第14話 雷鳴
ルチルとアキはアキの縄張りである電波塔で西東京六ヶ村の長であるシロじいから事の経緯を聞いていた。お供の三毛猫の1匹も同行している、シロじいの話は分かりづらいのでいちいち三毛猫が補足しなければならず( これなら最初から三毛が説明した方が手っ取り早いんじゃないかい )とルチルは思ってしまう。
「 おジイは長老会出席しなくて こんなとこで油売ってていいのかい 」
「 ワシは堅っ苦しいのは苦手じゃ 女の子1人もおらんしな 何が楽しゅうてあんな連中と縁の下でこそこそやらなならんのじゃ コホッ 」
「 長様だろう いいのかねえ それでシシアの飼い主がなんではぐれ猫なんて使ってんだい 意味わかんないよ それで毒餌撒いてるんでしょ 」
ルチルが鉄骨の上にだらしなく寝そべったアキに視線を向ける。
「 どうだかなルチル 昔から動物を使役する人間はいるみたいだけど それじゃあ黒白猫との繋がりがわからない 僕の読みじゃぁはぐれ猫たちを使ってたのは黒白猫だった なら素直に考えたならその人間を使ってるのも黒白猫なんじゃないのかなぁ 」
「 ちょっと待ちなよアキ じゃあ黒白猫が人間様まで使役してるって言うのかい 」
「 僕はその方が納得いくんだけどなぁ 」
「 確かに猫に憑かれてしまう人間もおるがのう あれは人間の側に問題がある場合がほとんどじゃ 複雑で儘ならない人間社会に疲弊して自ら一線を越えてくるんじゃ 」
「 じい様 その場合言いなりになるのかい 」
「 さあのう そもそもワシら猫は気ままな生き物じゃ 何かを言いなりにしようなぞ思わんからのう 向こうから一方的に構ってくるだけじゃろうて 」
「 確かに猫ババァとかウザいよね 目合わせたら絶対話し掛けてくるもん 」
「 脱線してるよアキ 」
「 おっとっと で 気になるのはオトトの症状だよ あの辺はオトトの縄張りだから行動するのにオトトが邪魔なのはわかるよ でも殺されるんじゃなくってただ具合が悪くなってるだけだ 何故?」
「 そりゃ毒で殺したらムチャクや長老会が調査に動いて厄介だからじゃないのかい 」
「 さすがルチル 僕もそう思ったんだ ルチル やっぱり理解し合えるのは君だけだよ つがいになろうよ 」
「 バカ言ってないでサッサと話せ 」
「 …… でも それって僕たち猫目線だよねぇ 人間はそんなこと考えるかなぁ 」
「 そう言われりゃそうだねぇ 人間が長老会や組合のこと知ってるわけないもんね 」
「 だろう とにかく今わかってることはシシアの飼い主だった人間がはぐれ猫たちと何かやってる可能性が高い 黒白猫ははぐれ猫と繋がっている可能性がある その地区を縄張りにするオトトがシシアの飼い主だった人間の女から餌をもらい具合が悪くなる クロチィーの飼い主たちが救急車で運ばれる クロチィーの家が火事で全焼する クロチィーが行方不明 そして黒白猫を追っていた弓月の殺し屋の2匹が殺された それを調査していたムチャクとサブがはぐれ猫と人間の男に襲撃される すべてが繋がっているのならクロチィーはシシアの飼い主の家に捕まっている可能性があると思うんだけど 」
「 なら早く助けなきゃ アキ 」
「 待ってルチル 相手はあの殺し屋とムチャクの2人でさえも命からがら逃げださなければならないほどの相手だよ」
「 だからといってクロチィーをほっとけないじゃないか 」
「 わかってるよ じい様 長老会はどう動くんすか 」
「 今話し合っちょる最中じゃよ とりあえずオトトの保護には向かったはずじゃ おそらく守りを固める方向になるじゃろうな 」
「 おジイ 何消極的なこと言ってんだい そんなじゃクロチィーが…… 」
