Interlude-2
♤.
「サムライ見参だぜクソ野郎!」
桜は地を蹴って一瞬で間合いを詰める。
ここまで距離を詰められた状態でライフルを使うのは分が悪い――そう判断したのか敵はライフルを手放し、それを桜に向かって蹴り付けた。
桜は
予想通り―――この距離で、しかも一瞬のうちにどこに弾が飛んでくるか判断、回避行動を取るのが可能という事自体驚愕だが桜もその手の技術では負ける気がしなかった。
桜が過去に所属していた部隊で、近接戦闘に関しては彼女に勝てる者など誰一人もいなかったから。
「オラオラ行くぜ!」
桜は拳銃を撃ってからも、流れるように動作間の無駄な隙間の無い神速の斬撃を繰り出したが、それも全部
斬撃、発砲。斬撃、発砲。
不可解だった。桜の攻撃は常人であれば既に絶命しているどころか、ここまでやれば所々に穴が空いた解体後の食肉のようにされているはずの速度と回数であった。
それでも全て掠りすらしない。全て無駄の全く無い必要最低限の動きで躱される。ここまで研ぎ澄まされた能力を持つ兵士を目の当たりにしたのは初めてのことであった。
しかし敵は繰り出される連撃を
――――もらった!
これで勝敗が決したかに思われた。だが、敵が見せたのは隙ではなく桜を陥れる為の罠だった。刃が皮膚に触れるか触れないかのところで敵はナイフの握られる桜の手を掴み、制止した。
「――――――ッ!?」
動揺が桜の動きを止める。そして次は彼女が生んだ隙を逃さぬように、敵は桜の
敵が近付いてきている。桜は苦痛に顔を歪ませながら自分の真横に落ちたP220に手を伸ばし、やっと指が
「・・・・・私の負けだ、やれよ」
桜はそう吐き捨てると、ゆっくりと目を閉じた。
たかが一兵士、大義の為といってもいつ駒として死ぬかも解らぬ身。遺書はもう書いてあるし、やり残した事もない。彼女は心を空っぽにして引き金が引かれるのを待った。
しかし、いっこうにやかましい至近距離の銃声が聞こえてこない。嫌な気がしたが桜がゆっくり瞼を開くと、敵は何やら苦しそうに頭を抑えながら震えていた。それは先程までの人間離れした動きからは想像も出来ぬ程弱々しい姿だった。
大丈夫?どこか痛いの?などと敵兵に語りかける間抜けはいない。桜は起死回生の
「お返しだこん畜生!」
桜が放った渾身の右ストレートをもろに受けた敵は凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。桜は肩で息をしながら敵が動きを止めたのを確認すると、その場にへたり込む。
「命拾い・・・したぜ・・・」
彼女はしばらくそのままでいたが、やがて顔を上げると気を失った敵のもとへ膝で這い寄った。
「クソが、どんなツラか拝んでやる」
そう言って桜は巻かれたスカーフをやや乱暴に剥がした。敵の素顔があらわになる。桜は鬼神の如く戦友を皆殺しにしたそいつの正体を知り、絶句する。
「
その短く切り揃えられた、限りなく白に近い金髪との境目が解らぬほど同じように真っ白な肌をした少女。その手を連日血で汚しているとは思えぬ程に、年相応のあどけない顔立ちをしていた。虚しさが桜の心を満たすと同時に、背後から厚い排気音が聴こえはじめた。おそらく増援だろう。
彼女はリグのウェビングに挟んでいた結束バンドを引っ張りだし、それで少女の手、その次に足を縛って無力化。怒りだろうか、しかし叫び出したい気分ではない。またそれは悲しみのようでも頬の下からせり上がるような涙の足音は聴こえない。そんな上手く言い表す事のできぬような憤りを抑え、彼女は兵士として正しい行動を取った。
そっと立ち上がり、桜は振り返る。後ろには気心の知れた男達の亡骸と側には見知らぬ少女が一人。日本ではメディアを通して誰もが知っているつもりになっているが、誰も
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます