【第13話】 転移者たちのその頃(2)


『どうも皆様、私の名はシェリス。魔王軍総司令官・央魔将軍を務めさせていただいております。以後、よろしく♪』


 水晶に映し出された魔族がうやうやしく挨拶をする。

 映し出された場所は、どこかの崖だろうか。下は深淵の如き闇が広がっており、そのすぐ真上に吊るされているのは――


「あ、歩夢君……なんで……?」


 自分たちが追放したクラスメイトの上坂歩夢だった。

 至るところ傷だらけの彼は蓑虫の如く簀巻きにされ、その上には斧を構えた大柄な魔族が控えている。

 仮にその斧を振り下ろせば、歩夢は為す術がなく真っ逆さまだ。


『うふふ? 見えますか? 彼は奴隷市場に売り払われていたのを、襲撃の際に捕獲したのですよ?』

「ど、奴隷市場って……なんで……?」

『ここら辺じゃ珍しい黒目黒髪の人間ですからねぇ。物珍しさに人さらいにあっても仕方ないですよねぇ~』


 その言葉を聞き、綾音や一部の生徒たちは自分たちが止められなかったこと、自分たちが仕出かしたことを後悔することとなった。

 考えてみれば、ここは地球とは文化が違う。そんな世界に一人、着の身着のまま放り出された歩夢がどんな末路を辿るかなど、少し考えれば分かる事だった。


「う、上坂くんを話してください!お願いします!」

「そうだ! 人質なんて卑怯だぞ!」


 綾音が縋るように懇願し、勇弦が剣を抜いて怒鳴りつける。

 シェリスはそんな勇者たちをあざ笑うように一つの提案をしてきた。


『まぁまぁ、皆様、落ち着いてください。こちらにいる人質を返してほしければ、こちらの要求を呑んでいただきましょうか?』

「よ、要求だと!? なんだ、それは!?」

『降伏し、私たちの軍門に下ってください』


 シェリスの一言に動揺が走る。


「こ、降伏って……」

「で、でも、上坂って追放されてるし、俺らには関係ないだろう……?」

「でもでも、死なれたら……」


 途端にクラスメイト達がざわめく中、冷静なのは香澄と秀一と言った一部の生徒だけだった。


(随分、えげつない手を使ってくれるわね……)

(どうする? このままじゃ……)

(分ってる。今はなんとか交渉を引き延ばさないと……)


 歩夢の命の為に即時、判断を下すのではなく時間を引き延ばす。

 これが今の最善だ。


「あ、歩夢君を放して! 代わりに私が人質になります!」

『いえいえ、人質はこれ以上いりませんよ? 降伏するか否か。どちらか二択でお願いします♪』

「綾音! 落ち着いて! ここは私が交渉するから‼」

「か、香澄ちゃん…………」

「……大丈夫、なんとかするから」


 今にも泣きそうな顔で縋る親友を落ち着かせ、歩夢を救おうと動き出した。



「ふざけるな! 卑怯で卑劣な魔族め! 俺たちは降伏なんてしないぞ‼」


 その矢先、再び、いらないことをしてくれた。


「ちょっと! なに勝手に決めてるのよ!? 人質が向こうにいるのよ‼」


『ほう……それはつまり人質はどうなってもいい、そういうことですね?』

「やれるものならやってみろ! 俺はお前を許さない!!」

「黙れ! いいからアンタは黙れ‼ 待って‼ 今交渉を……」


 声を荒げ勇弦を引っ込ませようとするも時すでに遅し……


『あぁ、そうですか。許さないでもらって結構です』


 シェリスの合図と同時にロープは切断され、歩夢はそのまま奈落へと落ちていった。


「のおおおおおおおおおお‼」

「歩夢君‼」


 歩夢の姿が闇の中に消えていき、悲鳴が完全に途絶える。

 クラスメイト達はその光景を前に茫然自失。

 声も出せなかった。


「歩夢君……嘘……嘘でしょ……」


 声を震わせ、ただただ歩夢の名前を呟く綾音は、目の前の光景を受け入れられず、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。


『交渉決裂☆残念でした~♪』


 そんな彼女をあざ笑うシェリス。

 悪夢はこれで終わらなかった。

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