第8話 『ゆめ』

☆★☆



「ふーん……」


 興味ない、と言いたげにカラカル。


「そ! まあ、びっくりはしたけど騒ぐほどのことじゃないわね!」


 尻尾を揺らしながら。


「いやいや、私なんかびっくりしすぎて大騒ぎしちゃいましたよ?」


 横に並んだヌイ。


「でも、なんでトモエとしか話さないのよ?」


「うーん……なんだかよく分からない事情があるみたいです……」


 二人で、眺める。



「あ! 今ダチョウちゃん動いたー!」


 声を上げるトモエ。


「ふわぁ~!?」


「……っ!」


「……」


 残るは二人。



「え~? 私動いてた~?」


 トボトボと歩いてヌイとカラカルのもとへ。


「はい。割とバッチリ」


「動いたわね!」


 揃って首肯。


「う~、もうちょっとだったのに~」


 悔しさを滲ませて。


「次こそは、ですよ!」


 ダチョウを励ますヌイ。


「にしても、ホント変わってるわよね、あの子」


「そりゃあ、なんたって『ヒト』ですからね!」


 ふんす、と鼻息荒く。


「……この新しい『あそび』といい、『あだな』といい……ヘンなコトばっかりね!」


 ふん! と鼻を鳴らして。


「だから面白いんじゃないですか!」


 心外そうな声。



「だーるまさんがー……ころんだ!!」


 楽しそうな声。



「……だいたい、なんだってわざわざ別の名前を付ける必要があるのよ? ……『ヌイ』……だっけ?」


 パタン、パタン、揺れる尻尾。


「それと、『ビス』? ボスだって『ラッキービースト』って名前だったんでしょ?」


 ふてくされた声。


「ああ、違います違います。名前が変わったんじゃなくて、ただ別の呼び方をするってだけなんですよ」


 軽く手を振って否定する。


「だから今まで通りに呼んでいただいて大丈夫ですよ?」


 そう言ってカラカルの顔を覗き込むヌイ。


 小首を傾げながら、


「……ひょっとして拗ねてます?」


ニヤニヤと。


「拗ねてない!」


 ムキになって否定するカラカル。


 完全に背中を向けてしまった。


「イエイヌちゃんはイエイヌちゃんだもんね~?」


「そうですとも! 私は私、ですよ!」


 その背に向かって話す二人。



「だるまさんがころん、だっ!」


「はい! シマウマちゃん動いたー!」


「んがっ!!」


 たたらをふむシマウマ。


「っかー! まーたボスだけ残っとー!」


 こちらはズカズカと。



「ボス、すごいね~。あんなピタッて止まれるの~」


「ほーじゃのう……」


 ダチョウの横に並ぶ。


「あいがボスん得意、じゃったんじゃのう」


 感慨深そうに言う。


「ボスと遊ぶ機会ち無うたけん、ちーとん気付かんかったわ」


「ね~?」


 うんうんと相づちを打つダチョウ。


「そいによぅこげん遊び方ば知っちょったの、トモエんやつ」


「そりゃあ、なんたって『ヒト』ですからね!」


 何故か得意げなヌイ。


「そうじゃったの……」

「そういやぁ、カバんやつもなんぞ言うちょったの。『ヒト』いうんは賢うていろんなもんこさえたり使ったりしちょったち」


「ほえ~、そ~なんだ~」


「まあ、あいじゃの! 変わったやつじゃ!」


 呵々と一笑。


「それシマウマちゃんが言う~?」


「なんじゃと?!」


 いつものようにギャーギャーと言い合う二人。


「……」


 未だ背を向けたままのカラカル。


