特殊能力?

(ふむぅ……)


 颯真がフクロウっぽいものを消化してから30分ばかり経った頃、スライムボディに変化が訪れた。

 変化といっても見た目上の変化ではなく、内面的にといいますか。


(まさかね、そんな。スライムってそういうこともできんの? でも、できるような気がすんだよねー)


 独りで散々悩んだ末、とりあえず颯真はやってみることにした。


 やるってなにを、って?


 つまり、これ。


 颯真は先ほどのフクロウっぽいものの姿を思い浮かべてみた。

 鋭い眼、曲がったクチバシ、ずんぐりむっくりの羽毛の身体、茶色っぽい羽根と大きな翼、節くれ立った足に、尖った爪――


 颯真のスライムボディがぐにぐにと変形していき――やがて、1羽の大フクロウとなった。


(マジでできちゃったよ)


 擬態、という単語が頭に浮かんだ。


 これはどうも、スライムとしての知識というか本能によると、このスライム種固有の特殊能力らしい。


(すげえな、スライム。侮れねぇ)


 ただ、颯真スライムの知識としては、見た感じスライムのまま体表の形が似るだけで、こうもリアルに変化するはずはないのだが。

 今の颯真は、繊細な羽毛の先まで再現された超リアルモードだ。


 ここまでくると、もう擬態ではなく変態だろう。


 颯真は翼を伸ばし、試しに地面の上で羽ばたいてみた。


(……なんかもう、普通に飛べる気がするんだけど)


 飛んでみた。


 飛べました。


(あれ? マジ!?)


 眼下の地面がぐんぐん遠ざかり、風を切ってフクロウボディが上昇する。

 森の木々を追い抜き、瞬く間に上空に舞い上がり、視界が一気に開ける。

 360度、地平まで続く自然の大パノラマ。


 冷たい大気を切り裂いて進む感じが、なんとも心地いい。

 体表を滑っていく風が、物凄い爽快感を生んでいる。


(これ、気ん持ちいいー! ひゃっはー!)


 クチバシからは「ピィィィー!」という鳴き声が発せられている。


 颯真は自由自在に宙を駆ける。

 本来なら目が眩むほどの高さだが、怖いなんてこれっぽっちも感じない。

 上昇下降、旋回もお手の物だ。


 わざわざ飛ぶことを意識するまでもない。歩き方をいちいち考えなくても歩けるのと同じように、当然のこととして飛べている。


(これって、もしかしなくてもあれか? 消化した食べた相手の姿も知識も使えたり?)


 逆にそれ以外には考えられない。


 食べれば食べるほど強くなる。どっかで聞いたことがあるコンセプトのような気もするが、実際そうだから仕方ない。

 異世界スライム最強説か?


 ただ、きっと、本来のスライムにはこれを使いこなせる知性がないのだろう。

 スライムに召喚された颯真だからこそというべきか。


(うん、これは――とても面白そうだ!)


 颯真自身は強さ云々にはさほど興味もないが、他の生き物の生態を体感できるというのは興味深い。


 だったら、とりあえず、やるべきことはただひとつ――


(いろいろ食べてみましょう。そうしましょう)


 差しあたっての颯真の目的ができました。

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