苦労人勇者の受難交差

@Jbomadao

【第0話】 苦労人勇者と序章


「おーーーーーっぱい!」

「………………は?」


 突如、目の前に変態が現れた。

 突然の出来事に少年・|上坂歩夢(うえさかあゆむ)の思考はフリーズ。

 人間、予想外の出来事に直面したらこんなもんである。


(え? なにこれ、どういうこと?)

「おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!」


 目の前の変態は歩夢の存在にも目もくれず、ただ「おっぱい、おっぱい」連呼している。

 変態は初老の男だ。ついでに全裸だ。かなりの猛者ド変態だ。


「おっぱいぱいぱぱいぱぱいぱい! おっぱいぱいぱぱいぱぱいぱい!」


 一糸まとわぬ姿で、毛根の死滅した頭頂部を汗で光らせ、仙人のような髭を振り回し、たるんだ腹を揺らしながら、サンバのリズムで踊る変態。


 目の毒だ。気がおかしくなる。目の前で股間の粗末な【ひのきの棒】がぷらんぷらんする度に正気度SAN値もゴリゴリ減っていく。


(う、うん、落ち着け! 冷静に、クールになるんだ! 落ち着け! 深呼吸だ……)


 これではいけないと我に返った歩夢は、何故自分がこのような状況に置かれているのか、記憶を辿っていく。




 ――発端は一か月前に遡る。


「!? な、なんだよ、これ!?」


 帰りのHRホームルーム中、クラス委員長であった歩夢が号令を掛けようとした時、不意に生徒の一人が叫び声を上げた。

 何事かと視線を向けると突如、床に奇妙な紋様が浮かび上がってきた。

 漫画なんかでよく見かける魔法陣のようなそれは、教室の人間全員を飲み込まんとばかりに強力な光を放ち始めた。


 ただならぬ雰囲気を感じたクラスメイト達がドアへと殺到するよりも早く、光の奔流が教室にいるすべての人間を呑み込んだ。そして……


「成功だ……! 皆の者! 儀式は成功したぞ‼」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」」」」」


 ようやく光が治まり目を開けると、そこは教室ではなく大神殿のような場所。

 そこで歩夢たちは、白装束の人々に取り囲まれていた。

 自分たちの姿を見るや否や、勝手に盛り上がり歓声を上げる集団に、クラスメイト達が困惑していると、代表者らしき男が慇懃無礼な態度で話しかけてきた。


「ようこそ参られました、勇者様方‼ 我らの世界『ライアガルド』へ‼ 私は聖神教団の大司教でございます。以後、お見知りおきを……」


 うやうやしく頭を下げる自称大司教の言葉に全員が「はぁ?」っと茫然とする。


 ――ひょっとして夢なのではなかろうか?


 そう思い、頬を抓れば痛みを感じる。うん、これは現実だ。と言う事は……?


(こ、こ、これってまさか、小説とかでよくある異世界転移……?)


