1月某日
これにて終
国語、数学。
どちらも解けた。いやもちろん満点という意味ではなく、難しくて手出しできない問題もあったが……8割くらい取れてるんじゃないかと思えるくらいには解けた自信がある。
英語。
これは予測が大いに外れ、何をトチ狂ったのか、例年の点稼ぎゾーンのはずの文法問題がおかしな難易度だった。それでもまあ、他のところで点は取れたから、7割くらいだと思う。
物理。
半分は簡単で、残る半分は難易度が狂っていた。自分の点数が全く予測できない。
20分の休憩。これが終われば、最後の社会科目が始まる。
調子良く進んでいたところに物理があんな風だったから、精神的なショックが激し過ぎて心臓が忙しい。足元も覚束ない。
ちなみに今までの科目で最終問題を解けたものは一つもない。文系はともかく、理系はどこから手をつければいいのかさえ全くわからなかった。
(今までシェルさんのいる数学科がヤバいとばかり思ってきたけど、ほかの学部学科もヤバいんじゃねーかよ……)
大問ごとに作成者が違うといっても、連携は取っているだろう。
それが楽観視だったと今になってわかった。
どの教科も難易度の統率なんて出来ていない。それだけで、寛光の教授陣の自由奔放さが感じられる。
どうりで受験サイトが寛光の入試問題の難易度分析に匙を投げているわけだ。
「……」
俺の社会選択は世界史と現代社会。この二つはある程度の暗記と、少しの作文能力での勝負。直前になってやれることは何もない。
スポーツドリンクとチョコがけビスケットで栄養補給して、開始を待つ。
ペンケースに入れてきた四葉のクローバー。
なんとなく開いて触れて、畳んで戻す。
試験官が入ってきて試験開始5分前を報せる。
芯の尖った鉛筆に取り替え、ペンケースをリュックに戻した。
(……現社は終わり。次は世界史)
俺の場合、社会は制限時間内に二科目解く必要がある。行ったり来たりして解いてもいいわけだが、俺はそんなに器用じゃない。
まずは問題量が少なくて速く解き終わる現社を済ませると決めていた。
最終問題を書き込みしていると時間が足りなくなるので、短文で切り上げて世界史へ。
(おお、解きやすい……)
難易度がある程度統一されているというだけで感動できる。これまでの科目との落差よ。
最終問題を残して粗方解き終え、現社の見直しに移る。
世界史も見直して、世界史の最終問題へ。
『最終問題:
以下の画像の中から、ドイツにあるマンホールを選びなさい』
「……………………」
いや、別に、問題があれとかそういう感じじゃないんだけども。
解答欄が3つだから、この中のドイツマンホールは3つあるんだなー。大チャンスじゃん!
みたいなね。
画像が50個も似たようなのあれば選ぶ時間さえ惜しいと思う。
内心で『わっかるかああああああ‼︎』と絶叫しつつ、適当な数字を3つ選んで空白に書き込む。気分はくじ引きだ。
行きはリーネアさんに京と佳奈子とまとめて車で送ってもらった。
帰りも迎えに来てくれた。
「お疲れ」
「ありがとう、先生!」
「……ほんとに疲れた……」
「同じく……」
一人快活なままの京が強過ぎる。
お礼を言って車に乗り込む。
冬道だからこその安全運転で車が発進する。
「どうだった?」
「……頭おかしい……」
「だろうな」
リーネアさん本人は寛光の教員ではないが、夏に特別講義に呼ばれたりなどの関わりがある。
「全国模試でトップとるような奴を落とすのが快感って言い切る教員もいるしさ。解けなかったと思ってもあんまり気を落とすなよ」
「歪みすぎじゃないですか?」
「寛光って、偏差値そんなに高くない設定なんだよ。ひたすら教員のクセが強いだけ。だから、難関大の滑り止めのつもりで受ける奴でも、問題のクセを調べてそのための勉強しなきゃ、心理的にキツい」
佳奈子もぽつりとこぼす。
「教員のクセだけで難関大に挑める学生を落とせるの凄いわよね……」
「頭おかしいんだよな」
身内と友人が激烈なリーネアさんでさえそう思うのか。
……この人の身内、他ならぬ寛光の教員だった。
むべなるかな。
佳奈子と俺はアパート前で降りる。
「今日はありがとうございました」
「ありがとう」
頭を下げると、リーネアさんと京がそれぞれ手を振る。
「どういたしまして。疲れてるだろうし、早く寝ろよ」
「また遊ぼうね!」
白のワンボックスが走り去っていく。
「……俺も免許取ろう」
「いいんじゃない。仕事で使えるかもよ?」
「自分がなんの仕事に就くかさえ考えてねーけど、そうかもな」
佳奈子と駄弁りながらアパートの階段を登る。
今日は疲れたが楽しい日々だった。
そう思う。
少年は天才と神秘の夢を見られるか?7 金田ミヤキ @miyaki_kanada
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます