第一章
結構ノリノリです
(異世界転生モノならまだしも、召喚モノで魔物ってどーよ? しかもスライム、マジないわー)
颯真はガラスに写った姿を飽きずに眺めていた。
(神さまにも会わなかったし、俺のチートどこ行った? もしや、なし? ありえんでしょ。そもそも俺を喚んだの誰よ? 誰もいねーし。放置? チュートリアルもなしってどーよ。せめて、解説くらいしろっての)
ぶつぶつ文句を並べている割には、ガラスの前でポーズを決めたりと颯真は結構ノリノリだった。
(ふーん。リアルスライムってグロいかと思ったら、そうでもないなぁ。愛嬌があるっていうか。大きさは直径1mくらいある? 思ったよりでかいのな)
机や椅子のサイズから比較すると、颯真のスライムボディはそんな感じだった。
せっかくなので、颯真はいろいろ試してみることにした。
スライムの身体は基本的に丸型だが、力を抜くと、はぐれ○タルっぽくもなる。さらにゆるめると、ほぼ液状にまでなれることが確認できた。形状はある程度自由自在らしい。
跳んだり跳ねたりしてみると意外に運動性もある。
2m程の高さまでは軽くジャンプできた。原理は颯真にもわからないが。
最大の発見は、分裂できることだった。
身体を左右に引っ張る感じで動かすと、ふたつに分裂してしまった。
さすがに質量は半分くらいになったが、意識もふたつに分かれたので、なんだか面白い。
物事を別々に考えられるのは新鮮で、人間では味わえない感覚だった。
どこまで分裂できるか試してみたくはあったが、戻れなくなったら困るので、今回はそれは止めておいた。
(ステータス、オープン! ……って、やっぱダメかぁ)
あと、ゲームよろしくステータス画面は開いてくれなかった。お約束の鑑定も実装されていないらしい。
そもそも、あるのかないのかわからないが、それはおいおい考えていくことにした。
そんな感じでニューボディを堪能する颯真だった。
実際のところ、颯真的にはこれはアリだった。
そもそも颯真は異世界で勇者になりたかったわけでも無双がしたかったわけでもない。
つまらない日常を捨て、非日常の世界に行くことこそが願いだったのだから、それがスライムだからといって悔いがあるわけではない。
なにより、召喚に応じたのは颯真自身の意思である。
不安や恐怖より、この先でなにが起こるかの期待感のほうが勝っている。
ポジティブといえばそうなのだろうが、颯真は今はただ、現状を楽しむことにした。
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