ただ今、聞き込み中です
しばしの休憩を挟んでから、3人は連れ立って町へ出ることにした。
庭園にたむろっていたはずの宮廷魔術師たちの姿はない。
ネーアによると、任務は急を要するもののため、ネーア1人を残し、すでに
もう数人くらい、
そう颯真が同意を求めると、ネーアは困ったように苦笑していた。
いつの時代もどの世界も、下っ端や新人とは世知辛いものらしい。
とりあえず、ネーアによって手配書の配布は完了しているので、今度はそれをもとに地道な聞き込み作業となる。
意気揚々と進むレリル、ネーアと続き、颯真は最後方を歩いていた。
そして、ふと颯真は気がついた。
あらためて見ると、この集団、とにかく物凄く目立つのではなかろうか、と。
なにせ、見た目だけは気品あふれる貴族然とした
こうなれば、目立たないほうがおかしいというものだろう。
一見すると近寄りがたく、聞き込みは難航するかと懸念されたが――結果的には、そんなことはまったくの杞憂だった。
目立っているのは事実だが、道行く人々がとても協力的なため、むしろ作業は思いのほかに捗っている。
それというのも、間違いなくレリルのおかげだろう。
気取らない人柄か、親しみやすい性格ゆえか、貴族と平民という垣根を越えて、彼女には町の人も好意的な眼差しを向けている。
気軽に挨拶までしてくるあたり、領民と領主の関係も良好のようだ。
先導するレリルの機嫌は上々だ。
鼻歌など歌いながら、道を練り歩いている。
「これなら、いつものパトロールも兼ねられるから便利よねー」
「パトロールってなんだ?」
「町の治安を守るため、こうして町を回るのは日課なの。衛兵に任せっきりで、貴族の立場に胡坐をかいてはいられないからね。自分の町は自分で守らないと」
笑顔できっぱり言い切るレリルを、颯真はちょっと見直した。
「今日、颯真と知り合えたのも、そのおかげだしね」
腰のレイピアを見せびらかす。
「最近は、この町もなにかと物騒になってきたからね。今日のチンピラたちだってそう。身元不明者が、警備を掻い潜って不当に町に入り込んでくることもよくあるの。
「へえ、そんな奴らがいるのか。大変だな」
フクロウ形態で警備の頭上を越えてきたことはすっかり棚に上げ、颯真もしたり顔で同意する。
「まーねー。
あっけらかんと言ったレリルの言葉に、颯真は足を止めた。
「ん? どしたの、颯真?」
「……おまえ、町歩いていると、親しげに声かけられるよな?」
「うん、そだね。うちの町の人たちは親切だから。食べ物をくれたりもするよ?」
「町中で帯剣している奴を見かけないんだけど、武器の携帯はOKなのか?」
「もちろんダメに決まっているじゃない。衛兵に見つかったら、捕まっちゃうわよ?」
笑顔で答えるレリルに、通りすがりの巡回中の衛兵が敬礼していた。
「おい、ネーア。あいつ、マジなのか? マジで
「……はい。昔っからですから……でも、それがレリルちゃんのいいところでもあるんですよ。本当ですよ?」
隣を歩くネーアのほうが申し訳なさげだった。
颯真も理解した。
町の人のあの温かに見守るような、ほんわかした視線――あれはそういう意味だったのか。
これは、他の町人たちと同じく、そっとしておいたほうがいいのだろう。
「よし、3人一緒じゃあ効率が悪い。ここは3手に分かれよう!」
なんだか急に周囲の視線に耐えられなくなってきたので、颯真はそう提案した。
「いいのではないでしょうか。そうしましょう、レリルちゃん」
ネーアが即座に乗ってきた。以心伝心というやつか。
「そう? ふたりがそう言うなら、それもいいかもね。じゃあ、夕方に屋敷で落ち合うってことで。あと、颯真! トラブル的なことがあったら、きちんと解決しておくのよ。いい?」
(なんであいつは、当然のことのように俺に命令するんだろう……)
もはや怒りや反抗心すら浮いてこない。ただ、ひたすら謎だった。
独特の思考回路に、はもはや同じ人間とは思えなくなってきた。いや、人間の姿は仮初で、実体はスライムなわけだが。
そんな思いを抱きながら、颯真は離れゆくレリルの後姿を見送った。
「では、颯真さん。わたしはこちらを回ってみます」
「じゃあ、俺はこっちを回ってみるか。じゃな、後で」
「……はい」
ぷらぷらと後ろでに手を振り、颯真はネーアに背を向けて歩き出す。
独りになったことで、別に聞き込みをサボったことでバレはしないのだが、颯真は生来の性格として案外マメだった。
そんなことは頭の片隅にも浮かばず、ひたすら真面目に聞き込みを続けていた。
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