【第9話】 苦労人と勇者事情


「それで『勇者よ! メサイアを駆逐し、世界に平和を取り戻してくれ!』って言ったらぁ……やってくれる?」

「…………正直に言っていいですか?」

「ええよー」

「無理です」

「だよねー……ごめん、言ってみただけ……あははは……はぁ」


 世界情勢を説明終了後。気軽に世界救済を頼んできたギースに、歩夢は即答。

 圧倒的絶望感に支配された玉座の間に、国王渇いた笑いが空しく響く。


 そりゃそうだ。どう考えても、日本の男子高校生一人読んで解決できる話じゃない。

 最早、スーパーロボットでも引っ張り出さなきゃ事態解決は望めない世界情勢だ。


「…………そもそも、勇者を殺した相手にどうして同じ手が有効だと思うんですか?」

「それは私が説明しましょう」


 何気ない疑問にエステルが答える。


「通常、メサイアに物理攻撃は効果がありません。剣で斬ろうと銃で撃とうとすり抜けてしまったそうです。“法術”や“アビリティ”はダメージこそ与えられたものの、ものの数秒で再生してしまい効果が薄いとされております」


 ライアガルドで言えば“法術”は“魔法”で“アビリティ”は“スキル”なのだろう。

 それが効果ないとは、確かに詰んでいるに等しいだろう。


「しかし、勇者は話が別です。原理は研究中ですが『“勇者の力”を持つ者がメサイアを倒せた』という証言があり、また戦争当時になすすべなく倒された魔族たちに比べて、勇者はある程度抵抗できたからと聞いております」

「な、なるほど……」


 故に今でも勇者は重宝されると言われ納得していると、さっきまで犬神家状態だったはずのジジイが復活。熱弁を振るい始めた。全裸で。


「その通りです、王妃様! 現に各国では勇者を召喚してメサイアの侵攻を防いでおります! 故に我々も勇者を召喚し、対抗すべきと考え――」

「やかましいわ! キングウェイブっっっっ‼」

「ムチャヤ!?」


 しかし、ギースの掌から「破ぁ!」っと放たれたエネルギー弾により沈黙させられる。

 着弾した瞬間に爆発し、ジジイは“あのポーズ”で再起不能となった。


「今のなんですか!?」

「キングウェイブじゃ」

「だからなんなんですか、それ!?」

「キングウェイブはワシの一〇八ある必殺技の一つじゃ!」

「だからそれがなんなのか聞いてるんだよ!?」

「お二人とも静かに。話を元に戻します」


 シレっと人間離れした所業を披露し自慢げなギース。

 それにツッコミまくる歩夢を制止し、エステルが話を続ける。


「確かに法術士団長の言う通り、“勇者の力”はメサイアに有効です。ですが今、その勇者たちによって、様々な問題が引き起こされているのです」

「どういう意味ですか?」

「勇者も所詮は人間だと言うことです。最近、勇者の中にメサイア討伐を盾にして好き勝手振る舞う者が増えているのですよ……」


 中には明らかな犯罪行為を行う者もいるらしい。

 それにより民衆の不満は溜まり、中には暴動が起こった国もあるそうだ。


「わが国でも過去三名の勇者を召喚しましたが……」

「一人目は殺人罪で処刑、二人目は有力貴族の子女を強姦した罪で刑務所に投獄後、獄中死。三度目の正直で召喚した三人目はあろうことか、隣国に情報を持って亡命しようとしたが、メサイアに襲われ死亡してもうたんじゃ……」

「……………………」


 悲惨すぎて声も出なかった。

 これでは勇者など不要と思っても無理はないだろう。


「世はまさに勇者暗黒時代……加えて勇者を召喚するには大量の触媒を用意しなければなりません……」

「故にワシは勇者召喚を禁止したんじゃが……そこのボケ老人が余計なことしてくれてのぉ……」

「な、なるほど……それで、僕が召喚されたと……」


 ようやく、自分が召喚された理由を知った歩夢。

 まぁ、納得は出来ないが、前回の反省を活かして仕方ないと割り切る事にする。


「しかし、お主が呼び出されたのは予想外じゃったわ。一応、古文書を偽物とすり替えておいたんじゃがのぉ……」

「え? 偽物?」

「おう! なんかあっては不味いからの! ワシの秘蔵の魔導書とすり替えておいたんじゃ!」


 そう言って、押収されたと言う古文書のカバーを外して見せる。

 いかにもな装飾のカバーの下から出てきたのは……


「『エロいサキュバスの召喚方法~ドスケベ悪魔っ娘とエロエロな毎日を送る○万個の方法。これでキミも脱☆童☆貞ッッッッッ‼ 著:シコルゾ・モッコリマン三世~』……」

「ワシ一押しの魔導書じゃ。若いころからお世話になってます‼」

「こ れ は ひ ど い !」


 なにがひどい? なにもかもだ。

 タイトルがひどい。著者名もヒドい。なにより、こんなので召喚されたという事実が酷い。


「って言うか、中身見てわからなかったんですか……?」

「一応、これ古代文字で書かれてるからの。ちなみにジジイがやった儀式は“爆乳JK風サキュバスの召喚方法~勇気を出してレッツ・キャストオフ! ありのままの姿で、おっぱいへの魅力を綴った歌を絶唱しながらダンスィィィィィィング!”って召喚方法じゃの」

「ひ ど す ぎ る ‼」


 あまりの酷さに涙が出てくる。こんなのを割り切れたら、聖人である。

 膝をついて項垂れる歩夢にエステルは「まぁ、その……元気出してください……」と慰めの言葉をかけてくれた。


「陛下! 由緒正しい古文書をそのようなものと取り換えるなどと――後で貸してくだされ‼」

「じゃかましい! キングフィンガー‼」

「パナッ!?」


 どさくさに紛れて復活したジジイが本音を暴露するも、ギースが人差し指と中指をクンッとやった途端、吹き飛ばされK・O!

 そんな人間離れした技を披露したギースを見て「あんたが戦えよ…………」と弱々しくツッコむ歩夢であった。


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