 いきなり教室に現れた魔法陣といい、今現在の状況と言い、まさに異世界転移もののライトノベルやゲームによくある展開だ。

 ありえない話だが、そうとしか考えられない。

 見ればクラスメイトの中の何人かが、同じ結論に行きついたらしく、再び騒ぎ始めた。


「え!? なにこれ!? ここどこ!? 映画の撮影!?」

「な、なんだよ。どうなってんだよ!? おいっ!?」

「おいおい、俺たち異世界に来ちまったって言うのか!?」


 たちまちクラスはパニックに陥った。

 不良たちは大司教に掴みかかろうとして、護衛らしき兵士に阻まれ、女子の中には事態に着いていけず呆然自失になりへたり込んでしまう者が続出する。


 このままではいけない。

 ここは委員長として、みんなを落ち着かせねばと言う責任感の下、歩夢はクラス全員に毅然と言い放つ。


「み、みんにゃ‼ と、ととにかく落ち着け‼ 冷静になるんでゃ‼」

「「「「「「「「「「お前が落ち着け!」」」」」」」」」」


 ……しかし、気が動転していたようでうっかり噛んでしまった。

 これは恥ずかしい。しまらない事この上ない。


 そんな頼りにならない委員長の代わりに、一人の男子生徒――学校一のイケメンと名高い霧峰勇弦きりみねゆずるの雄々しい声が部屋中に轟いた。


「みんなッ! 落ち着くんだッッッ‼」


 それは、まさに鶴の一声。

 一喝され、我に返った全員の視線を浴びながら、勇弦は「ここは俺に任せろ!」と自信満々に言い放った。


「混乱するのも分かるが落ち着くんだっ! ここは俺が話をつけるっ‼」

「ちょ‼ ちょっと‼ もう少し待って‼ 今、みんなを落ち着かせてるから、勝手に話進めないで‼」

「どけっ! 邪魔をするなっ!」

「うわっ!」


 制止する歩夢を押しのけ、勇弦はクラスメイトたちを庇うように前に出る。

 そんな凛々しい姿に一部の女子たちがうっとりする。


 無理もない。勇弦はアイドルばりの甘いマスクと百八十センチ近い高身長と細身ながら引き締まった身体を持ち、性格も正義感が強く困った人を放っておけないフェミニスト。

 まさに容姿端麗、成績優秀、品行方正を地で行く完璧パーフェクト超人なのだから。

 ぶっちゃけ、歩夢よりも委員長に相応しい人物である。あるのだが……


 (正直、霧峰君は苦手なんだよなぁ……)


 歩夢は知っている。彼の正義感は暴走しやすいところがあり、自分の意見を無理に押し通そうする悪癖を持っていることを。

 実際に過去、何度も他のクラスや他校の生徒と揉め事を起こして、後始末に奔走する羽目になったこともある。声もいちいち大きく、どことなく威圧感のある目つきも苦手だった。


「流石、勇弦……頼りになるわ……」

「お義兄ちゃん、かっこいいです!」

「それに比べて……上坂はもう少し、委員長らしくしてほしいわね」

「同感、ダッサww」

「うぐ……」


 勇弦の行動を取り巻きの女子たちが褒めちぎり、同時に頼りにならないと露骨に歩夢をディスる。


(そんな言い方、しなくてもいいじゃん。そもそも委員長だって好きでやってるんじゃないんだよ……)


 彼女たちの陰口に、心の中で愚痴を零す。

 そんな歩夢の内心など気にも留めず、勇弦は話を進める。


「異世界とか勇者とか一体、どういう事ですか? みんな、混乱しています。ちゃんと納得のいく説明をしてください」

「ふむ、そうですな。皆様突然の事で混乱しているでしょう。立ち話もなんですし、詳しい説明は国王陛下を交えてお話しますので、どうぞこちらへ」


 こうして一行は、国王とやらの下へ案内される。

 絢爛豪華な調度品が設置された城の中を兵士たちに囲まれ、緊張いた面持ちで歩いていくと謁見の間に到着。

 巨人でも入れそうなくらいデカイ扉が、ゴゴゴゴゴと大きな音を立てて開く。


「国王陛下! 召喚の儀式に成功しました! 彼らこそライアガルドを救う勇者です‼」

「おぉ! よくぞ召喚に応じてくれた。感謝するぞ、勇者たちよ‼ 突然の事で、混乱しておるじゃろう。今から貴殿らを召喚された理由を説明する。しかと聞くがよい!」


 挨拶もそこそこに、豪奢な玉座に座っていた、赤い豪華なマントに金色に輝く王冠、そして威厳のある白いカイゼル髭の――ぶっちゃけ、RPGや童話でよく見る格好の王様が、この世界の現状と歩夢たちが召喚された経緯が説明する。


「今、この世界『ライアガルド』は現在、魔王率いる魔族の侵略により人類滅亡の危機に瀕しておる。そんな中、我らの信仰する神より『勇者を召喚し魔王を討て』と言う神託が下った。我らはそれに従い、お主らを召喚したと言う訳じゃ」


 テンプレだ。実にテンプレだ。あまりにもテンプレ過ぎて声も出ない。


「あぁ、名乗るのがまだだったな。我はスタン・ダード・テンプレート八世。この国『テンプレート教国』の王である」

(って、名前もテンプレートかよ‼)


 建国者はなにを想ってこんな国名にしたんだろうか? 小一時間くらい問い詰めたい。

 そんなテンプレート王は、さらにテンプレな話を続ける。


「我らが国以外にも、勇者召喚を行い、魔王討伐せんと動き始めておる。勝手な話とは思うが、世界のため、魔王討伐に力を貸してくれ。無論、援助は惜しまぬし、魔王討伐の暁には、相応の褒美を授けよう」


「どうかね? 引き受けてくれるかね?」と言いたげな視線を向けてくる国王。ありふれたファンタジー小説のような展開に対して、歩夢は、露骨に顔を顰めた。


(やっぱりきたかぁー……ラノベとかでよくある展開だよ……やだー、もう……僕にはそんな余裕ないのに……)


 心の中で悪態を吐くその脳裏には、自身の家族の姿が浮かんでいた。


 歩夢の家は母子家庭で、ついでに四人兄弟の長男だ。姉が一人と弟一人に妹一人がいる。

 五年前に父が交通事故でなくなったてから、上坂家の家計を支える母を助けるため、歩夢は姉と一緒にアルバイトをしている。

 そんな裕福とはいえない環境で長男である自分がいなくなれば、家族の大きな負担となってしまう。


 さらに弟は来年、高校受験。

 異世界召喚こんな事が原因で受験に失敗したら目も当てられない。


 だから歩夢にとって、国王側の要求は到底納得出来るものではなかった。

 見れば、ようやく事の重大さに気づいたのだろう。他のクラスメイト達も困惑していた。

 勇者だの異世界転移だの、胸躍る設定が許されるのは二次元だけと言うことだ。


 しかし、悲しいかなここは敵地アウェー

 仮に“勇者”の立場を武器に抗議しても、実際の立場は向こうが上だ。

 下手に噛みつけば最悪、不敬罪でそのまま死刑なんてことも考えられる。


(一体、どうすればいいんだよ……イテッ!)


 どうすればと、歩夢が頭を抱えていると不意に頭を小突かれた。

 恨みがましい目で振り返ると、複数の生徒が歩夢を見つめていた。


(な、なに?)

(『なに?』じゃねぇよ。上坂、お前なんとかしろよ!)

(は? なんで僕が!?)

(なんでって委員長だろ? お前が代表して元の世界に戻すようにあいつらに言えよ!)

(えー……無理でしょ……)


 無理難題を押し付けてくるクラスメイトに、歩夢は即答する。

 そもそも、委員長になりたくてなったわけじゃない。

 クラスの委員長を決める際、どこかで聞きつけたのか勇弦が「中学でもやったんだから、高校でもやるべきだッ‼」と無理矢理推薦してきたのが原因だ。

 本人は「本当なら俺が委員長をやりたいんだが、経験者に任せた方が安心だっ!」と善意からの推薦だったのだろうが正直、ありがた迷惑だった。

 そして、本人の意向を無視し大多数が賛同。数の暴力に屈し、歩夢は委員長に祭り上げられた訳である。


(いいから早く、あいつらに元の世界に戻すように言ってこい!)

(そうだそうだ! 委員長なんだから、ちゃんとやれ!)

(え!? ちょ、おま、ホント勘弁してよぉぉぉぉぉぉ‼)


 自分が四○人近い人間の未来をどうこう出来る訳ないだろう。

 そもそも異世界召喚なんてイレギュラー、対応できるわけないだろ‼

 少しは手加減してくれや‼

 そんな文句も黙殺され、歩夢は前に押し出される。


(うぅ……仕方ない、やるしかないか……)


 キリキリ痛む胃を抑えながら「あの……すいません……」としぶしぶ挙手する。

 途端に周囲の注目を浴びることになる。


「ぬ? 其の方、なにか言いたいことがあるのか? 申してみよ」

「え? えぇとですね……あの……僕たちもいきなり呼ばれた訳ですし、その……戦うにしても……心の準備ってのが出来てなくて……あの……元の世界に帰してくれないかなぁと……思ってたりなかったり……?」


 王に言われ意見を述べるも、周囲の半端ないプレッシャーに耐えきれず、声のボリュームは下がり、呂律も回らず、ついには語尾が消失してしまった。


「そうですよ‼ 上坂くんの言う通りです‼ 私達、戦いなんてできません‼」


 だがしかしッ‼ そこに女神が救いの手を差し伸べたのであるッ‼

 否、女神ではない。されどそれに匹敵する可憐な容姿の美少女であったッ‼


「あ、愛川さん……」

「大丈夫、上坂くんは間違ってないよ?」


 歩夢を援護してくれたのは、愛川綾音あいかわあやね

 腰まで届く艶やかな長い髪に優しげながら強い意志を秘めた瞳。

 アイドル顔負けの美貌を持ち、性格も優しく穏やかで誰にでも分け隔てなく接すると言うまさに、女神レベルの慈愛の持ち主だ。

 歩夢も委員長の業務とバイトで忙しい身をなにかと気にかけてくれている。


「くそう……上坂の野郎……うらやましい……」

「爆発してしまえ……」


 ……当然、野郎どものやっかみも酷いものだが。


(って言うか、この状況下でプラトニックな友人関係に嫉妬するなよ‼ なんにもないの‼ ただのクラスメイトなの‼)


