【第19話】 苦労人と一ヶ月の記憶(急)
これを皮切りに忌まわしい過去の記憶が明かされる。
例えばその翌日のこと。
「では、本日は
「……すいません、王妃様。僕、昨日、あの薬飲んでからの記憶が全くないんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
あの後、感性を三○○○倍にする薬を飲んで「んほぉ!」したのだが、その後の記憶がなく、いつの間にか一日経っていた。
おまけに胃がもたれ、舌も痺れてる。体には発疹の痕もあった。
明らかに副作用的な症状が現れてる。ヤバい。
反面、体内の魔力を感じる力は格段に上がっていた。
今では念じるだけで魔力操作も可能となった。
……なったのだが、なんか釈然としない。
「自然魔力は大気中にほぼ無尽蔵にあります。これを取り込めば、より魔力を消費する魔術の使用が可能となります」
「要するに足りない分を自然魔力から持ってくるんですね?」
「その通り。しかし、自然魔力を取り込むには独自の呼吸方法が必要となります。なので、今回はその呼吸方法をお教えします」
「はい!」
元気よく返事をする歩夢。
幸か不幸か、魔力を感じる力は上がっている。当然自然魔力も感知できる。
昨日、意識を失った分の遅れを取り戻さなければならないのもあり、歩夢はやる気に溢れていた。
「……ですが、この呼吸方法は早くても習得に一ヶ月かかります。故に、今回はこれを使います」
「まさか……」
しかし、そのやる気はすぐに枯渇する羽目になる。
王妃の用意したもの、それはなんか毒々しい感じの草が浮いた、禍々しい色合いの液体に満たされた水槽であった。
ボコボコ弾ける気泡が、より不気味さを掻き立てる。
「……これは?」
「“マナカンジール藻”と言う薬草を煮詰めた薬草湯です。本日はこれに入ってもらいます」
「薬草湯でなくて毒草湯の間違いでは!?」
曰く、マナカンジール藻とかいう薬草は肌に塗ると自然魔力を取り込みやすくなる効能があるそうだ。
「百歩譲ってこれが薬草だとしても、こんなに煮詰める必要あるんですか!? なんか、煮詰め過ぎて毒の沼みたいに泡がでてるし!」
「あぁ、それはこの薬草のエキスが百度超えてから抽出されるからです。大丈夫、今は冷めて半分くらいに下がってますので」
「それでも熱い……」
熱湯コマーシャルじゃあるまいし、こんなのに入る人間の気が知れない。
まぁ、その入る人間は自分なのだが。
「では、早速入ってください。肩まで浸かって百数えてくださいね」
「いや、嫌です」
「入ってください」
「いや、ですから……」
「入ってください」
「…………」
有無を言わさず薬草湯――否、熱湯風呂までグイグイ押してくる王妃様。
あっという間に、淵の近くまで追いやられてしまう。そして……
「やだやだ、押すなよ絶対押すなよ!? これ振りじゃなくて、真面目な話アーーーーーッ‼」
抵抗空しく、歩夢は熱湯風呂へと突き落とされてしまったのであった。
「本日は座学です。魔術の基礎的な知識を覚えていただきます。分からないところは手を上げて質問してください」
「……すいません。じゃあ、質問」
「なんでしょう?」
「僕、一昨日の記憶が全くなくなってるんですけど、なにがあったんでしょうか?」
「……いえ、なにも」
「嘘だ! そんなことぉぉぉぉぉぉ!」
二日後。なんか薬草湯に突き落とされてからの記憶がないうちに次のステップへと移ったことに憤りを覚えず得ない歩夢。
しかし、エステルは目を合わせず、シレっと流す。
「大丈夫。なにもありませんでした。なにも……ありま……せんでした……」
「なんで歯切れが悪くなったんですか!? なんで裏切ったんですか!? 押すなよって言ったのに‼」
まぁ、あの薬草湯の効果か、現在歩夢は自然魔力を取り入れる技術を、いつの間にか得たわけだが……
それよりも問題なのは現状である。
「他に質問はありますか?」
「じゃあ、もう一つ質問」
「なんでしょう?」
「なんで僕、椅子に括りつけられてるんですかね? あと、頭に被せられた装置は何なんですかね?」
現在歩夢は電気椅子に括りつけられた処刑人よろしく、変なヘルメットを被せられ体中のいたるところにコードを取り付けあれていた。
「それは私が開発した学習装置です。それを使えば、短期間で魔術の知識を得ることができます」
どうやら時間を短縮するための措置だそうだ。
……今までの経験からして嫌な予感がする。
「すいません、最後にもう一つ」
「なんでしょうか?」
「安全性の方はどうなんでしょうか?」
「大丈夫です。今までのその装置を使って、失敗はしてません」
「あ、そうなんですか? それは良かった……」
「まぁ、今日初めて使うから成功もしてませんが(ボソッ)」
「今、なんて言った!? 聞き捨てならないこといいませんでしたか!?」
しかし、抗議も空しくエステルはスイッチをオン。
装置は起動し、歩夢の脳内に膨大な量の知識がインストールされる。
「あいやああああああ‼」
しかし、大量のデータに耐えきれず、歩夢は悲鳴を上げ、その後、意識を失った……
そして、現在――
他にも「無詠唱を会得するために第六感・第七感を会得してもらいます」
――とか言われて、人の頭蓋くらい簡単に貫けそうな長さの針で頭のツボを刺激されたり……
「本日は体内にある魔力回路を起動させます」
などと供述し、ショッ〇ーよろしく円形の手術台に寝かされなんかされたりとロクでもない記憶を次々と思い出してしまった。
恐らくは無意識だったのだろう。精神の崩壊を防ぐため、この一ヶ月の経験を自ら封印していたようだが……結局、思い出してしまったらしい。
すべての記憶を思い出した歩夢は……
「おぼろろろろろろろろろろ…………‼」
「吐いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
あまりの酷さにリバース。
胃の中のものすべて吐き出してしまった。
「おいいいいいい‼ なにしとんじゃ!? ワシの城に‼」
「やかましい‼ お前らこそ僕の身体になにしとんじゃ!?」
キシャーッ! と威嚇するよう歩夢。その目は最早敵を見る目である。
「人の身体好き勝手いじりやがって! 謝れ、コノヤロー!」
「しゃあないじゃろ! お主を魔術学園に入学できるようにするには強引な手段が必要だったんじゃ。じゃからワシは謝らん!」
「なに開き直ってんの!? ぶっ殺すよ!? しまいには!?」
「しまむらっ‼」
問答無用とばかりに鉄拳制裁。
世界を狙えそうなアッパーカットをギースに叩き込む歩夢であった。
苦労人勇者の受難交差 @Jbomadao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます