第13話:アカギツネは食肉目で最も生息域が広い動物である

「カナちゃん、よく来ましたねえ」

「……こんにちは、ユーリ先生」

 養護教諭の彼女はほんわかした笑顔で手を合わせる。

「カナちゃんが来ることは、2時間前からわかっていましたよ」

「やたらピンポイントね」

「ヤスくんからメールが来てましたからね!」

 土田先生からのメールだ。

 確かに、あたしがこの時刻に来ることが書いてある。

「ツッチー先生と仲いいわよね」

 メル友らしい。

「もちろん。授業の合間合間にメールしまくりですとも!」

「それって教員としてどうなの?」

 建前上、学校でのスマホ使用は遠慮するようにとお達しが出ている。

「甘いですねカナちゃん。バレなければそこに違法行為は存在しません。発見されて通報されるまでは合法なのですよ! 社会のルールです!」

 この物言いは異種族のみなさんの主義信条に近いものがあるな……

「あたしが通報したらどうなるのよ」

「現行犯逮捕だけが唯一学校内で人を裁けるタイミングですっ♪」

 悪魔か。

「もー……あたしら生徒だって、休み時間には使うから、お互い様だけどさ……」

「ふっふふー。……カナちゃん、お疲れでしょうから。1時間くらいお昼寝しましょっか。ベッドは本日、全席空欄!」

 ベッド位置の見取り図つきのホワイトボートは、いつもなら1つや2つ磁石がついているのだけれど、今日は確かに空欄だった。

「好きなとこ選んでください」

「じゃ、ヒーターのそばで」

「特等席ですねー」

 どぞーっと言って、ヒーター傍のベッドのカーテンを開けてくれる。

 ユーリ先生はいそいそと枕と毛布をセッティング中。

「……」

 一瞬だけ、彼女の腰のあたりからもっふりとした尻尾が生えているのが見えた。

「先生、先生?」

「なんですか、カナちゃん?」

「先生って……先生は」

 白くてもふもふとしていて……あれは、白狐の尻尾のようだった。

 聞こうとしたときにはもう見えなくなったのだが、確かに尻尾があった。

「熱がぶりかえしましたか? 苦しかったら言うんですよ」

 その優しい眼差しを受けると、さっきのは体調不良ゆえの幻覚だったような気がしてきた。

「……何でもないわ」

 会釈する。

「おやすみなさい、ユーリ先生」

「はい。時間が経ったら起こしてあげますからね」

 ベッドにもぐりこんで毛布を被る。

 ユーリ先生はあたしをぽんと撫でて囁いた。

「良い夢を」

 まぶたがゆっくりと落ちていく。



  ――*――

「座敷童って不思議ねえ、ミトちゃん」

 傍らの娘が、幻術で隠していたベビーベッドの上でくりくりとした目を開く。

 その目の温かさは夫と同じだ。

「……私がキツネだってこと気付いたわ。術を解いたらミトちゃんのこともわかっちゃうのかな?」

「はぶう」

「袖食べちゃ駄目」

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