【第12話】 転移者たちのその頃(1)
「なぁ、愛川の様子は?」
「……いつもどおりだった」
「そう、か……」
「無理もないわ、あんなものを見せつけられて、平気な人間なんて……」
ライアガルド一の軍事力を誇るテンプレート教国が、魔王軍に侵攻され一ヶ月。
王都から逃れた歩夢のクラスメイトたちは副都へと身を寄せていた。
「クソッ……」
「物に当たってもしょうがないわよ?」
「うるせぇ! それもこれも全部、あのクズどもの所為じゃないか!」
王城の壁を乱暴に蹴りつける
「お前はムカつかねぇのかよ? あいつら上坂を殺したのも同然の連中なんだぞ!?」
しかし、秀一の怒りは収まらない。
二人は勇者扱いに浮かれるクラスメイトたちの中で、数少ない歩夢の味方でもあった。
(でも結局、私たちは彼を助けられなかった…………この状況は天罰なのかも…………)
ため息を吐き、香澄は歩夢が追放された後のことを思い出す。
……あの後、綾音と一緒に勇弦や国の上層部に、歩夢の無罪を訴えた。だが、訴えは聞き入れてもらえなかった。
「みんなの優しさはわかる! だが、上坂は罪を犯したんだ! 同じ仲間であるクラスメイト達の弱みに付け込んで、城の人たちに迷惑をかけたんだ! だからこの罪は償わなければならない!」
まるで自分こそが正義と疑わない勇弦に話は平行線。
いい加減、秀一と香澄の堪忍袋の緒が切れそうになった時、城全体にけたたましい警報が鳴り響いた。
「な、なに!?」
「なんだ!? なにが起きているんだ!?」
続いて至るところで爆発する音が鳴り響く。
全員が混乱し、慌てふためいていると、血まみれの兵士が会議室に飛び込んできた。
「な、何事だ!? なにが起きている!?」
「で、伝令……! 王都に魔王軍が……攻撃を……しかけ……」
「な、なんだと!?」
それだけ言って、兵士は息を引き取った。
目の前で人が死に、さらに現在、魔王軍が侵略しかけている。
その事実にクラスメイト達はパニックに陥った。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ……」
「この人、死んで……」
「おい! 魔王軍が来てるって、どういうことだよ!?」
「ふざけんな! こんなとこにいられるか‼」
「みんな、落ち着いて! 冷静になって! 王様の判断を仰ごう!」
瞬く間に冷静さを失い、騒ぎ始めるクラスメイト達を綾音たちと共になんとか宥め、状況を確認する。
話をまとめるとこうだ。
突如、王都を囲うように魔法陣が展開され、その中から魔族の軍勢が現れたと言う。
軍を率いるのは、魔王直属の部下である“四魔将”と彼らを束ねる総司令官の“央魔将軍”。
総力と言っても過言ではない戦力に城下町は、魔族の兵隊と魔物たちにより制圧され、この王城も陥落するのは時間の問題だと言う。
現に数は少ないが既に魔物が城内に侵入しており、騎士の多くはそちらの対応に追われている。
報告を聞き、大部分の生徒たちの顔から血の気が引いていく中、一人だけ大声で皆の闘争心を煽る者がいた。
勇弦である。
「こうなったら戦うしかない! みんな援護してくれ! 俺が先陣を切るッ‼」
最早条件反射にしか見えないノリで、勇弦が無茶を言いだす。
相も変わらず取り巻き達はキャーキャー言って、戦争派の連中も「待ってたぜ! この瞬間をぉぉぉぉぉ‼」とばかりに武器を手にする。
「ふざけんじゃないわよっ! 現実見えてんの!? たかが一ヶ月訓練したばかりの貴方が戦っても勝てる訳がないでしょ‼」
「だが、俺は勇者だッ‼」
「だったら一人で戦いなさい! そんで勝手に死んできなさい‼」
「ひっ……!」
キレた香澄の気迫に気おされ、勇弦は押し黙る。
生徒たちが静まり返る中、二人の間に大司教が割って入り今後の方針を説明した。
「こうなったらやむを得なません。これより転移用の魔法陣のある部屋へ皆様をご案内します! それを使い副都へ避難して頂きます! 騎士たちが時間を稼ぐ間、勇者様方は脱出してください! なお、受け入れ姿勢は整えております故、ご安心ください」
「そ、そんなのは駄目ですよ! この国の人々を見捨てろって言うんですか!?」
「仕方ないでしょう。貴方たちは世界の希望なのですよ? ここで全滅させるわけにはいかないのです。貴方たちがいれば人類にまだチャンスは残る。しかし、ここであなた方を失えば、世界は闇に閉ざされてしまう」
徹底抗戦を訴える勇弦だったが、結局大司教の決定は変えられず、渋々と納得。
こうしてひと悶着あったものの、生徒たちは速やかに転移の魔法陣のある部屋へ移動する。
「ね、ねぇ……歩夢君、大丈夫かな……?」
「大丈夫よ……今は生き延びることを優先しましょう……」
移動中、不意に綾音がそんな事を呟く。
確かに、彼女の心配ももっともだ。まだ彼が王都にいるとしたら、制圧された以上、魔王軍に捕まっている可能性がある。
しかし、今は避難が先。香澄は今にも泣きそうな表情で不安げに呟く綾音を宥めた。
そうこうしているうちに、魔法陣のある部屋へと到着。
同時にすぐさま魔法陣を起動する。
召喚された時と同じく、光が一行を包み込んだかと思えば、見慣れない部屋の中にいた。
「皆様、ご安心を! 転移は成功しました! もう安心です」
大司教の言葉を聞くと緊張の糸が切れたのか、全員その場にへたり込む。
中には泣き出すものもいた。
――これでもう大丈夫。
誰もがそう思ったその時であった。
「た、大変です! 皆様! 魔王軍より映像が‼」
「な、なんじゃと!?」
しかし、待ち受けていたのは、更なる非情な現実。
駆け込んできた兵士が手にした水晶から映し出されたのは、一人の女魔族の姿と……
「あ、歩夢君!?」
追放されたクラスメイトが今にも処刑されようとしていた光景だった。
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