第6話 『ともだち』

☆★☆



「……う……ぅん」


 寝返りと、身じろぎ。


 瞼に日差しを感じる。


 暖かい風。


「うっ……うぅー……ん」


 そのまま、伸び。


 段々と、意識がはっきりとしていく。


「ふっ……くぁ~ぁ……」


 体を起こし、あくびを一つ。


 目を擦ったなら、その先には、


「おはようございます、トモエさん」


「オハヨウ、トモエ」


すでに起きている二人。


「ふぁ、おふぁよぅ……」


 あくび交じりで挨拶を返すトモエ。


 何度か、伸びとあくびを繰り返すうち、完全に意識が覚醒する。


「……あれ? 朝?」


 昨日の記憶、セルリアンが倒されてから先が曖昧だ。


「あたし、どうやってここに……?」


「ふふふ、あとちょっとのところまでは頑張ってましたよ?」


 カチャカチャ、と紅茶を用意しているヌイが。


「ぅえ、じゃあヌイちゃんが……」


「はい♪ 大変でしたもんね?」


 そう言って、入れたての紅茶を差し出す。


「はい、どーぞ。朝ごはんにしましょう」


「うあ~、ごめんね、いろんなことお世話になっちゃって……」


 申し訳なさそうに縮こまるトモエ。


「いえいえ、お気になさらずに! 楽しいからやってるだけですし」

「ささ、冷めないうちにいただきましょう」


 サイドテーブルにカップを置き、トモエの横に腰掛ける。

 トモエに一つジャパリまんを渡して、


「えと、いただきまーす」


 ぎこちなく、合掌。


 チラリとトモエを見る。


「うん、出来てる出来てる」


「あはーっ! やっぱり面白いですね!」


 お墨付きをもらい、嬉しそうなヌイ。


「じゃ、いただきます、と」


 続いてトモエも。


 二人でジャパリまんにパクつく。


「あ、前のと味、違う……」


 一口囓り、ポツリと。


「はい。何種類かあって、フレンズによってもらえる種類が変わるんですよ」


 パクパクと、自分のを食べながら、ヌイが。


「たまに珍しい味が混ざることもあって、そういうのはみんなでわけたり、交換したりしますね」


「へぇー」


「ほら、私なんか『ヒト』の物を集めてますけど、もう他の誰かが拾っちゃってたりした物は、そういう珍しい味のと交換してもらったりしてます」


「ほほー」


「デキレバ、ヤメテオイテ、ホシイケドネ」


 横から、ビスが。


「タショウハ、シカタガナイケド、カクフレンズノ、タイチョウカンリモ、カネテイルカラネ」

「エイヨウガ、カタヨルカモシレナイシ、メッタニナイケド、タイチョウヲ、クズシタフレンズヘノ、トウヤクチリョウモ、オコナッテイルカラ」


 やはり顔を見合わせる二人。


「……どうです?」


「んー? あんまりジャパリまんは他の子にあげないほうがいい、みたい」


「え~」


 顔を顰めるヌイ。


「だって、みんなやってますし……」

「『たべあきたのです』って言ってる方もいますし……」


 拗ねたように言う。


「だって?」


 会話を取り持つトモエ。


「……アキナイヨウ、ドリョクハ、ツヅケルヨ」


 どことなく口惜しそうなビス。


「トコロデ、キノウノ、ケンサクケッカガ、デテイルヨ」


「あ! ごめんビス! すっかり忘れてた!」


「あ、私も気になってたんですよ!」


 申し訳ない、と詫びるトモエと、ウキウキとしだすヌイ。


「『かばん』さんのこと、何か分かったんですか?!」


「うんうん、どうだったの?」


「ケンサクケッカヲ、ホウコクスルヨ」

「ガイトウケンスウ、1」


 淡々と告げるビス。


「シメイ、トウロクナシ、アイディーナンバー、トウロクナシ、ギョウシュ、ザンテイパークガイド、ゲンザイイチ、ロスト、トッキジコウ、ツウショウ、カバン」


 スラスラと述べたのち、沈黙。


「「……」」


 そして二人も。



「……え、えーと……」


 困惑しているトモエ。


「……ごめん、分かんない」


「……」


 若干項垂れたようなビス。


「も、もう少し簡単に……とか、無理ですかね……?」


 ヌイが伺う。


「えっとね、『かばん』さんはどこにいるのかなーって……」


 おずおずと、トモエが。


