【第2話】 苦労人と苦労


 聖戦士の適性職ジョブに目覚めた勇弦は国から“勇者”の称号を与えられることとなり、その才能をいかんなく発揮するようになった。

 同時に、歩夢はそのしわ寄せを食らうこととなった。


 例えば魔法の授業でのこと。


「キャー! 勇弦君、素敵―‼」

「な、なんと、すべての属性魔法を使えるとは……‼」

「流石は勇者様! 我らに出来ないことを平然とやってのける!」


「そこに痺れる、憧れるぅー!」と囃し立てられ、全ての属性魔法で訓練所にクレーターをボンボン開ける勇弦。

 一方、歩夢は……


「まったく、初球の火属性魔法も満足に使えないとは。いいですか? 魔法と言うのはうんぬんかんぬん……」

「ふん、所詮は無能か。これで勇者の一人なのだから先が思いやられる」

「上坂の奴、無属性なんだってさ、ダサッ!」

「ぐぬぬ……」


 自身の属性がこの世界では無能の証明である“無属性”であることから、周囲から軽視されることとなった。


 また初めての実技訓練では……


「では皆様には今から、模擬戦を行ってもらいます。二人一組になり、戦闘を行ってください」

「「「「「「「「「「はいっ‼」」」」」」」」」」


 号令の下、各々ペアを組んで模擬戦を開始。

 自分たちのクラスは四十人であまりはでないはずなのに、なぜか一人だけ取り残されるお約束を味わっていると……


「あ、上坂君‼ よかったら、私とペアを……」


 声をかけられ振り向くと、もじもじと若干恥ずかしそうにする綾音の姿があった。


「え? 愛川さん!? いいの?」

「うん、上坂君がいいの……だめ?」

「……ッ!」


 アイドル顔負けの美少女に上目づかいに思わずたじろく。

 これは反則だ。流石に勇弦に言うこと聞かせられるだけはある。

 ともあれ、せっかくのお誘い。迷うことなく快諾する。


「じゃあ、僕でよけれry……」

「上坂! 俺と組むんだ!」

「…………」


 ……快諾しようと思ったら、勇弦が割り込んできた。

 直後、野郎どもが「ナイスだ! 霧峰‼」とサムズアップする。

 ……一本残らず、指を圧し折りたくなった。


「え? 霧峰君? なんで?」

「なんでだって!? 綾音は女の子だ‼ 模擬戦で男子と戦って、ケガでもさせたらどう責任をとるつもりなんだ‼」

「いや、だけど……」

「まったく、そんなに弱い者いじめがしたいのか!? なら、俺が相手になってやるッ‼」

「いや、キミ、僕のステータスの一○倍以上のステータスだよね? むしろ、そっちが弱いものいじめだよね?」

「その曲がった根性叩き直してやるっっっ‼ さぁ、上坂‼ 俺と勝負だ‼ いくぞ‼」

「「「「「きゃああああああ~‼ 霧峰君‼ カッコイイ‼」」」」」

「いや、ちょっと待て‼ 冷静に話し合お……NOOOOOOOOOOOOOOO‼」


 そこから先の事は思い出したくない。あぁ、思い出したくない。思い出したくない……

 ただでさえとんでもねぇステータスを、固有スキルフル使用で大幅に強化した勇弦により、歩夢は叩きのめされた。いや、もうめっちゃくちゃに。

 開幕十割オーバーキルをもろに喰らい、歩夢の意識は完全にその場でシャットアウト。

 すぐに綾音が止めに入らなければ、おそらく死んでただろう。

 そんな目に合わせた張本人は謝りにも来ず、今もみんなからもてはやされている。


 他にも魔物討伐の際には……


「喰らえ! “完璧なる聖剣パーフェクトエクスカリバーああああああああああ‼”」

「ちょっと! 僕、近くにいるんですけどぎゃああああああああああ!」


 近くにいた歩夢を巻き込む必殺技をぶっ放し、危うく殺されかけた。

 支給された装備も、他のみんなは国王から国宝級の武器を支給されたのに対し、歩夢だけひのきの棒と騎士団のお古のボロボロの鎧。


「ちくしょう、世の中不公平だよ……」


 クソみたいな状況に、歩夢は愚痴を零すしかない。

 さらに、数週間も経てば、いい加減状況にも慣れてくる。

 そうなると気も緩んでくる。

 んで、羽目を外す輩も出てくるわけで……


「あの……勇者様の中に備品を無断で盗っていく方がいるのですが……」

「おい! 新米の騎士が暴行を受けたそうだ! どう責任をとってくれる!?」

「勇者様の数名がメイドに無理矢理関係を迫ってるそうです! なんとかしてください!」

「すいません! すいません! 本当にすいません!」


 度を越した振る舞いをする輩の所為で、各関係者から苦情が殺到。

 担任教師は慣れない異世界生活により心労で倒れ養生中。

 故に、歩夢が対処することとなった。


「なんで僕がこんなことしなきゃなんないんだよ!?」


 最早、ストレスでハゲそうな歩夢。

 ひたすら平謝りを繰り返し、原因となった生徒に注意するからと納得してもらう。

 そして、クラスメイトたち注意するも……


「あの、城の人たちから苦情が来てるから、迷惑かけないでほしいんだけど……」

「うるせぇ! 歩夢無能のくせになまいきだ!」

「ひでぶ‼」


 力を手にし傲慢になった連中から、逆にリンチされてしまった。


「もうやだ! おうちかえる!!」

「う、上坂君落ち着いて‼ 私もいっしょに謝ってあげるから、ね?」

「うぅ……ありがとう、愛川さん……」


 あまりの対応の差に最早我慢の限界。

 すべて投げ捨ててしまいたくなるも、綾音や数名の良識ある生徒に支えられ、なんとか踏みとどまっていたが……


「上坂! お前を追放する‼」


 勇弦頭痛の種がこんな事を言い出しやがった。

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