 クラスの野郎どもの嫉妬と殺意の籠った視線を受けて、ますます肩身が狭くなる歩夢。

 しかし、そんな二人の発言にクラスメイト達も賛同し始めた。


「無理矢理連れてこられて、戦争だなんて……」

「召喚する方法があるのなら、送還する為の方法もあるでしょう? これでは誘拐と同じではないですか!? 早く、元の世界に帰してください‼」

「そうだ‼ さっさと送還しろ‼」

「私、小説家としてのデビューが決まってるのよ!? さっさと帰してよ‼」

「愛川さんの言うとおりだ! 俺たちは戦争なんてできないぞ!」

「愛川さんの言い分が正しい! 俺たちをもとの世界に帰せ!」

「むしろ、俺と愛川さんだけ戻してくれ! 上坂はどうなってもいい!」


 ……とりあえず、綾音と自身の人望の差を見せつけられながらも、賛同者を得ることができた。

 しかし、国王は申し訳なさそうな表情でこちらが最も聞きたくない台詞を口にした。


「すまないが、それはできぬ。我々が知っているのは、召喚する為の方法のみなのだ……」

「左様。あの召喚陣は聖神様に我ら信者が祈りを捧げることで、発動するもの。つまり、貴殿達がこの世界に召喚されたのは、神のお導きによるものなのです。それに反するなどと言う、罰当たりな事を出来る筈がありません」


 再度、頭を下げる国王に、「神の意思ゆえに」とあくまで毅然とした態度で不可能と断じる大司教。

 理不尽な展開と二人の無責任な対応に、生徒たちは愕然とする。


「魔王を倒した暁には、そなたらを帰す手段を見つけよう」


 国王はそう言うも、大半が納得できていない。

 歩夢も例外ではなく、頭の中が真っ白になりかけた。が――


「ひゃっ!?」


 不意にクラスのアイドルに手を握られ、思わず変な声が出てしまう歩夢。

 やわらかい! 白魚のような手とはこういうのをいうのか。 なんかいいにおいもするし!

 思春期の少年らしくドギマギする歩夢を他所に、当の彼女はより手に力を込めて、耳元で囁く。


(しっかりして……気を確かに持って。歩夢君だけが頼りなの……!)


 彼女の手の温もりが、彼女の言葉が失意の歩夢の意識を覚醒させた。


(ここで挫けないで! なんとかみんなで、今後のことを相談できる時間を稼いで‼ お願い‼)


 うるんだ、しかし自身への信頼を秘めた、まっすぐな瞳で見つめられ、歩夢は生唾を飲み込みながら覚悟を決める。


(そうだ……! とにかく今、必要なのは対策を練るための時間だ。こんな頭に血が上った状態じゃ、ロクな判断も下せない。簡単に答えを出して相手側に主導権を渡す真似だけは避けなきゃ! 大丈夫! お前はやれる! 漢を魅せろぉ!)


 自らを奮い立たせ、歩夢は国王へ自分の考えを伝える。


「そ、そちらの事情は分かりました。しかし、唐突な事なので、申し訳ないのですが、みんなで相談する時間を……」

「分かりました! 俺たちに任せてください‼」

「ふぁっ!?」


 ……伝えようとしたのだが、勇弦がフライング気味に了承してしまった。

 相撲だったら大顰蹙。陸上だったら即刻退場である速さである。


「ちょっと霧峰くん!? 一体なに言ってんの!?」


 せっかくの大事な場面を横取りした勇弦の暴挙を止めに入るも後の祭り。

 クラスメイトたちの視線が勇弦に注目すると、彼の演説会が幕を開けた。


「みんな聞いてくれ‼ 確かにこの状況は理不尽だ‼ 不満だってあるだろう‼ だけど、この世界の人々だって、それだけ必死なんだ‼ 俺には救いを求めて伸ばした手を振り払うなんて真似できない!! それにこの人達だって、なんの考えもなしに俺たちに戦わせようとしている訳じゃない。なにか対策を練っている筈だ‼ そうでしょう?」