「……ツウショウ『カバン』ノ、イバショハ、ワカラナカッタヨ」


 今度は短く答える。


「あ! 分かりやすい! ……けど……」


「今のは私も分かりました……」


 ビスの答えにがっかりする二人。


「んー、分かんないなら、しょうがないか」


「残念です……」


「……タダ」


 まだ、何かあるようだ。


「ん?」


「タダ、イドウケイロノログハ、ノコッテイタカラ、ドコニイコウトシテタカハ、ワカルヨ」


「ほんと?!」


「チズニ、ヒョウジスルネ」


 すると、ビスの目が光り、床に地図が投影された。


「わ! なにこれ?!」


「ふわぁ!! なんですかこれは?!」


 突然の現象に驚く二人。


「コレハ、キョウシュウエリアノ、チズダヨ」


 二人をよそに、


「ログヲ、カサネテミルネ」


地図に線が引かれていく。


「おおー……」


「?」


 およそ地図を一周した線が、途切れた。


「マズ、ログハ『ジャングルチホー』カラハジマッテ……」


 ピコン、とポインターが地図上で光る。


「ドウヤラ、『ジャパリトショカン』ヲメザシタヨウダネ。イドウソクドカラ、『ジャパリバス』ニノッテイルミタイダヨ」


 ポインターが地図の上を滑るように動いていく。


「ツギハ、『ヒノデコウ』ヲメザシタミタイダネ」


 一度止まったポインターが、またススッと。


「トチュウ、『ジャパリバス』ノ、ジーピーエスデータト、イッチシナイカショガ、イクツカアルケド、オオムネ『バス』ノイドウケイロト、カサナルヨ」

「ソコカラハ……ナゼダカ、ウミノウエヲ、イドウシテイルネ……」


 ポインターが地図の端、何も投影されていない地点で止まる。


「ログガアルノハ、ココマデダヨ」

「ホウガクカラ、オソラクハ『ゴコクエリア』ヲ、メザシタンジャナイカナ?」


 二人を伺うビス。


「……なんだかピカピカしてて綺麗ですね」


 少し遠い目をしたヌイと、


「ごこく……えりあ? あと、えっと……なんだっけ?」


 顔中に疑問を浮かべたトモエ。


「……」


 今度は、明らかにしょげ返ってしまうビス。

 耳が垂れ下がり、どころか描かれた眉まで垂れている。


「わ、あ、ごめんね! 頑張って教えてくれてるんだもんね?!」


「そうですよ! とっても綺麗で面白いですよ!」


「ヌイちゃんそれ多分フォローになってない!?」


 慌てふためいた二人がビスを宥めるのに、もうしばしの時間を要した。



☆★☆



「――ト、ココマデハ、イイカナ?」


 持ち直したビスが、再び二人に解説を行っている。


「うん、大丈夫。ね?」


「はい、分かります」


 うんうん、とうなずき合う二人。


 前に立つビスと相まって、まるで授業を受ける生徒と先生のようだ。


「まず、私達のいるここは『ジャパリパーク』の『キョウシュウエリア』で……」


「『カバン』さんが向かった先は、隣の『ゴコクエリア』!」


「ソウダヨ!」


 二人の解答に満足そうなビス。


「「いえ~い!」」


 パシン、と二人はハイタッチ。


「にしても、びっくりしました。『ジャパリパーク』ってまだまだもーっと、広かったんですね!」


「この『さばんなちほー』だけでも、すっごく広いのにね!」


「ソウダヨ」

「コノ『ジャパリパーク』ハ、『キョウシュウエリア』イガイニモ、イクツカノ『エリア』ニワカレテイテ、『キョウシュウエリア』ハ、ソノ1ブブンニ、スギナイノサ」


 何処か誇らしげに。


「それで……えっと、かんかつ? が違うから、ビスには他の『エリア』のことは分かんないんだよね?」


 トモエからの確認。


「ソウダヨ。ボクタチ、ラッキービーストニハ、ソレゾレタントウスル『エリア』ガ、ワリアテラレテ、イルンダ」

「ダカラ、ジブンガタントウスル『エリア』イガイノコトハ、ワカラナインダ」


「そっかぁー……でも、『カバン』さんが『キョウシュウエリア』にいた間のことは、分かったんだよね?」


 再びの確認。


「ソウダヨ」


「ハカセの居る『としょかん』にも立ち寄ってらしたんですよね?」


「ね?」


「ソウダヨ」


 段々とヌイとビスの仲立ちが板に付いてきたトモエ。


「でも、なんで『じゃんぐるちほー』からなの?」


「……ログガ、サイショニ、キロクサレタノハ『ジャングルチホー』デ、マチガイナインダ」

「ギャクニイウト、『カバン』ハ、ドノラッキービーストニモ、ミツカラズニ、『ジャングルチホー』ニ、ハイッタコトニナルンダ……」


 考え込むようなしぐさのビス。


「どこかからやって来たんじゃなくて、急に現れたってことかな……?」


 一緒になって考え込むトモエ。


「……それって!」


 ハッと気付いたヌイが。


「『カバン』さんはフレンズなのでは!?」


「あ、そうか……じゃあ、『カバン』さんは『ヒト』のフレンズ……かも?」


「……」


 答えられないのか、答えたくないのか、無言のビス。


「じゃあ……じゃあ、あたしは『カバン』さんと同じ……?」


「ですねぇ……」



 そこで会話が途切れてしまう。



 無言の間。



 ピクリ。


 突然に反応するヌイの耳。


「おや?」


 首を傾げつつ、立ち上がる。


「珍しいですね、こんな朝方に」


「どうしたの?」


 少し不安そうな声でトモエが。


「いえいえ、友達が遊びに来てくれたみたいです」


 クンクンと匂いを嗅ぐ。


「ああ」


 安心させるように、笑いかける。


「大丈夫、トモエさんも知ってる方たちですよ」




☆★☆





 しばらくして、トモエの耳にも届いてくる。

 足音、話し声、笑い声。


 わいわいと囃し立てる、騒々しさが近づいてきた。


 ヌイと二人、出入り口から声のするほうを見ていると、


「んだーがらおめえはー! 走っちょる時はしゃんと前見て走らんといかんち、なんべんいわすか!」


「え~だって~、ちゃんとシマウマちゃん付いてきてるかな~って、気になっちゃって~」


「それでセルリアンに自分から突っ込んでいくんだから! ほんっと、呆れるわね!」


「ん~、この体になってから、後ろが見づらくて~」


「ならせめて止まらんかい!」


三人の姿が。


「お! おぉーい!」


 手を振るシマウマ。


「おぉはよぅ~」


 同じくダチョウ。


「……ふん!」


 一人だけそっぽを向くカラカル。


「おはよーございまーす!」


 手を振り返して応えるヌイ。


「わあ……」


 三人を見て、笑顔を浮かべるトモエ。


「いつもは朝じゃないの?」


「ええ、遊ぶ時は夕方が多いですね……決まってるわけじゃないですけど」

「きっと、昨日のことで来てくれたんだと思いますよ?」


 そうして、三人を『小屋』へと招き入れた。




☆★☆




「はい、どーぞ♪」


 車座になって床に座り込む全員に、お茶を出すヌイ。


「……ありがと」


 しぶしぶ、といった様子で受け取るカラカル。


「ちゃんと、ふーふーするんですよ?」


「うるさいわね!? 余計なお世話よ!」


 ニヤニヤとしたヌイ。

 からかわれ、ムキになるカラカル。

 いつものこと、と気に止めないシマウマとダチョウ。


 トモエはそれらのやりとりを、お茶のおかわりを啜りながら静かに眺めていた。



「ん~と、それじゃあ~……」


 二人のやりとりの頃合いをみて、ダチョウが話を切り出す。


「昨日はありがとね~、おかげで助かったよ~」


 ぺこりと頭を下げる。


「イエイヌちゃんたちも頑張ってくれたって聞いたから~」


 お礼を言いに来た、と。


「そっちの子は、ともえちゃん? だっけ~?」


「あ、はい! トモエっていいます!」


 やや緊張しつつも、はっきりと応えるトモエ。


「あなたもありがとね~」


「い、いえ、そんな、全然、あたしは……」


 尻すぼみになるトモエ。


「はじめまして~……ん? はじめましてでいいのかな~?」


「いや、話するんはじめてじゃったら、はじめましてでええじゃろ」


 のんびりとしたダチョウに、シマウマが。


「そっか~。じゃあ、はじめまして~、ダチョウです~」


 再びぺこりと頭を下げるダチョウ。


 改めてその姿を眺めるトモエ。

 

 濃い褐色の、ふわふわとした髪。

 毛先だけ白いそれに、何やら羽根のようなものが。

 豪奢な睫毛に、くりくりとした目が愛らしい。

 全体的にふわふわとしていて、何だか手触りが良さそうだ。

 

「かけっこが好きで~走るのが得意なの~。あなたは~?」


「あ、ご、ごめんなさい。自分でもまだよく分からなくって……」


 申し訳なさそうに応える。


「あ~、生まれたばっかりだもんね~」


「心配せんでもよか! そのうち分かるけん!」


 呵々、と返したのはシマウマ。


「こんやつば、こげん立派な羽ば付いとっとーに、ちーとん飛べやせんからな!」


 そう言ってダチョウの頭をわしわしと撫でる。


「うあ~……や~め~て~……」


「こんやつに初めておうたときも、なんが得意か分からんち言いよっとけんが、かけっこばしようち話んなってみんなでやってみよっとにまあ、速えのなんの! うちも足ん自信ばあったけんども、おったまげたばい!」


 ダチョウの抗議も寄せ付けず、早口でまくし立てる。


「じゃけん、気にせんでよか!」


「あははっ、うん!」


 二人のやりとりに笑顔を見せたトモエ。


「でもほら、トモエさんにはアレがあるじゃないですか!」


「アレ?」


 ヌイから話を振られる。


「ほら! アレですよ、『絵』を描くやつ!」


「あ、そっか」


 言われて、ガサゴソとかばんからスケッチブックと色鉛筆を取り出す。


「それなぁに~?」


「なんじゃー?」


「何よ、それ?」


 三人の疑問の声を置いておき、手早く絵を描く。


「これはね、こうやって……こう!」


 カリカリ、シャッシャッ。


 あっという間に、一枚の絵になる。


 まだ下書きだが、はっきりとわかるほどに目の前の三人が写しとられていた。


「わぁ~!」


「な、今どがんしたと?!」


「……ふ、ふーん……」


「ふふふ、すごいでしょう?」


 何故か、自慢げなヌイ。


「えと……一応得意なのは、これ……で、いいのかな……」


 対して自信なさげに言うトモエ。


「すごかすごか! 一応なんてもんじゃなかねこれ!」


「ほえ~……すごぉ~い」


 素直に感心するシマウマとダチョウ。


 一方、カラカルは、


「ふーん……ふーん……」


まだ熱いのか、チロチロと舐めるようにお茶を飲みつつも横目でチラチラと。

 全く装えていない無関心のまま、尋ねる。


「で、で? それって何の役に立つのよ?」


「面白くてすごいじゃないですか!!」


 バンッ、と勢いよく立ち上がり、トモエより先に反論するヌイ。


「ま、まあまあ落ち着いて。……あんまり、役には立たないかも……」


 これが何の役に立つのか、思いつかない。


「ふん! そんなんじゃ駄目ね! セルリアンに襲われても、なんにもならないじゃない!」


「だよねぇ……」


「むぅ……そんなふうに言うことないじゃないですか……」


 落ち込むトモエと、むくれて頬を膨らますヌイ。


「いい?! セルリアンはそんな、す――そんなの、全然気にも止めないんだから! 生きてくにはセルリアンをなんとか出来ないと、食べられちゃうんだからね!?」


 辛うじて言いきるも、落ち着き無く揺れる尻尾。


「まーそがん言わんと! お前も見てみぃ!」


「そ~だよ~、ほら~そっくり~」


 カラカルの言を全く意に介さない二人。


 キャッキャとはしゃぎながら、絵と自分たちを見比べている。


「あ、色も付けておきたいな……」


 ポツリと漏らすトモエ。


「ちょっと、いいかな?」


「お? どがんすっと?」


 絵を受け取るトモエ。


「シマウマさんは……こう、で……」

「ダチョウさんは……こう」

「カラカルさんは……こんな感じかな?」


 カリカリ、シャッシャッ、ガリガリ。


 次々と、色を重ねる。


 どうすればいいか、考える前に手が動く。

 不思議な感覚。


 気がつけば、三人の絵が出来上がっていた。


 並んで笑う、三人の絵が。


「うん、出来た」


 満足そうに微笑む。


 と、


「……」


シーンと、静まり返る一同。


「あ、あれ? 上手く出来たかなって――」


 思ったんだけど、と続く言葉は、


「「「「すっごーい!!!」」」」


四人の声にかき消された。


「はーあ、こりゃおったまげたー!」


「うわぁ~! うわぁ~あ!」


「はー……!」


「あっはー!! すごいですねぇ! すごいでしょう!? すごいですよ!!」


 皆一様に、驚愕と感動に興奮している。