 その背中を見つめる色違いの瞳には、気付かないまま。



「タッチ!」


「っだあー! また負けたー」


 がっくりと肩を落とすトモエ。


「はあ……ビス、強いねー」


「マア、ジットシテイルノハ、クニシナイカラネ」


 自慢げに耳をピコピコと。


「うー……。よし! もっかい!」

「みんなー! もっかいやろーよ!」


 ぶんぶんと手を振る。



「またボスん勝ちかー」


「今度は負けないよ~!」


 二人でトモエのもとへ。


「カラカルさん」


 背中に声をかける。


「行きましょ?」


「……分かったわよ」


 少しだけ、寂しそうに。



「じゃ! 次はカラカルちゃん『おに』ね!」


「な、なんでアタシが!」


「そりゃーいっちゃん最初に動いてしもたけんの!」


「『おに』が見てるときは動いちゃダメ~なんだよ~?」


「分かってるわよ! それくらい!」


「ふふふ、次はどうなりますかね?」



「それじゃ、おさらいするよ!」

「今回はカラカルちゃんが『おに』だから、タッチするのは壁ね!」


 『小屋』の外壁を指すトモエ。


「一番最初にタッチした子の勝ち! 動いていいのは『だるまさんがころんだ』って『おに』が言ってる間だけ!」


「『おに』がこっちを見ている間に動いちゃった方は『はずれ』で、一番最初に『はずれ』た方が次の『おに』ですね! 覚えました!」


「それで全員『はずれ』たら『おに』の勝ちで、やっぱり最初に『はずれ』た子が次の『おに』!」

「あと、誰も『はずれ』なかったときは、一番遠くにいた子が次の『おに』!」



 それは、トモエが考えた特別なルール。


 ビスが皆と一緒に遊ぶための。


 たとえビスが『おに』になったとしても、誰かを捕まえに行く必要は無い。


 ビスからフレンズの皆に触れることのないルール。


 唯一の難点は、トモエが一緒に遊ばなければならないことか。


 なら、なにも問題は無い。



☆★☆



「だ~るまさんが~――」


「タッチ! ふふーん、あたしの勝ちー」


「ふあ?……え~、まだ誰も『はずれ』にしてないのにぃ~」


「一番遠いのは……ビスだね!」


☆★☆


「ダルマサンガ、コロンダ」

「……トモエ、ヌイガ、ウゴイタヨ」


「はい、ヌイちゃん『はずれ』ー!」


「あちゃー、また駄目ですか……」


「ダルマサンガコロン、ダ」


「トモエ、キミガウゴイタネ?」


「うあ……あーあ、みんな『はずれ』かー」


「ボクノ、カチ、ダネ」


「じゃあ『おに』はカラカルさんですね」


「ちょっとー?! アタシの『おに』多くない?!」


「お前が弱いんが悪か! 諦めい!」


「あはは~、へたっぴ~」


「う、うるさい! みてなさいよ!」



☆★☆



「ふうっ、だいぶ暑くなって来たねー」


 パタパタと顔をあおぐトモエ。


「そうですね、もうお昼になりますし……」


「そいじゃ、こいで仕舞いじゃのう!」


「え~? やだ~、まだ遊びた~い!」


「ほーかほーか、そやんやったらお前ん分のジャパリまんば、うちがもろうてええの?」


「いや~!! ダメ~!!」


 イヤイヤと首を振るダチョウ。


「どっちが勝つかな?」


「いやー、やっぱりビスでしょう」


 騒ぐ二人をよそに、勝負の行方を見守る。



「むむむむ……!」


「……」


 静かに佇むビス。

 もはや、壁は目の前。


 対し、カラカル。

 目を皿のようにして、その動きを一寸たりとも見逃すまいと。


 次で、決まる。



「……っ!!」


 バッ! と顔を伏せるカラカル。


「タ――」


 一歩、踏み出したビス。


「動いた!!」


 カラカルが叫ぶ。


 渾身のフェイントであった。


 咄嗟の思いつき? 否。

 取っておいたのだ、この瞬間まで。

 一度も使わずに。


 執念か、驕りか。勝敗を分けたのは。


 再び静止した二人。



「……どうだった?」


 ヌイに尋ねるトモエ。


「はい、確かに」


 コクリと頷く。


「じゃあ……カラカルちゃんの勝ち!!」


 勝利が告げられた。



「……ぃやっったー!!!」


 諸手を挙げて。


「……」


 無い肩をがっくりと。


 それぞれが対照に、動き出した。



「おー、やりおったわ」


「カラカルちゃん、すっご~い!」


「まさかビスが負けるとは……お見事です」


「おめでとー! カラカルちゃん初勝利!」


 パチパチと拍手を送るトモエ。


 皆で二人のもとへ。


 が、


「やったやったー!! うわーい!!」


興奮冷めやらず、喜びを全身で表すカラカル。


 よほど嬉しいのか、ピョンピョンと笑顔で跳ねている。


「……ぷふふ」


「はっ!」


 ふと我に返ると、皆の微笑ましいものを見る眼差し。


 さっと顔に朱が差す。


「な、なななによ!!」


「いえいえ、なんでも……ぷふっ」


 口を押さえるヌイ。ニヤニヤ。


「ふははは!! そがんまで嬉しかとや!?」


「あはは~、カラカルちゃんか~わいぃ~」


 からかう三人。


「う、う、うるさーい!!!」


 顔を真っ赤にして。


 喧々囂々と騒ぎ合う。


「……」


「あーあ、残念でした!」


 ポン、とビスの頭に手を置くトモエ。


 残念そうに見えるのは、決して負けたからだけではないだろう。


 きっと言いたいことが、伝えたいことが沢山あるのだろう。でなければ……


 でなければ、こんなにも口惜しそうになどするものか。


「……次は、あたしも負けないからねっ!」


「……ソウダネ」


 いつか、きっといつか。



☆★☆



「はーっ、お腹すいちゃったー」


 遊びを切り上げ、皆で『小屋』の中へ。


 腹をさするトモエ。


「えと……お昼ご飯って、みんなどうしてるの?」


 はたと気付いて聞く。


「んー? そりゃあジャパリまんに決まっとうよ?」


「あーごめん、そうじゃなくて、みんなご飯はどこで食べてるの?」


「どこでて……んなもん、どこでん食いよったい。のう?」


 カラカルに振るシマウマ。


「そうね、どこに居たってボスが持ってきてくれるもの。気にしたことないわ」


 頷きながら。


「そーなんだ!」


 ビスを見るトモエ。


「大変じゃない?」


「スヲ、モタナイシュウセイノフレンズモ、オオイカラネ」

「ソウイウジタイハ、ソウテイズミサ」


 ピコピコ、誇らしげに。


「ボクタチ『ラッキービースト』ノアイダデ、ネットワークヲツウジテソウゴニ、ジョウホウノヤリトリヲシテ、リンキオウヘンニ、タイオウシテルンダ」


「……」


 一瞬、静まり返る一同。


「……思うとったより、えらい喋りおるの」


 ポツリとシマウマが。


「……ええと?」


 困り顔でトモエを見るヌイ。


「……うん、頑張ってなんとかしてくれてる……みたい」


 多分、と。


「以外と声かわい~よね~」


「……今か? 今言うんかそれ?」


 マイペースなダチョウにシマウマが。


「まあ、心配は要らないってことよね!」


「ですね。おかげさまで今日もおいしいジャパリまんが食べられます!」


 ビスに向き直るヌイ。


「いつもありがとうございます」


 ぺこりと。


「気にしたことん無いじゃったが……言われてみればそうじゃのう」


 同じく、シマウマも。


「ありがとうの、ボス!」


「ありがとね~。あ、今日は甘いのが食べたいな~」


 同じく、ダチョウも。


「お前……言うちょるそばから……」


「まったく、世話のやけるヤツばっかりで大変よね! ……感謝してあげるわ!!」


 尊大にカラカルが。



「……だって?」


 ビスを見るトモエ。


「他の『子』たちにも、伝わるよね?」


「……ソウダネ」


 たとえ言葉を交わせなくとも、その気持ちだけは。


「……キット……」



☆★☆



「それじゃ……いただきまーす!」


 また車座になった一同。真ん中にはこんもりと積まれたジャパリまんの山。


 その山を前に、皆で手を合わせる。


「ほーん、やっぱり変わっちょるの!」


「ね~? ……でもそれシマウマちゃんが言う~?」


「せからしか!! うちんどこが変わっとーち言うんじゃ?!」


 いつものやりとりの二人。


「ま、悪くはないわね!」


「ですよねぇー。なんたって口で『ありがとう』って素直に言わなくて済みますもんねぇ?」


「う、うるさい! そ、そんなんじゃないんだから!」


 こちらの二人も。


「こらー、食べるときはうるさくしちゃ駄目だよ!」


「「「はーい」」」「……ふん」


 そこにトモエの叱責が飛ぶ。

 一名ほど不服そうだが。


「えーと……どれにしようかな?」


 ジャパリまんの山を前に、悩むトモエ。


 白、黄、赤、緑、青……色とりどりのジャパリまん。


 先ほど、複数の『ラッキービースト』が入れ替わり立ち替わり運び込んで来ていた。


「これは誰のー、とか決まってるのかな?」


 特に種類によって分けられているわけではなさそうだが、一応、ビスに聞いてみる。


「イイヤ、コレハ、ハンヨウタイプダカラ、ドノフレンズガタベテモ、ダイジョウブダヨ」


 耳をピコピコと。


「フトクテイタスウノフレンズガ、コウヤッテアツマッタリシテイルト、ワケルノハムリダカラネ。イチバンアキヤスイタイプダカラ、アジハホウフニシテアルヨ」


「ふーん……」


 話を聞いている間にも、



「あ~! 白いの! 白いの取っちゃダメ~!」


「いーやーじゃ! お前そう言うて自分じゃ食べんかろ?」


「だってかわい~もん! こんな、こんなにかわい~のに……」


「あもっ……うむ、うまい」


「あ゛~!?」


「ほれ」


「はふぁっ! もぐもぐ……うえぇ~ん、おいしいよぅ~……」


 シマウマに突っ込まれたジャパリまんを、泣きながら頬張るダチョウ。


「うーん……これね!」


「ほほう、青ですか」


「な、なによ。そっちこそ珍しいじゃない、緑なんて」


「いやいや、せっかくですし普段食べない味をと思いまして」


「……そ」


「ふふふ♪」


 意味深に笑うヌイと、そっぽを向いたカラカル。



 皆、気ままに取って食べはじめていた。


「……これ、かな」


 一つ、手に取るトモエ。


 黄色いジャパリまんを、なんとなく。


「はむっ」


 ふわりと鼻を抜ける、香ばしい香り。


 柔らかな食感。餡は……なんだろう?


「もぐもぐ……」


 少しゴロゴロと口の中が。


 咀嚼すると、確かな噛みごたえ。


 口内に広がる旨味と、仄かな甘み。


「ごくん」


 飲み込んだあとに、少しだけ尾を引く後味。


 いや、くどくはない。ないが……


「はむっ、はむっ」


 すぐに次の一口が恋しくなる。


 止まらない。


「……んっ、ぷは」


 ヌイがいれてくれたお茶。


 さっぱりと口内を洗い流し、爽やか。


 黄色の味とは対極に感じる。が、


「はむっ!」


決して、お互いを邪魔してはいない。むしろそれぞれが適度に主張しあうことで調和している。


「ごくん……あ……」


 気がつけば、一つ平らげていた。


 さてどうするか。


 もう一つ黄色か? それとも……


「ふぅえ~ん、甘~いぃ……おいひぃよぅ~」


 そうか、白は甘いのか。……いやいや。


「はもっ……うむ、甘いんもええが、やっぱ赤じゃのう!」


 ふむ、赤いのは甘くないと。ではどんな……いやいや。


「久しぶりに食べたけど、なんかスースーするわね。こんなだったかしら?」


 ほうほう、青はスースーするのか。……いやいや。


「どうでしょうね? あむっ……緑は変わりないですね」


 ほほう、緑は変わりな……いや、元の味がわからぬではないか。


 さて、どうするか。


「むむむ……」


「どうしました?」


 難しい顔をしたトモエに尋ねるヌイ。


「いやー、次にどれを食べようかなーって」


「あんまり悩んでると、無くなっちゃいますよ?」


「うぇ、そうだよね……」


 気がつけば、山がだいぶ小さく。


「こういうときは早い者勝ちですから♪」


 言いつつ、ヌイは新たな一個へ。


「ぬぬ……じゃ、じゃあこれ!」



 こうして、皆でジャパリまんの山を平らげたのだった。



☆★☆



「じゃあいい? せーのっ、ごちそうさまでした!」


 いただきます、と同様に皆で揃えて。


「あー食うた食うた」


 ポンポンと腹を叩くシマウマ。


「はふぅ、おなかいっぱい~」


 満足そうなダチョウ。


 と、


「……くぁ……」


カラカルの欠伸が。


「ふむ……お昼寝にしましょうか」


「んー……さんせー……」


 眠気には勝てないのか、素直にヌイの提案を受け入れる。


「うーん、ちょっともったいない気もするけどなー、いい天気だし」


 窓から外を覗くトモエ。


 日は頂点あたりか。上からギラギラと地上を照りつけている。


「いやー、むしろ天気が良すぎるんですよ。暑すぎて出歩く気が無くなっちゃうくらいに……」


「ほーかのう?」


「さぁ~?」


 ヌイの言に首を捻る二人。


「……アンタらは平気でも、こっちがもたないのよぅ……」


 ずるずると崩れ落ちるカラカル。


「……みてないからって……あんまり……はしゃぐんじゃ……ないわよ……」


 そのまま、再び眠りにつく。


「すぅ……すぅ……」


「さて……どうします?」


 残りの三人に問うヌイ。


「ん~、眠くはないかな~?」


「そらたっぷり寝とっけんの、お前は」


「てへへ~」


 誤魔化すように笑うダチョウ。


 はあ、とため息を漏らすシマウマ。


「……こんやつば、一人にしとるとどがんなるか分からん。うちもええわ」


 最後に、トモエ。


「ん……どうしよっかな」


 チラリと外を見る。

 揺らめく陽炎。


「……じゃあ、お昼寝で」


「ふむ……どうしましょうか……」


  呟くヌイ。


「構わんぞ。今度は目ぇ離さんけん」


 頷きながら、シマウマが。


「……では私もお昼寝しますね」


「おっしゃ! ほんなら散歩でんしてくるわ」


「わ~い! ……あれ? かけっこは~?」


「無し!」


「はぅ!」


 そう言って立ち上がる二人。


「さぁて、そいじゃあ適当に行ってくっけん」

「そうさの……日ぃ暮れる前にはもっぺん顔出すわ」


「じゃあまたね~」


 手をふりふり、『小屋』を出て炎天下の中へ。


「ではまたー!」


 手を振り返して見送るヌイ。


「またねー! ……行っちゃった」


 倣ってトモエも。


「さてさて、ではお休みしましょう」


「そだね……くぁ」


 気が抜けたか、思わず欠伸が。


「ふふっ、ではこちらへどーぞ」


 そう言ってベッドを指すヌイ。


「え? いやいや、昨日も借りちゃったし……悪いよ」


「大丈夫ですよ。私、あんまりあれでは寝ないので」


「……そうなの?」


 怪訝そうな顔。


「はい。ふわふわし過ぎてて、落ち着かなくて」


「……そっか」


 じゃあ、とカラカルの横を静かに通ってベッドに。


「……お借りします」


「はい♪」


 横になるトモエ。


 同じくベッドの脇に、ヌイも。


「じゃ、お休み……」


「お休みなさい」


 ゆっくりと目を閉じる。


 すぅすぅと聞こえるカラカルの寝息。


 風の音。


 不思議と、寝苦しくはない。


 考える。


 ヌイのこと、ビスのこと、みんなのこと。


 そして自分のこと。


 出来なかったこと、出来たこと、したいこと。


 やがてヌイの寝息が聞こえてきて。


 意識も、考えも、すべてが曖昧に。






☆★☆






――ねえ、そのこ、だいじょうぶ? こわくない?



 懐かしい声が聞こえた。

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