【第1話】 苦労人と受難
歩夢たちが異世界『ライアガルド』へ召喚された次の日。
クラスメイト達は三つのグループに分かれていた。
「よし‼ 今日から訓練だ‼ みんな、頑張ろう‼」
「うん‼ 勇弦くんも頑張ろうね‼」
「まぁ、私のユズルなら、どんな訓練がきても大丈夫でしょうけど」
「私“の”ユズル……?」
「聞き捨てならないね……」
「もう‼ 義兄さんは私のですよぅ‼」
大義の為、正義の為、女子に囲まれながらも、クラスの先頭に立ちみんなを率いる勇弦たち。
「くそ、勇弦め‼ 今に見てろ‼」
「いつもなら『爆発しろ‼』としか言えなかった俺たちとは一味違うぜ‼」
「今日から、俺の異世界伝説が始まるんだ……‼」
「成り上がってやるぜ‼」
「チート能力をもらって、冒険者ギルドに行って、ハーレムを作って、ククククク……」
「最強は俺だ‼ 俺が最強になるんだ‼」
初めての異世界生活にテンションが最高にハイになっている者(主に男子)。
「……めんどい」
「帰りてぇ……」
「訓練とかふざけんなよ、マジで」
そして、その後方で、死んだ魚のような瞳をした、やる気の感じられない一行だ。
彼らはみんな戦争に反対し、元の世界への帰還を望む生徒たちだ。(ちなみに歩夢は彼らの一員である)
結局、最初は反対していた生徒たちの半数以上が勇弦の熱に当てられ、離反。
さらに「勇者様の召喚に成功したぜー‼ ひゃっほうっ‼」的なノリで開かれたパーティーで、この国の貴族たちや王女・貴族の令嬢、クラスメイトの美少女たちに、ちやほやされて気を良くした勇弦が……
「善は急げだ‼ 早速、明日から僕たちに戦い方を教えてください‼」
……なんて勝手に宣言。結果、召喚早々に戦闘訓練が開始されることとなった。
本来なら、未だ異世界召喚のショックから立ち直れていない生徒らのメンタルケアを優先したかった。
だが、異様な盛り上がりを見せる勇弦たちに口を挟むことなどできず、断念。
「みんなが参加することに意義があるんだ! 上坂! 委員長として参加を呼び掛けてくれ!」
そう、勇弦に頼まれた(正確には命令された)歩夢は痛む頭と胃を抑えつつ、不満ありありのクラスメイトに参加を呼び掛ける羽目になった。
時に宥め、時に励まし、時に土下座して、なんとか全員、訓練へ参加してもらえたが、やはり納得していない者が多い。
やる気もない。覇気もない。目には光も宿らない。遂には不平不満がこぼれだす。
「ったく、ノリでなんでも決めやがって。戦うなら一人でやれよ……」
「ホント……死ねばいいのに……」
「ってか、上坂もなんでもっと強く反論しなかったんだよ……」
「本当に役にたたねぇ委員長だな……」
「ホント根性なしなんだから」
「役立たず」
「死ねし」
「おかげで小説家デビュー逃しちゃったじゃない。どう責任とってくれんのよ?」
そしてなぜか矛先が歩夢に向かう。
(僕にどうしろっていうんだよ!? 仕方ないじゃん、勝手に決めちゃったんだもん!)
そう言い返したかったが多勢に無勢。
仕方なく我慢してやり過ごす。
せめて陰口なら陰で言ってほしかった。
「元気出して。歩夢君だけに負担はかけさせないから、頑張ろうよ。ね?」
「うぅ……ありがとう……」
どんより落ち込む歩夢を綾音が励ます。
唯一の救いは、彼女を始めとした一部の生徒が味方してくれることだろう。
孤立無援だったら、悲惨すぎる。
「皆様、お待ちしておりました。本日よりよろしくお願いします」
そうこうしているうちに、訓練場に辿りついた一行を大司教ら教会の面々が出迎えた。
「では、今よりあなた方の中に眠る力を目覚めさせます」
「はいっ! よろしくお願いします!」
「「「「「うおおおおおおおおおお‼ キタアアアアアアアアアアアアア‼」
「……うるさい」
お手本のように元気に返事をする勇弦。
異世界転移ものお決まりの展開にエキサイトするクラスメイトたち。
そんな彼らのノリに歩夢は辟易するのであった。
「皆様、心の準備はよろしいですか? それでは……“敬愛すべ神よ。未来の英雄たちに力を授けたまえ!
呪文を唱えて杖を振る。すると頭上に黄金の魔法陣が出現。
幻想的な光景に、みんな「おぉ……」と感嘆の声を漏らすと、そこから金色の粉が降り注いだ。
「おぉ……すごい……」
「力が溢れてくる……」
「漲ってきたぜぇぇぇぇぇ!」
「クックックッ……これが俺の隠されし力か……‼」
「俺の名から俺が出てくるぅぅぅぅぅ‼」
「これなら魔族だって怖くないな‼」
どうやら、この粉が『秘められた力を解放する手段』なのだろう。
確かに触れた途端、身体の内側から力が溢れ出てくるような感じがする。
(……この魔法、実はヤバいものじゃないよね? ドラッグ系の。ないよね? 副作用とかないよね?)