 一人つれない態度だったカラカルでさえ。


 興奮しきったヌイに肩をガクガクと揺すられても、目を丸くして感嘆の息を漏らすばかり。

 普段なら、はね除けていようその手に目もくれずに。


「うぇ?! え、えへへへ……」


 少し頬を染めて、モジモジとするトモエ。


「ほら~だから言ったじゃないですかー」


 カラカルの肩に手をかけたまま、ニヤニヤ顔でヌイが言う。


「ね? 面白くてすごいでしょう?」


 至近距離のドヤ顔にも、


「ぐっ……ぐぬぬ……」


ぐうの音を出すほかなく。


「っはー! こげなんなら、あんたの得意て胸張っていいわこら!」


「ね~?! こんなの出来る子、初めてみるよぅ~!」


 シマウマとダチョウの二人も、先より増してはしゃいでいる。


「そ、そうかなぁ、そうかなぁ」


 照れに照れるトモエ。


「まー、カラカルん言いよることも間違っちょりゃせんが、こら大したもんったい!」

「なんでんかんでん、得意なもんがセルリアン相手に役立たんといけん、ちゅうもんでもなかね?」


「むぅ……」


 シマウマに諭され、唸るカラカル。


「そうだよぅ~、私も自信が有るのは逃げ足だけだしね~」


 同意を示すダチョウ。


「……お前、そん足がどこ向こうちょったか覚えとっとや?」


「あうぅっ……で、でも~!」


 手痛く返され、ああだこうだとやり合う二人。



「……分かったわよ……」


 観念したように、カラカルが呟く。


「確かに、アンタの得意なことはすごいわ……」


「でもね! それとこれとは話が別よ!」


 が、すぐに持ち直す。


「戦うのも、逃げるのも苦手でも、そんなの関係ないわ! その……何とかなさい!」


 また、ビシッと指を突きつけて。


「守ってもらえるのが当たり前なんて思ったら、大間違いなんだから!」


「……」


「うん……そうだよね」


 でもそれは、


「あたし、その……まだ自分のことも、よく分かってないし……」


 きっと、


「きっと、いろいろ迷惑かけちゃうかも、だけど……」


 彼女が優しいから。


「でも、頑張るから! ……だから」


 だから、


「その、お友達に、なってほしい……です!」


きっと、もっと、仲良くなれると思うから。


「どう頑張ったらいいのか、とか、教えてほしいな……って」


 不安は、ある。

 でもそれ以上に。


「駄目……かな?」


 彼女に、いや彼女達に、歩み寄りたいと。


「……っそんなの――」


「おう! ええぞ!」


「うん! いいよ~!」


 二つ返事。

 トモエの葛藤も、カラカルの反駁も飲み込んで。

 躊躇いも無く。


「さあさ♪ カラカルさんも、ね?」


 言葉通りに後押し。

 ダチョウとカラカルの間に割り込み、座り直すヌイ。

 

 隣り合うカラカルとトモエ。


「……分かったわよぅ……」


 もはや形無しとなったカラカル。

 素直に、頷く。


「あ、アタシは厳しいんだからね!」


 顔を赤くして。


「うん! よろしく!」


 元気よく、トモエが応える。


「おう!!」


 竹を割ったようなシマウマが、


「こちらこそ~!」


 おっとりとしたダチョウが、


「ふん! 光栄に思いなさいよ!」


 素直になれないカラカルが、


「「「よろしく!」」」


 声を揃えて。



「あはー! 良かったですね、トモエさん♪」


 我が事のように嬉しそうなヌイ。


「あ! アレしましょうよ! 『あくしゅ』!」


 言うが早いか、カラカルとトモエの手を取り、繋げる。


「はい、『あくしゅ』ー!」


「えへへ……」


「な、なによこれ!?」


 驚きつつも、手は離さない。


「『ヒト』のご挨拶なんですって! 面白いでしょー?」


 ぶんぶんと揺れるヌイの尻尾。


「ふーん……変なの!」


 そっぽを向くも、手はそのまま。


「ほーん! 変わっとんな!」


「え~、シマウマちゃんがそれ言う~?」


「なんじゃと?!」


 再び、ああだこうだ言い合う二人。


「ぷ、あははっ!」


 こらえきれず、笑い出したのは誰からだったか。


 笑い合う誰も、そんなことは分からない。


 ただビスだけが、静かに皆を見守っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る