第9話 西東京六ヶ村新月定例集会 其の参 濁流

「 改めて俺は旅猫のサブだ この西東京六ヶ村の新月の会に寄ったのはある猫を追ってのことだ この猫は半分白猫で半分黒猫のハーフ・アンド・ハーフでアナク博士或いはフィスィ神父と名乗ってるようだ 何故2つの名を使っているのかは分からん 俺らはアナフィと呼んでいる この猫が少し前からここ西東京の何処かにいるとの情報を掴み数日前に俺もここに来たんだ だが足取りがまったく掴めねぇ んで ちょうど新月の会だったんでここに顔を出したつうわけだ 情報が欲しいんでな 」

「 何で旅猫様のあんたがその猫を追ってるんだ 」

 少しトゲのあるムチャクの言葉にサブの表情は一瞬イラついたように見えたが気を取り直しムチャクに答える。

「 俺ら渡世猫も別に無所属っつうわけじゃねぇんだ まぁそういうヤツもいるがな 俺はメシュードってとこに属してる そんでそこからの依頼だ 」

「 さっきから気になるんだが『 俺ら 』ってサブさん1人じゃねぇってことだよな 」

「 あゝ あと2人いる 」

「 この地域は西東京六ヶ村長老会が統括してる あんまし勝手なことされちゃ困んだがな 」

「 だから手順を間違えたッて言ったんだ 関東近郊の猫コミュニティは昨今じゃ壊滅状態だからな ここも崩壊して機能して無いもんと思い込んでた 筋を通さなかった事は謝る

だから会に顔を出したんだ さっきのは勢いでついッてやつだ 血の気が多い質なもんでな 許してくれ 」

「 まあ その辺はわかった それでその黒白猫をあんたらは何で追ってるんだ 依頼ったって理由はあるだろう 」

「 分かんねぇ 」

「 あのなぁ 」

「 本当に分かんねぇんだよ とにかくヤツは得体が知れなさすぎるんだ 各地で妙な教義を拡めている この世界を絶望に満たす器にするとかなんとかだ 本来なら単なる頭のイカれた猫にすぎん だが ヤツが現れた後 必ず悪い事が起きる 」

「 悪いことって何だ 」

「 様々だ 疫病が流行ることもあれば人間といざこざを起こす事もある ある隔絶した集落じゃ丸ごと猫が居なくなった 追えば追うほど訳が分かんねぇんだよ 」

「 なんだそりゃ 疫病神ってことか?」

「 まぁそんなとこだな 」

「 で そいつを捕まえてどうするつもりなんだ 」

「 訳の分からん事は訳の分からんままで終わらせる それが俺らの上の判断だ この手の話は分かった時には手遅れって事がままあるからな 」

 ムチャクの頸の裏側を何かが駆け上がる、これは関わるべき話ではない、サブの言う『 終わらせる 』と言うワードが不吉に思えてならないしサブの属するメシュードという組織だか団体が怪しすぎる。猫の社会にも当然裏側は存在するのだ、これはそういった裏側の話であるように思える。関わるべきでは無い。

「 だいたいの事情は分かった だが集会を聞いてたんなら分かったと思うが黒白猫については噂だけで具体的な話は皆無だ 俺も随分聴き込んだが噂の出所すら分からねぇ 悪いが力になれることは何も無い 」

