【第14話】 転移者たちのその頃(3)


『さぁて、では次に行ってみましょうか?』

「な、なにをする気だ!?」

『なにって決まってるでしょう? ――見せしめですよぉ』


 言うとシェリスは指を鳴らす。すると鎖で拘束された十数名の男たちが魔族に引っ張られながら姿を現した。


「な!? あの人たちは!?」

『はい、察しの通り。彼らは国を守るために戦った立派な兵士さんたちですよ~』


 シェリスが小ばかにするように説明すると、数名の兵士が映像に気づき声を上げた。


『な!? あれは勇者様たち!?』

『馬鹿な!? 彼らは今、城の中で戦っているのではなかったのか!?』

『いったいどこにいるんだ!?』

「え!? ど、どういうことだ!?」


 彼らの反応がおかしいことに気づいた数名が、国王や大司祭に視線を向けると、彼らはスッと目を逸らした。

 その反応だけで、彼らは自分たちが逃げたことを知らされていなかったことを悟る。


『えー、捕虜の皆さん。聞いてください。勇者様たちは現在、国王陛下や大司祭様・他の貴族様らと副都におりまして、そこで態勢を立て直すそうですよぉ』

『な、なんだと!?』

『う、嘘だ! 国王は“すぐに勇者たちを向かわせる”と言ってくださったのに……』

『俺たちは捨て駒にされたのか……!?』


 真実を告げられ、兵士たちの表情は絶望へと染まる。


『さぁて、勇者様? 先ほど言いましたよねぇ。“俺たちは降伏なんてしないぞ‼ やれるものならやってみろ‼ 俺はお前を許さない‼”って』

「い、いや、だってそれは……」

『それってつまり、彼らが殺されてもどうでもいいってことですよねぇ?』

「ち、違――――!」

『違いませんよ? 最初に“降伏しない”と断言した以上、人質は何人殺しても構わないと言っているのと同じなので』


 人質は数が多ければ多いほど、意味がある。

 つまり相手側が“交渉しない”と選択した時点で意味をなくす。

 意味をなくした以上、これ以上手元に置く必要はないということだ。


『自分の言葉には責任を取ってもらわないと……やりなさい』

『はっ‼』


 シェリスの号令と共に、魔族たちは捕らえた兵士たちの処刑を開始した。

 それは、まさに地獄という光景だった。


 ある者は鋸で肉体を削がれていき、ある者は電流を流され、ある者はくし刺しにされ……

 一人、また一人と拷問の末に死んでいった。


『いやだ! 死にたくない! 助けてくれぇぇぇぇぇ!』

『勇者様、助け……ぎゃああああああああああ!』

『ちくしょう! なにが勇者だ! 俺たちを見捨てやがって!』

「あ、あ…………」


 絶叫、懇願、恨み節……兵士たちが次々と殺されていく陰惨な光景に平和を謳歌し、遊び半分で勇者をやっていた生徒たちの心は圧し折られていった。

 目を背ける者。泣き出す者。嘔吐する者。中には失禁・失神する者まで出始めた。


『いやだ……死にたくない……死にたくないよぉぉぉぉぉ』


 最後の一人が火刑に処され、拷問ショーが終わりを告げた頃には、最早、まともに立っているものはいなかった。


『あーあ、残念。もう終わっちゃいました。あれ? みなさん、どうしたんですか? ひょっとして、ようやく自分たちが戦争してることに気づきましたぁ?』


 煽るシェリスに最早、誰一人として返事をする者はおらず、ただただ呆然とするだけ。

 そんな勇者たちを見てシェリスは「なぁんだ、つまらない」とため息を吐いた。


『まっ、ここらがお子ちゃまの限界ですかね。これにて放送は終わりです。皆さん、ご視聴ありがとうございました~』


 映像を打ち切ろうとするシェリスが胸元から水晶玉を取り出した。

 だが、ふと何かを思い出したかのような仕草をし「あぁ、そうだ。最後に重要なお知らせがありま~す」と更なる、凶報を告げる。


『実は魔王様はこの度、御退位なさることが決定されました。拍手~☆』

「な……!?」


 倒すべき存在である魔王が戦争を前にして退位するなど、常識では考えられない行為だ。そんな報告に国王と大司教が困惑する。


「だ、大司教! これはどういうことなのじゃ!?」

「わ、分かりませぬ! 魔王が退位などと……」

『信じられませんよねぇ? でも事実なんです。 一ヶ月前にいきなり言い出して~まったく、中間管理職の私を舐めてるのかって感じですよねぇ。ぷんぷん』


 そう言って童女のように頬を膨らませるシェリス。

 しかし、目だけは笑っておらず、ネズミをいたぶる猫のように事実を告げる。


「しか~し! 魔王様には残念ながらご世継ぎがおりません。これではいけない。ではどうするか? すると魔王様はこのような事を言い出しました。――――“次の勇者召喚から一年以内により多くの勇者を討ち取ったものを後継に選ぶ”と!」

「なん……だと……!?」


 ようやく我を取り戻した勇弦が、茫然としながら発言に戸惑う。

 まるでゲームのようなやり方で、後継者を選ぶというのか?


『ルールは簡単! 身分や素性など関係なく、より強い勇者を多く倒した者が次の魔王となります。なので勇者様方はピンポイントで狙われることになりますねぇ』


 完全に舐め切った態度のシェリスは「それでは皆様、精々、全滅しないように生き残ってくださいねぇ~☆ ばいばーい♪」と言い残し、映像を切り、部屋は静寂に支配された。

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