【第11話】 苦労人と今後の方針
「なんなんですかね? 悪質なマスコットみたいな誘い文句? そもそも魔術師ってなに!?」
「そうですね……簡単に言えば、魔術は法術と別系統の技術――メサイアに対抗できる手段です。そして魔術師とは魔術を行使する者の総称です」
そう言ってエステルは二つの術の違いを説明する。
「まずこの世界には魔力と言うエネルギーがあります。魔力には二種類あり大気中・物質中に含まれる自然魔力“マナ”と生物の中に循環している体内魔力“オド”です。そのうち体内魔力のみを使用するのが法術士です」
おまけに法術は基本“魔法使い”や“僧侶”など、オドの多い者が得る天賦の人間にしか使えないらしい。
「対して魔術は、マナとオドを合わせることで行使することができます。そして、これが一番の違いですが、法術は特定の者にしか使えないのに対して、魔術は修業を積めば誰でも使用が可能です」
「な、なるほど……」
「そして現在、我がグランアステリアではメサイアに対抗するため魔術師の育成に重きをおいております。ですが……」
新しい技術とは受け入れ難いらしく、国内で魔術を使えるものは全体の三割程度。
軍内の魔術部隊もメサイア対策に奔走しているが人員不足がたたり、防戦一方。
攻勢に転ずることができない。
「そこで、勇者であるアユム様には魔術を学んでいただきたいのです」
「急に話が飛びましたね!?」
「今は富国強兵の時代。メサイアに対抗するためにも魔術師は一人でも多い方がよいのです。なので、アユム様にはいざと言う時に備え、国内の魔導学園に今年度より新設された魔術学科に入学し、魔術師の訓練を受けてほしいのです」
この国では魔術師は緊急事態――主にメサイアの大規模な襲撃があった際には老若男女問わず徴兵し、戦ってもらうという法律があると言う。
国の危機を想定してのこと故に反発は少ないものの、やはり抵抗はあるらしく、積極的に魔術を学ぼうとする人間は少ないそうだ。
「しかし、魔術かぁ……僕に習得できますかね?」
「心配なさらないでください。基礎くらいなら入学までの間、私自ら指導いたしますので」
「え!? 王妃様自ら!? いいんですか!?」
「えぇ、本来なら魔術部隊にお願いしたいのですが、生憎彼らは現在、国内のメサイアへの対処で多忙ですので、後進の育成に時間を割く余裕がないのです……」
「そうなんですか?」
「えぇ。それに自らの不手際にケジメをつけられないなら上に立つ資格はありません。なるべく人件費も削減したいですし」
「本音が俗っぽいな!?」
しかし、他に選択肢はないし、いつメサイアに襲われるか分からない情勢下。
備えはあった方がいいだろう。
また入学費や最低限度の生活費などは、国が援助してくれるそうだ。
国だけに任せず、自身自ら帰還の手段を探したいのもあり、歩夢はこの提案を承諾することにした。
「分かりました。僕にどこまでできるか分かりませんが……」
「ありがとうございます。よかった……これで断られたら、危険因子として拘束・軟禁しなければならないところでしたから……」
「うぉぉぉぉぉ! 危ねぇ‼」
一歩間違えたら最悪の事態になっていた。
国の為、危険因子を野放しに出来ないというエステルに戦慄せざるを得ない。
「安心せい。それなら“ツッコミ”のアビリティを活かし、ワシとお笑いで頂点に立つ選択肢の方が……」
「いや、アンタ既に国の頂点に立ってんでしょうが‼」
そして、冗談なのか本気なのか分からないギースにツッコまざるを得ない。
「それでは、今日はこの辺で終わりにしましょう。本格的な訓練は一週間後に行います」
「え? 一週間後、ですか?」
「おう! その間、健康診断とか精神鑑定とか、手続きとかあるしの!」
なんでも、生物を召喚した場合、持病の有無や思想面の危険はないか調べる義務があるそうだ。
過去に病気に感染したまま召喚したら、伝染拡大し大量の死者を出した国もあるらしい。
メサイアに滅ぼされる前に、パンデミックで国が亡んだら元も子もないと言うことだ。
「それじゃあ、騎士たちが診察室まで案内するから、そこで検査を受けてくれや」
「あ、はい。わかりました」
「お待ちくだされ! 国王陛下ッ‼」
歩夢が騎士に案内され、玉座の間から退室しようとすると、ジジイが再び乱入してきた。
年の割には頑丈である。
「なんじゃ? もう話は終わりじゃ。勇者アユムは帰還方法が見つかるまでの間、魔導学園で魔術を学ぶ。これは決定事項じゃ」
「いえ! 学ぶなら法術にすべきです! いままでの勇者は法術を学び、世界を救いました‼ 陛下はその伝統を破るというのですか!? それにそれだとワシの立場が……」
「伝統で国が守れるかっ! キングビーム‼」
「ぎゃああああああ!?」
身勝手な理屈を並べるジジイ(全裸)にいい加減、キレたのか。
ギースはアメコミヒーローよろしく、なんと目からビームを発射。
うるさいジジイをこんがりローストしてしまった。
「……あの王妃様、質問よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
あまりにも人間離れした所業に歩夢は思わず、
「さっきから明らかに人間離れした技を目撃してるんですけど、もしかしてこれが魔術なんですか?」
「いいえ。夫のこれは東洋で学び生み出した独自の“忍術”だそうです」
「忍術!? 忍術なのこれ!? って言うか、忍者ってこの世界にいんの!?」
「おう! 昔、東の国に遊びに行ったとき忍者に知り合ってな! そん時に忍術の極意を学んだんじゃ!」
「それ、本当に忍術!? 絶対違うよ‼ その人、忍者じゃなくてNINJYAだよ‼」
「なんじゃとう!? お主の世界じゃ忍者は口から火を噴いたり、水の上を歩いたり、ガマを召喚したりせんのか!?」
「するけどしません‼ なにそのロマンの塊みたいな忍者!? すごい見たい!」
国王のあまりの人外ぷりに、「実は自分は魔王軍に召喚されたのではないか?」と疑わざるを得ない歩夢であった。
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