スライムのお食事

 颯真は軟体を駆使し、どうにか塔の外に出てみた。


 そうして見た、異世界の第一印象は――あんまり普通と変わり映えしなかった。

 森なんて、どこの世界でもそうそう変わらないらしい。ちょっと、がっかり。


 そういえば、颯真も石造りの建物から出てみて、初めて気づいたのだが、どうもスライムという生物は食に貪欲な生き物らしい。


 たとえば草の上を移動すると、移動跡の草がごっそりと無くなっている。

 体表から消化液っぽいものが出ているようで、有機物を溶かしつつ体内に吸収しているみたいなのだ。


 道理で、ずっと小腹が空いたような感覚があるわけだ。

 食欲はあっても味覚はないので、なんとも楽しくない侘しい食事だが。


 まあ、逆に、移動しながら食事もできてるというお得感もあるわけだけど。


 暇なので、颯真はそこいらの草を消化吸収拾い食いしつつ、塔の周囲を散歩してみた。

 予想通り、見事に何もない。


(なんかイベントでも起きないかなー)


 そう颯真が思っていると、本当に起きた。

 颯真のスライムボディが、にわかに宙に浮いたのだ。


(おおっ! 最近のスライムは空を飛べるのか?)


 なんてことはなく、フクロウを巨大化させたような猛禽類に、がっつり捕獲されてました。


 じたばたしている間に、颯真はすっかり空の人。もとい空のスライム。


 上空から見渡す異世界は美しかった。

 地平まで続く大森林の緑に、大地を横断する河の水の煌きが映えている。遠くに連なる山々の山頂には雪帽子が残り、日の光を白銀色に照らし返していた。

 空気が澄んでいるように感じるのは、ここが空気汚染とは無縁な世界だからだろう。心なしか、空の青まで透き通って見える。


(なんて逃避はさておき)


 このままでは召喚早々フクロウの餌だ。巣に持ち帰って家族と晩餐か?

 そんな情けない最期だけはご勘弁願いたい。


 颯真はとりあえず、身体を流体化させてみた。

 途端にスライムボディをわっしと掴んでいた爪が足ごと身体にめり込んできたので、そこで再びボディを固形化する。


 うん、狙い通り。フクロウの足が時計の振り子みたいになった。


 フクロウにしてみれば、獲物に足が飲み込まれたので、それはもう驚愕の事態だったろう。

 空中で暴れて失墜しそうになる。


(捕獲♪ ほっかく♪)


 颯真にしてみると気楽なもので、2~30mから落下したぐらいでは、どうともないことはわかっている。

 それより今は、せっかく自ら飛び込んできてくれた食料だ。

 美味しくいただくのが自然の摂理というものだろう。


 颯真は今度はボディを軟体化させ、足から徐々にせり上がり、暴れるフクロウを包み込んでゆく。

 翼を包んだ時点で落下が始まり、地面に落ちたときには、フクロウの巨体を完全に体内に収めていた。


(いただきま~す)


 スライムの体内は、体表とは比べ物にならない消化速度で、ほぼ一瞬でフクロウの消化吸収を終えてしまった。


(フクロウっぽいものよ。これも弱肉強食の厳しさよ。許せ!)


 颯真は気分的に手を合わせた。


 ただ、若干、順応し過ぎているのは気のせいだろうか。

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