宝石あげる終

 フローラさんは泣きながらもテキパキと料理を作り終え、リーネアさんはオウキさんを背負って車に運んでいた。

 あたしに何度も頭を下げてから、家を出て行った。

 遠距離転移ターミナルのある空港までリーネアさんが送るらしい。

「嵐のような……」

 着物は脱いで、畳み方のメモに従って桐箱に戻す。壊れない限り半永久的に保存できるこの箱は、オウキさんのお父さんが作ったのだとか。

「……」

 台所に行くと、『食べ方』と書かれたメモの貼られたタッパーが積まれていた。『勉強頑張って』とも。

「…………」

 オウキさんの体から産出された宝石は妖精さんたちが回収していった。

 テーブルの上はがらんとしている。

 なんだか寂しかったので、電話をかける。

「もしもし、紫織? ……ちょっとね」

 一人では到底消費しきれないどころか、10人で食べても余るくらいだ。『友達と食べて』と書かれたタッパーもあるし……

「今日、夕食食べてかない?」



「レストランのようなお味。佳奈子ちゃん、腕が上がりまくりです。美味しいです!」

 一口食べてはしゃぐ紫織に、訂正を。

「これはプロが作ったものよ。オウキさんのお母さん」

「オウキさん?」

 美織がきょとんとしているのに気付いて、説明する。

「オウキさんはリーネアさんのお父さん。作ったのはリーネアさんのおばあちゃんよ。その人も妖精さん」

「! ってことは優しくて常識人だね!」

「それはどうかな⁉︎」

 何を基準に判定したのやら。

「そうだね。リーネアさん優しいもんね。オウキさんも親切でとっても大人なんだよ」

 七海姉妹は独特の世界観で生きている。そうとしか思えない……

「豚肉柔らかい……」

 デミグラスで煮込まれた豚肉は、噛むとほどけて溶けていってしまう。

 フローラさんは自前の鍋と食材であっという間に作っていったため、その手際からもプロとアマチュアの差がわかった。

「……レシピ送ってくれてるけど、作れる気がしないのよね……」

 メールがぴこぴこ鳴っていると思ったらフローラさんから。細かな気配りもオウキさんと似ている。

 たとえ離れて暮らしていても、彼らは紛れもなく親子だ。

 きっと、お父さんとも間違いなく似ているのだろう。

「…………」

 ちらり、リビングの端に置かれたファイルを見る。

 オウキさんはあれを見てあたしを褒めてくれた。

 生前の……藍沢佳奈子になる前のあたしと、今ここにいるあたしの両方を褒めてくれた。

 何が書かれていたのかはまだ見られないが、褒めてくれたのなら、あたしは良いことをしたのだろう。

 今は、それだけでいい。

「……二人とも。リーネアさんが置いていってくれたタルトがあるの。あたし一人じゃ食べきれないから、一緒に食べましょ」

「佳奈子ちゃん……わかりました。今日の私は家事マシーンです。お皿洗いからお風呂掃除までお手伝い、です!」

「う、うちも!」

 それはさておき可愛いな、七海姉妹。

「佳奈子ちゃん、お勉強は大丈夫ですか?」

「うん。……あ、そうだ。古文でわからないとこあるから教えてくれる?」

「もちろん!」

 ルピネさんとタウラさんが溺愛するのもわかる健気さと可愛さだった。

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