歩夢は、突然肉体が高揚する感覚に戸惑い、内心不安でいっぱいだった。
テンションがハイになっているクラスメイト達の姿が、余計に不安を誘う。
その後、各自に銀色の板――異世界転移ものでもお馴染みの“ステータスプレート”を渡された。
「このステータスプレートは所謂、身分証明書です。持ち主の魔力に反応し、氏名、年齢、レベルや適性のある魔法の属性、そして“
「あの、すいません。
「
歩夢の質問に答えると、大司教は「絶対に無くさないように」と念を押し、魔力の操作方法をざっくり説明。
「では、実際にステータスプレートに魔力を通し、自分のステータスを見てみましょう」と促す。
説明通りに魔力を流すと文字が浮かび上がってくる。
内心ドギマギしながら、「変なスキルとかつきませんように……」と祈りながら、ステータスを確認すると……
[上坂 歩夢]
年齢:15歳 レベル:1 属性:無
体力:20 筋力:10 耐久:40 魔力:15 敏捷:15 魅力:20 運:-999
スキル
受難……苦難・災難を受けやすくなる(笑)
ツッコミ……ツッコむ
……期待はあっさりと裏切られた。
「……は?」
二度見した。思わず二度見した。
変だな。目の錯覚か? おかしなものが見える。
気を取り直してもう一度だけステータスを確認。
[上坂 歩夢]
年齢:15歳 レベル:1 属性:無
体力:120 筋力:10 耐久:30 魔力:15 敏捷:15 魅力:20 運:-999
スキル
受難……苦難・災難を受けやすくなる(笑)
ツッコミ……ツッコむ
何一つ変わらなかった。
「運―999ぅぅぅぅぅッ!?」
なんだこれ!? あまりにもあんまりだ。
あまりの理不尽さに歩夢は怒り、大司教に抗議する。
「大司教様! ちょっといいですか!?」
「おや、どうかされましたか?」
「『どうかされましたか?』じゃないですよ‼ なんですか、このステータス‼」
怒鳴りながら原因であるステータプレートを見せると、大司教は「ふむふむ……ほぅ……」となにやら意味ありげな顔をすると、ポンッと肩を叩いて一言。
「まぁ、こんな日もありますよ」
「どんな日だよっ!?」
流された。簡単に流された。
「ははっ、ドンマイですよ」
「うるせぇよ‼ ふざけんなよ‼ こんちくしょう‼」
半ば涙目になりながら、怒り狂う歩夢。
そもそも、なんだこのステータス。
運の項目に目を奪われがちだがよく見れば、他にもおかしい点が多々ある。
「
「なるほど。貴方の適性職は『苦労人』ですか。ご愁傷さまです。その適性職はいわゆる“ハズレ”です」
「ハズレってなんですか!? 才能にアタリハズレってあるんですか!?」
「あるんじゃないんですかねぇ? プギャー!」
「ぐぬぬ……」
煽ってくる大司教に歩夢の血管は破裂寸前になるもなんとか堪える。
「しかし、“苦労人”とは運がない。“苦労人”は一万人に一人の割合で出現するかしないかの適性職で、問答無用で運がマイナスになる上に、覚えるスキル少ない上に役に立たないハズレ適性職なんですよ。はっはっはっ!」
「なに笑ってんだよ!? なんで笑えるんだよ!? 一応、勇者一行の一人なのに!」
宣伝するかのように大声であざ笑う大司教。
当然、この会話はクラス全員に聞かれており……
「うわ~上坂、運が-999だって、うける~」
「草生えるわ~」
「ぷくくくくく……お気の毒様……」
「-999って……ほとんど疫病神じゃねぇか……」
「こっち見るな、不幸が移るだろ」
「え~んがちょ」
……ってな感じに嘲笑の的になる羽目に。
この瞬間、クラスカースト最下層へ転落が確定。ただでさえ少ない歩夢の人望も大暴落である。
「きゃー! 勇弦くん! すごい!」
「流石勇弦だわ!」
「そ、そんな大したものじゃないさ」
そんな中、異様な盛り上がりを見せる勇弦の周辺。
何事かと思うと、大司教が興奮した様子で勇弦を褒めちぎっていた。
「す、すばらしい‼ キリミネ様! 貴方こそ、我らが世界を救う選ばれし勇者です‼」
「だ、大司教様、あまり大声を出さないでください……恥ずかしいです……」
「いえ、これは陛下たちにお見せせねば! 皆様ご覧ください! この素晴らしいステータスを!!」
そう言って、その場にいる全員に勇弦のステータスを見せる。
[霧峰 勇弦]
年齢:15歳 レベル:1 属性:全
体力:5000 筋力:500 耐久:500 魔力:500 敏捷:500 魅力:1000 運:999
スキル
英雄の軌跡……歴代勇者の取得スキルすべてを使える
輝きの翼……光の翼によって飛行が可能になる。
王者の威光……カリスマで男女ともに惹きつける
覚醒の炎……すべてのステータスを一時的に倍にする。
魔族殺しの聖域……魔族のステータスを大幅にダウンさせる聖域を発動する。
聖なる闘志……どんな傷や消耗した体力でも大幅に回復する。
聖鎧換装……聖なる鎧を纏い、全てのステータスが大幅にアップする。
まぁ、なんと言うチートステータスでしょう。特に幸運なんか歩夢とは対極の位置にあるじゃないか……
照れながらも、まんざらでもなさそうな勇弦やはしゃぐ周囲を他所に、歩夢はどん底に落とされた。
しかし、歩夢の受難はまだ始まったばかりだった。
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