「 そう焦るでないルチル 露見した以上ヤツらは必ず動く しかも早ければ今夜じゃ その時がチャンスじゃ ゲホッ 」
「 サブの兄ぃ 状況は 」
長老会の出席を終えムチャクとサブはムチャクの縄張りである公園で待機していた。そこへ公園の茂みの中から1匹の黒猫が飛び出してきた。
「 カササギか ムチャク 紹介する弓月の連絡係のカササギだ カササギ こちらはここで世話になってる若頭のムチャクさんだ 」
「 これはこれは カササギにござんす お見知り置きを で サブの兄ぃ 」
「 サジとサナクが殺られた 」
「 冗談でしょ 」
「 冗談であって欲しいさ 」
「 マジなんすね 例のアナフィにですか 」
「 いや はぐれ猫と人間にだ アナフィとの関連性はまだわかっちゃいねぇ とにかく訳の分からん状況なんだ 」
「 上もそれを懸念してやす ヤツは混沌をもたらすッてね そんで悪い知らせです 」
「 これ以上悪いことがあんのかよ 」
「 へい ガシュードが投入されやした メシュードじゃ対処しきれないとの判断です 撤収してくだせぇ 」
「 ちょっと待て 今更引けるかよ サジとサナクが殺られたんだぞ それにここの長老会やムチャクたちにも世話になってる仁義ってもんがあんだろ ここの長は今夜はぐれ猫どもの襲撃があると読んでる 1人だけで見捨てて帰れるかよ 」
「 それはガシュードに任せれば 」
「 ヤツらが地猫のことなんか考えて行動するわけねぇだろう 自分らの任務であるアナフィ以外放置するに決まってる 俺は残るぜ 」
「 もう 命令違反は重罰でっせ あっしはちゃんと伝えましたからね 好きにしてくだせぇ 」
「 いいのかいサブさん 」
「 あゝ ムチャク ここで引いちゃあ男がすたるってもんだ 最後まで付き合うぜ 」
「 で ガシュードって何なんだ?」
「 弓月の精鋭部隊だ モノホンの殺し屋たちさ 任務遂行の為なら他者だろうが自身だろうが平気で犠牲に出来るヤツらだ 」
「 そんなんまでいんのかよ 」
「 耳に届いたってことはもう行動してるはずだ 今夜は荒れるぞ 巻き込まれんように注意を促す伝達を頼む 」
「 わかった サブさんもジジイ同様今夜動くと見てんのか?」
「 あゝ 必ず動く わかった上でのガシュードの投入だ そうだろう カササギ 」
「 さあぁ どうだかなぁぁ 」
「 とぼけやがって 用が済んだらサッサと報告に帰れよ 」
「 んなこと言わんでくだせぇよ兄ぃ あっしも付き合いますよ 戦力は多いに越したことないっしょ はぐれ猫200はいますぜ 」
「 ちょっと待ってくれ うちの河川敷のヤツらはせいぜい30くらいだぞ 昨日交差点で5匹以上は巻き込まれたから残りは25前後のはずだろ 計算合わねぇよ 」
「 近隣の町のを計算に入れてませんぜ ムチャクの旦那 」
ゾクリと背筋が凍りつく。
クロチィーは1人きりの室内で額縁を見上げていた。
額の中の猫アペルピシアはかつてはスィスィアとして生きた猫だった、しかし今はスィスィアではなくアペルピシアだ。こんな猫 クロチィーは知らない。
「 待っててシシア シシアは可哀想な猫でもなければアペルピシアでもない シシアはシシアだ どうしてみんなそんなこともわからないんだろう 僕が必ず……僕が必ず…… 」
クロチィーは続けるべき言葉を持っていなかった。
「 僕が必ず…… 」
クロチィーは続けるべき言葉を持っていなかった。
うみゃゃぉ
みゃゃぉ
みゃゃぉ
みゃゃぉ
みゃぉ
クロチィーは額縁を見上げて鳴き続けた。
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