「 分かった 俺もヤツがここに姿も現さずに長期間潜伏してるとは思えんが一応仕事なもんでな 調査だけはきちっとやっときたいんだ その許しをもらいたい 」

「 それは長老会が判断する 」

「 分かった 俺らは長老会の判断には従う 」

「 みんなもそれで異存はないよな 」

 2人のやりとりをポカンと聞いていた猫達からの反応は無い。

「 なら今日の新月定例集会はこれにて終了とする 長老会の裁定については後日連絡係により伝達する くれぐれも勝手な判断と行動は慎むように 以上 解散 」

 ムチャクの声に猫達はガヤガヤと公園を散り散りに後にする。


「 ルチル アキを捕まえといてくれ 俺は長老会と話してくる 」

「 あいよ 」

「 サブさん あんたも来てくれ 」

「 おうよ 」

 ムチャクもサブを伴い公園から出て行った。

「 アキ 聞いてただろ 逃げんじゃないよ 」

「 へいへい 」

「 おジイ あんた長老会だろ 行かなくていいのかい 」

「 行ったってどうせワシは除け者じゃろうて 」

「 何 ネガってんだい じゃあムチャクの隠れ家に入るかい 」

 ルチルの言葉にクロチィーとアキと長である長老猫のシロの4人は倉庫の下の隠れ家に潜り込む。

「 アキ 怪我はしなかったかい?」

「 してたら優しくまた舐めてくれるかい ルチル 」

「 バカ言ってんじゃないよ バカ 」

「 じゃあ大丈夫だ 」

「 何だいそりゃ 」

 ルチルがプイとアキから顔をそむける。

「 アキよ 実際やり合ってどうじゃった?」

 シロじいがアキに問う。

「 じい様 ありゃ殺し屋だな さっさと追い出さなきゃ血の雨が降るぜ 」

「 やはり猫殺しか 」

「 ちょっと 物騒な話はおやめよ 冗談だろ 」

「 いんや 冗談じゃないよルチル 僕も裏側にはちょっとだけ首を突っ込んだ猫だからね

あのサブっていう猫は単なる旅猫なんかじゃないよ 喧嘩なら負ける気はしないけど殺し合いなら勝てる気がしないな 」

「 やめとくれよ 怖い話は ねえクロチィー 」

 ルチルがクロチィーにピタリとくっ付く。

「 猫殺しってなぁに?」

「 クロチィーはんなこと知らなくていいよ

で じい様 メシュードになんか心当たりは無いの 」

「 メシュードか 漢字なら召し人じゃな 召使い 或いは囚人となるのお 弓月ゆみつきにそんな奴らがおったような おらんやったような コホッ 」

「 頼りにならんじい様だなぁ 」

「 こらアキ これでも一応長なんだよ ボケ老人扱いはおよしよ で おジイ 弓月って何なんだい ボケてたら承知しないよ 」

「 何気にルチルが1番ワシのことディスっておらんか ゲホッ 弓月とは昔この国の猫達を統括しておった朝廷みたいなもんじゃ もう何百年も前に滅んだはずじゃがの 」

「 何で滅んだんだい 」

「 さすがに知らんわい ワシの生まれるずっと前の話じゃぞ ただ 弓月の昔話にそんな下人衆の話があったような無かったような 確か罪人を呪いで使役するとかなんとか 」

「 はっきりしない痴呆話だねぇ 」

「 まあまあ 問題はそんな胡散臭い連中が追ってる黒白猫だよね 僕もムチャクの鼻をあかそうと思って少しばかり当たってみたけど成果ゼロだもんな ただはぐれ猫のグループのいくつかが最近居なくなってるんだ 」

「 はぐれ猫ってなぁに?」

クロチィーがアキに聞く。答えたのはルチルだった。

「 コミュニティに属してない半端者さ まあ猫社会のはみ出し者ってとこだねクロチィー

でもアキ 彼奴等が居なくなるなんて別に珍しくもないだろ どうせ居心地のいい場所見つけて移ったんじゃないのかい 」

「 そうなんだけどね 何か気になるんだ 」

「 何か奥歯に物が挟まった言い方だねぇ それで?」

「 そいつらが居なくなる前に神父様がどうとかとか訳の分からん話をしてたらしいんだ

さっきの話じゃ博士とか神父とか呼ばれてたんだろ その黒白猫は 」

「 じゃあ噂の出所ははぐれ猫かい 」

「 おそらくね で 出所ごと消えちまった これじゃあ分かる訳ないよ 」

「 でも 消えたんなら一緒に黒白猫ももう居ないんじゃないのかい 」

「 ならいいんだけどね じい様 どう思う?

って寝てんのかよ 」

「 死んだんじゃないのかい 息して無いよ 」

「 ゲホッ 」

「 あっ 生きてた 」

 クロチィーも緊張から解放されてか何だか眠くなりそのまま眠ってしまった。


「 アキ 何を隠してるんだい 」

 ルチルはアキを外に連れ出していた。

「 いやね はぐれ猫どもは実は別件で当たってたんだ 」

「 別件って何だい?」

「 嫌な噂を聞いてね 」

「 だからそれはなんなのさ?」

「 あるグループがひと月ほど前に若いメス猫を捕まえて拉致してるってね 」

「 それってまさか…… 」

「 あゝ おそらくクロチィーのシシアだ 」

「 何てことを あのクズども 」

 ルチルの目から涙が溢れた。

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