「おぉ……流石は勇者様。そこまで見抜いていらっしゃるとは……‼ なんたる慧眼でしょう。おっしゃる通りです。我々は皆さまの内に眠る潜在能力を解放する方法を知っております。その力を持ってすれば、魔族達とも戦えるでしょう」

「やっぱりそうか‼ それなら魔王と戦うことができる!!」


 勇弦の推測を大司教が肯定する。

 しかし、それを差し引いても戦争参加に踏み切る訳にはいかない。


 ……なのに事態は最早後の祭り。


「霧峰君の言う通りだ‼ どうだい? ここは一つ、人助けだと思って彼らに協力しようじゃないか‼」

「納得は出来ないけど、このままごね続けるよりも、魔族と戦って、帰る方法を探す方がいいんじゃない?」

「戦争と言ったって、相手は人間じゃあないんでしょ? それに、いきなり戦えって訳じゃないじゃないでしょ? ちゃんと相応の訓練くらい、受けさせてくださいますよね?」

「えぇ、当然です。流石に勇者様方を、いきなり死地に送り込むようなことは致しません。相応の訓練を受けて頂いた上で、魔族と戦って頂きます」

「ほら‼ 協力してくれるって‼ 色々不満があるのは分かるが、力を合わせて魔族を倒そう‼」

「おおおおおおおおおお‼」

「えええええええ!?」


 数名が勇弦に賛同したのを皮切りに熱意が伝染。

 一人、また一人と生徒たちの態度が変わり、遂にはほぼ全員が「魔王と戦う!」と言い出した。


「そうだ‼ 俺たちは選ばれた存在だ‼ 魔族なんて皆殺しにしてやるよ‼」

「そうだ、そうだ‼」


 不良たちに至っては、魔族皆殺し宣言。

 どうしよう。「倒す」ではなく「皆殺し」と言うあたり、人間性を疑う。


「って、みんな、ちょっと待って‼ もっと冷静に考えてよ‼ 戦争だよ!? 殺し合いするんだよ!? ヤバ過ぎるって‼」


 クラスの半数以上が「打倒・魔族‼」の意思表示を行い、戦争ムード一色に染まりつつある中、慌てて歩夢が「異議アリ‼」と主張。

 しかし、そんな態度がお気に召さなかったのか。勇弦が胸倉を掴んできた。


「上坂、キミはさっきからなんだ!? 目の前で困っている人がいると言うのに、『いやだいやだ』と子供みたいに騒いで自分の事しか考えてないじゃないか‼ 見損なったよ‼」

「えぇ!? どこをどうしたら、そうなるんだよ!? ただ冷静に考えろって言ってるだけじゃん‼」


 どうやら彼の脳は現在、相当量のアドレナリンが分泌されてる模様。

 興奮状態から冷めず、感情のままに脊髄反で発言している。

 それは他のみんなも同じらしく、必死に説得を試みる歩夢に軽蔑の視線を向けて、罵倒してきた。


「そうよ‼ 霧峰君の言う通りよ‼」「普段から役立たずの癖に何様のつもりよ‼」

「へっ、どうせビビってるだけだろ? ダセェな、オイ‼」

「そんな人だったなんて……見損なったわ……」

「最低」「キモい」「死ねばいいのに」「二度と話しかけないで」

「み、みんな……」


 まさかここまでボロクソに言われるとは……

 クラスメイトの暴言の嵐に絶句する歩夢を放し、勇弦はキリっとした表情で国王を見据えて宣言。


「安心してください、国王陛下‼ 俺たちはこの世界の事を見捨てません‼ 絶対に魔王を倒して、ライアガルドに平和を取り戻して見せますッ‼」

「おお‼ 頼もしいですぞ‼ 勇者様‼ お主らの行く先に幸あれ‼」


 勇弦の言葉に感動した国王が涙を流し、祝福の言葉を送る。

 他の皆も「うおおおおおおおおおおおおお‼」だの「きゃああああああああ‼」だの「SUGEEEEEE‼」だのと歓声を上げる。


 そんな大盛り上がりの中、一人取り残された歩夢の肩を綾音が何とも言えない表情で、ポンと叩き一言。


「あ、歩夢君、その……ドンマイ……」

「……」


 こうして、最早「魔王退治?やっぱ無理」とは、とても言える空気ではなく、歩夢たちは戦争に参加することとなったのであった。

 同時に歩夢にとっての苦難の日々も始まりでもあった。

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