スライムいいかも

 ひとしきりニューボディの具合を確かめた颯真は、さっそく外界を探索してみることにした。


 せっかくの異世界――たぶん異世界?に来たのだから、じっとしているのは勿体無い。

 まずは陰気臭いこの塔の地下洞窟からさっさと脱出して、闇昏き森デ・レシーナに繰り出してみよう。


 ん?


 何気なくそう思ってから――颯真は首を傾げた。スライムに首はないので気分的にだが。


(なんで、俺。そんなこと知ってんだ?)


 颯真のスライムな脳裏には、知らないはずの事柄がいくつも自然に浮かんでいた。


 ここはフェレント王国の南に位置する大森林で、呼び名を闇昏き森デ・レシーナ

 野獣と魔物の巣窟で、人間は滅多に足を踏み入れることはない。それこそ、罪人でもなければ。


 自分の知識ではなく、誰かの得た知識を借り受けたような感覚で、そういったことが自然と理解できる。


 うーん。


 颯真はしばし悩んだが、


(ま、便利だから、いっか)


 あっさりと受け入れた。実にお手軽な性格ではある。


 地上へ続く螺旋階段があることも知っている。

 颯真はジャンプを繰り返し、段飛ばしでぽよんぽよんと昇っていく。


(うははー! 意外に軽快じゃないの、スライムも!)


 と、颯真が思ったのも束の間、長ったらしい階段を半分ほどまで昇ったところで、足を――正確には身体を滑らせた。


(はれ? はれれー?)


 丸いボディが裏目に出て、後は一気にあれよあれよと階段を転がり落ちてしまった。


 ものの数秒でふりだしに戻りました。


 スライムボディには痛覚がないのが幸いした。

 人体だったら複雑骨折で悶絶していたところだ。


 そもそもスライムは全身が緩衝材みたいなもの。結構な勢いで床に叩きつけられたはずだが、ダメージはまったくない模様。なんたるハイスペックボディ。


(誰だ! スライムを最弱って決め付けたのは!)


 エックスだがニックスだか、言い出した奴に文句付けたくなる。

 まあいいけどね。


 颯真はボディを軟体化させ、今度は階段の表面に沿って、ぬめぬめ移動した。

 これはこれで、身体が液状に動くのが新感覚。癖になりそう。


(はっ――!?)


 颯真は唐突に閃いた。

 これってもしや、床に沿って移動すると……ローアングルで、のぞきし放題なんじゃあ!?


 すごいどうでもいいことだった。

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