【第10話】 苦労人と処遇
「まぁ、そう言う訳でお主がこの世界に召喚されたのはこちらの手違いなんじゃよ。本当に申し訳ない」
「準備ができ次第、元の世界への送還の儀式を行わせていただきますので、その間、不便でしょうが、我々があなたのお世話をさせていただきます」
「え? ちょっと待ってください! 元の世界に戻せるんですか!?」
シレっと重要なことを言ってのけるエステルに、歩夢が尋ねる。
「えぇ。召喚術を身に着ける場合は送還術も同時に身に着けると同義ですから。それは勇者召喚も同じことです。我が国では最近の研究で召喚してから数日以内なら、送還を行うことができるようになりました」
「まぁ、触媒はそこのクソジジイが使い切ったみたいじゃから、準備に時間がかかるがの」
「そうなんだ……それなら、別な世界に送ることもできるんじゃ……?」
「なんじゃ? 元の世界に帰りとうないんか? ハハーン、さてはお主、元の世界でマフィアの女にでも手ぇだしたんじゃろ?」
「違います。実は……」
元の世界に戻せると言われ、それなら元々いた世界――地球にも帰ることが出来るのではと思い歩夢はこれまでの経緯を説明する。
ライアガルドと言う世界に無理矢理召喚されたこと。
そこで強制的に魔王軍と戦わせられそうになったこと。
能力全てがハズレだった為、無実の罪で追放され、奴隷に落とされ、魔王軍に捕まり、奈落に落とされ……
今までの経緯全てを話した。
「ぬぅぉぉぉん…………お前、そんな、つらい事があったとはのぉ……グスッ……大変だったのぉ……グスッ……」
「顔トンデモないことになってますよ!?」
話を終えた瞬間、ギースの涙腺が崩壊。
元々、涙脆いのだろう。鼻水やら涙やらで、いかつい顔がぐしゃぐしゃである。
対してエステルは難しい顔をして、何かを呟いている。
「なるほど……二度も召喚されるとは不運と言うかなんというか…………しかし、これでは安易に送還などできませんね。通常送還した場合、元の時間、元の場所に戻されるのが常ですから……」
「え? そうなんですか。と言うことは……」
「歩夢さんの場合、処刑の真っただ中に戻されることになります」
つまり、今度こそ地面のシミになってしまうということだ。
「しかも、元々いた世界に戻すとなると話は別になります。最初にあなたのいた世界を探すことから始まり、送還時間と場所の特定もしなければなりません」
「つまり、時間がかかると……?」
「最悪、一生見つからずに終わると言うこともあります」
「マジで!?」
「えぇ……ですが、決して不可能ではありません。何年かかろうと、あなたを故郷に帰してみせます。それが責任の取り方と言うものです」
「…………‼」
力強く宣言するエステルを見て、歩夢の目から気づかぬうちに涙が零れる。
もう会えないと思っていた家族に会える。その事実が絶望の連続で疲弊した歩夢の心に希望を与えたのだ。
「うぉぉぉぉぉぉん‼ 流゛ワ゛シ゛の゛妻゛じ゛ゃ゛あ゛……‼ カ゛ッ゛コ゛よ゛す゛ぎ゛る゛……‼ うぉぉぉぉぉぉん‼」
そしてギースの涙腺が大崩壊。顔面カタストロフィ状態となった。正直、王様がしていい表情じゃない。
「あ、ありがとうございます‼」
「礼など不要です。非があるのは私たちですから……それで、送還方法が見つかるまでのあなたの処遇なのですが……」
「へぁ?」
感動から一転、雲行きが危うくなってきた。思わず間抜けな声を出す歩夢に「そうじゃのぉ……」とギースも頷く。
「曲がりなりにも勇者として召喚してしまった以上、ただの客として持て成す訳にはいかんのじゃ。できれば国になんらかの形で貢献してほしい」
「えぇー……さっき、『責任はとる』って言ったじゃないですかぁ」
「それはそれ。これはこれ。それともなにか? 帰る方法が分かるまで、ニート生活でも送る気か?」
「そう言われると、言葉に詰まるんですんど……」
正論である。歩夢もニート扱いは勘弁してもらいたい。
「また、勇者に対して風当たりの強い今、完全に自由と言う訳にはいきません……不自由をさせてしまいますが監視はつけることになります」
「まぁ、それも仕方ないですね……分かりました」
無理もない。勇者が好き勝手して治安を乱してる以上、監視は必要だろう。
「それで、失礼ですがあなたのステータスを確認してもよろしいでしょうか? 今後の判断材料の一つにしたいので」
「いいですよ。って言うか、この世界にもあるんだ。ステータス……」
異世界ってみんなこういうシステムがあるのだろうか?
そんな事を考えていると、水晶からステータスが映し出される。
[上坂 歩夢] 年齢:15歳 レベル:10
アビリティ:受難・ツッコミ・???
備考:運-999 異世界人 勇者(暫定)
「あれ? ステータスの表記が変わってる?」
「そりゃ、世界が変わればシステムも変わるじゃろしな」
「そういうものですかね?」
そう言ってステータスついて説明を受ける。
同様にアビリティはスキルにあたるそうだ。
そして、他の詳細な情報は備考欄に表記されるそうだ。
しかし、相も変わらず運の数値-999とは……
「苦労人……聞いたことのない天賦ですね……」
「なんか、ライアガルドではハズレ扱いされている適性職なんですけど、その影響で運が-999なんです」
「気にすんな! 英雄に苦難はつきものじゃ!」
「若いうちの苦労は買ってでもしろといいますしね」
「慰めの言葉ありがとうございます……」
嫌な顔せず、励ましてくれる二人にウルっときてしまう。
クラスメイトや大司教には散々馬鹿にされたので、余計、うれしく感じた。
「しかし、このステータスでは難しいですね。少し、相談してもよろしいでしょうか?」
そう言って二人は歩夢を他所にひそひそと相談を始めた。
「魔力……勇者……傀儡……洗脳……」(ひそひそ)
「暗殺……処刑……改造……手術……」(ひそひそ)
……なにやら不穏な単語が聞こえてくる。
嫌な予感がするが、大丈夫なのだろうか?
不安感に包まれる中、どうやら話し合いは終わり結論が下される。
「アユムよ……」
いきなりシリアスモードになったギース。
その威圧感に押され、歩夢は生唾を飲み込み、沙汰を待つ。
そして、下された結論は……
「ワシと契約して魔導学園に入学してほしいんじゃ‼」
「どこの魔法少女だ!?」
どこかで聞いたフレーズで下された判断が、後々、自らの運命を大きく変えることとなるとは、夢にも思わない歩夢であった。
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