に12匹 爆発に巻き込まれたのが3匹 他はまだ確認がとれてない 」

「 結構やられたんだねぇ あとが大変だよ 」

「 わかってる 」

「 サブさんともう1人のあのすっとこどっこいは……

「 カササギでやんすよルチルの姐御 覚えてくだせぇよ 」

 茂みの中から1匹の黒猫が飛び出して来た。

「 お 脅かすんじゃないよ このすっとこどっこい 」

「 なんだ サブさんと一緒に例の家を見に行ったんじゃねぇのか カササギ 」

「 それがね ムチャクの旦那 ちょいとありまして 電波塔ってとこに来てくれって 言付かりましてね 」

「 アキの縄張りだねえ 」

「 そういやアキの野郎 この大変な時になにしてやがんだ こっちを加勢してるもんと思ってあてにしてたのによぅ 」

 それからムチャクとルチルとカササギは公園を後にアキの縄張りであるアンテナ基地局に向かった。


「 クロチィー!」

 アキの縄張りに到着してフェンスを抜けるなりルチルがクロチィーを目にし駆け出し飛び付いた。

「 うわぁ ちょっと ルチル やめてよ 」

 ルチルはクロチィーを押さえ付け猫パンチしたり噛み付いたり舐め回したりする。

「 どういうことだ アキ 説明しろよ 」

 ムチャクが不思議そうな顔で塔の上に寝そべるアキに問いかける。

「 そろそろ話してくれよ兄ちゃん 」

 塔の下にはサブも居た。サブとカササギは例の家を偵察に行く途中にアキとクロチィーに出くわしていたのだ。

「 だぁからぁ はぐれ猫が六ヶ村を攻めてるすきにあの家からクロチィーを連れだしたんだよ 」

「 うわぁ なんと大胆な あそこに潜入したんすか えっと アキさん でしたっけ 」

 カササギが驚いた表情で言う。

「 弓月とやらの殺し屋の黒猫達がすきを作ってくれたからね 」

「 ガシュードか アイツらは?」

 目つきが変わりサブがアキに問う。

「 すまん 全滅した 僕じゃどうしようも出来なかった だから彼らが作ったそのすきを利用させてもらった 」

「 ガシュードは人間に殺られたのか 」

「 いや 人間が用意していた訓練された犬にやられたみたいだ 」

「 まじっすか まさか犬ッコロまで準備してたなんて でも あのガシュードが全滅だなんて 」

「 最後の1人は脱出を試みたんだが帰って来た人間の女と鉢合わせになって 運が悪かった それでも家に残ってたはぐれ猫20匹ほどと犬2匹は仕留めてた 残りの犬も再起不能だろう 僕ははぐれ猫の生き残りに成りすまし黒白猫に近づけたんだ 」

「 アナフィと接触したのか?」

「 接触も何も 僕は人間の女に抱かれてて生きた心地がしなかったからね 一瞬の隙を見てクロチィーを助けるのに精一杯だよ 」

「 アナフィと人間の関係はわかんねぇんですか その主従関係みたいなのは 」

「 う〜ん なんか普通に話してたよ 女の子たちはアナキーって親しく呼んでた 黒白猫も女の子たちを名前で呼んでたかな まあ黒白猫の方が父親みたいな感じに話してたかなぁ 」

「 ちょっと待てアキ 人間の女は1人じゃないのか?」

 ムチャクも話に加わる。

「 うん 2人いたよ しかも同じ顔のたぶん外国人 いやハーフなのかな ハーフの若い双子の姉妹だと思う 」

「 そのアナフィ いやアナキーは人間と会話が出来るんでやんすか 」

「 さあね ヤツが人間と会話してるのか人間がヤツと会話してるのかはわからないよ ただあの3人の間だけで成立してるんじゃないのかなぁ アナキーは他の人間とは会話は出来ない 女の子たちはアナキー以外の猫とは会話は出来ない そんな感じだったよ 」

「 以心伝心ってヤツっすか 」

「 クロチは大丈夫なのか 」

 今だにルチルにグリグリされているクロチィーを見遣りムチャクが問う。

「 なんだか少しショックが大きいみたいだね シシアがどうなったかあそこで知ったみたいだから 」

「 やっぱり生きちゃいなかったのか 」

「 あゝ 無惨な姿で額に飾られてた 」

「 なんてことしやがんだ 」

「 体のほうは僕が見た感じだと何ともないと思うよ 」

「 それでアイツらは 」

「 僕もしばらくは動くのは得策じゃないって思って近くにクロチィーと身を隠してたんだ そしたらあの家の方角から火の手が上がって おそらく自ら火を放ったんだと思う 家の中は猫の死体だらけだからね さすがにあそこで人間として今まで通り生活を続けるのは不可能だよ 」

「 ならヤツら 家を燃やして逃げ出したってことなのか 」

「 あゝ ムチャク達六ヶ村会の完全勝利だ もうこの街には居ないだろう 」



( 第一部 完 )

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