【第3話】 苦労人と追放
「え? 今、なんて言った?」
割り当てられた会議室にて。
集まったクラスメイト達の視線が集まる中、呆気に取られる歩夢に勇弦は正義を遂行せんとばかりに同じセリフを繰り返す。
「聞こえなかったのか!? 上坂、お前を追放する‼」
「いや、なに言ってんの!?」
本当に何を言っているのか? いくら勇者でも、そんな権限ないだろう。
そう高を括っていたが、周囲の雰囲気が異様だ。
とりまきたちは穢れたものでも見るかのような視線を向け、不良たちはニヤニヤし、他の生徒たちは困惑している。
「ちょっと、霧峰くん! なに言ってるの!?」
綾音が勇弦に詰め寄るも、勇弦は「大丈夫だ、任せてくれ!」とだけ言って、歩夢を睨みつける。
「上坂! 話はみんなから聞いている! お前は委員長の立場を利用して、みんなに悪事の片棒を担がせていたんだろう!?」
「はぁ!? なんの事だよ!?」
「とぼけるな! お城のものを盗んだり、騎士の人に暴力を振るったり、メイドさんにに乱暴しようとしたんだろ!? そんな事、許されると思っているのか!?」
掴みかからん勢いで糾弾する勇弦。
その背後で、数名の生徒が嘲笑っているのが見えた。
確か彼らは、歩夢から振る舞いを注意されたクラスメイトだった。
「彼らが証言してくれたんだ! 『上坂に無理矢理命令されてやった』って‼ でなければ陛下にあることない事言いふらすって脅されたんだって‼」
そこでようやく、歩夢は事態の真相を察した。
大方、彼らは注意を受けたことを根に持って、勇弦に自分たちが有利になるように吹き込んだのだろう。
「誤解だ! 僕は悪くない!」
「そうだよ、歩夢君がそんな事するはずがないよ‼」
誤解を解こうとする歩夢に、綾音も助け舟を出す。
しかし、勇弦は聞く耳を持たない。
「綾音……優しいのは君のいいところだが、こっちには証拠があるんだ」
「え?」
「しょ、証拠? 証拠ってなにさ!?」
「これだ‼」
そう言って勇弦が取り出したのは、緑色の宝石がはめ込まれた金色の腕輪だった。
「これはこの国の国宝“聖なる腕輪”だ! 上坂の部屋にあったのを大司教様が見つけてくださったんだ‼」
「はぁ!?」
大司教に視線を向けると、彼は「えぇ、間違いありません」とドヤ顔を浮かべて証言する。
途端に大司教もグルであることを悟った。
どうやら、無能で戦力にならない歩夢を切り捨てるため、今回の計画を建てたようである。
「な、なんだよ、それ!? 僕は知らないぞ!?」
「とぼけるのもいい加減にしろ‼ こっちには証拠があるんだ‼」
「だから、知らないってば‼ そもそも、どうやって宝物庫なんて警備の厳重なところに入れるって言うんだよ!?」
「うるさい! 言い訳するな! こっちには証拠があるんだぞ!」
正論でツッコむも、勇弦は聞く耳を持たない。
次第にクラスメイトの視線も冷たいものになっていく。
「うそ……上坂くんがそんなことを……?」
「真面目でおとなしそうな人なのに……」
「うわ、あいつ最悪……」
「同じ勇者として、恥ずかしいわ……」
「そ、そんな……僕は、やってないのに……」
いたたまれなくなりながらも、さらに無実を主張しようとした時、兵士に拘束されてしまった。
「な、なにするんだよ!?」
「上坂、本来なら国宝を盗んだ罪人は死刑だそうだ。だけど、安心しろ。俺の方から死刑だけはしないように頼んで、国外追放で済ませておいた」
「いや、安心できないよ!?」
「霧峰くん! もっと、ちゃんと調べて‼ なんかおかしいよ‼」
「綾音、君の優しさは十分わかった。だけど、罪は償わなければならない!」
「いや、だから、その罪が偽装されてアーーーーーーッ!」
最後まで言わせないとばかりに兵士に引きずられていく。
「歩夢君!」と綾音が手を伸ばし、追いかけようとするも勇弦に止められてしまい、追いかけることが叶わないまま、扉は閉められてしまった。
こうして、歩夢は着の身着のまま、ペイッて感じに城からと追放されてしまった。
さらに悪いことは続く。
仕方なく仕事を探そうとするも、素性もしれない異国人を雇おうとする奇特な人間などおらず、ならばここはテンプレに沿い、冒険者になろうとギルドに向かった矢先……
「おい、兄ちゃん、こっちこいよ」
「え? 誰ですが? あんたら? 嫌ですよ?」
「いいから来いって言ってんだろ!」
「うぼあ!?」
ガラの悪い男に路地裏に連れ込まれ、腹パンを叩き込まれ、あっさり気絶。目が覚めると……
『では、本日のオークションを開始します‼ まずはこちら‼ 世にも珍しい運が-999の苦労人でございます』
「どうしてこうなった!?」
……奴隷にされていた。解せぬ。
どうやら、あの男は人身売買のブローカーだったようだ。
気絶中に奴隷商に売り飛ばされ、前座商品としてオークションに掛けられてしまっていた。
「ふぅむ……運が-999か……ストレス発散のサンドバッグにでもするか……」
「あら、ちょうどペットの魔獣の餌が足りなかったのよねぇ」
「よく見れば、かわいい顔してるでおじゃる。麿のペットにするでおじゃる」
――しかも、ロクな客がいない!
口々に好きかっていう参加者の呟きに、歩夢の顔はみるみる青ざめていく。
(勘弁してくれええええええ! このままじゃ殺される! もしくは掘られる!)
生命と貞操の危機を感じ、逃げようとするも拘束されている上に、スキルや魔法を封じる首輪を嵌められている。おまけに警備も厳重。ぶっちゃけ詰んでる。
(まぁ、スキルは使い物にならないし、魔法なんて初級のしか使えないけどね……)
自分の情けなさに涙する中、競りは終了。
「ぐふふふふふ、可愛がってやるでおじゃる」
よりにもよってウホッなおじゃる貴族に落札されてしまった。オワタ。
(くっそう……なにもかも、全部、この国が悪いんじゃないか……‼)
絶望し項垂れる歩夢の心にどす黒い感情が渦巻いていく。
――そもそも、すべてはこの国に召喚されたのが原因だ。
勝手に誘拐し、家族と離れ離れになる原因を作った王族連中。
無能と見下し、嘲笑したクラスメイトたち。
そして、濡れ衣を着せて、自分を追放した勇弦と大司教。
それらすべてに対する憎しみが、歩夢の心を支配する。
「――こんな世界、滅んじまえ‼」
最早、我慢の限界を迎え、怒りと憎しみに支配され、慟哭したその時であった。
「ぐふふふふふふ、なにやら叫んでおるがまぁ良い。すぐにベッドで叫ばせおじゃああああああ!?」
「……は?」
自身を落札したおじゃる貴族の頭が、斧で真っ二つにされる。
歩夢の中に眠っていた闇の力が解き放たれたとかじゃ断じてない。
噴水のように血が噴き出す様を呆気に取られていると、会場内に異形の生物たちがなだれ込んできた。
「ま、魔王軍だぁぁぁぁぁぁ‼」
奴隷商人が悲鳴をあげるも、それが最後の言葉となった。
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