第2話

『帰るのが遅くなるから先に寝ていてね。冷蔵庫のなかにオムライスが入ってます。チンして食べて』

 食卓のうえの書き置きにはおかあさんの丸い文字でそう書かれていた。クリスマスイヴの夜、ぼくは晩ごはんをひとりで食べた。


『今晩はサンタクロースが来る』

 今日のお昼、ともだちと遊んだときにはこの話題で持ちきりだった。非科学的だとぼくは思う。トナカイが空を飛べるはずがない。サンタクロースはきっとおとうさんかおかあさんかのどちらかだろう。証拠ならある。去年のサンタクロースからのプレゼントの包み紙は近所のデパートのものだったから。サンタクロースがデパートで買い物をするなんて考えにくい。

 でも、ぼくはともだちにぼくの思っていることを言わなかった。『人の夢を壊すのは野暮ってもんだ』おとうさんの好きなドラマの台詞だ。そのとおりだと思う。しかし背に腹は代えられない。万一ということもある。ぼくはプレゼントを入れてもらう用の大きな靴下を押し入れから引っ張り出して、それを枕元に置いてから布団に潜り込んだ。


 クリスマスの朝、目が覚め、慌てて枕元を見た。プレゼントはなく、眠る前に置いたはずの大きな靴下はぺたんこのままだった。

「おはよう」靴下を持ったまま台所に向かうと、食器を洗うおとうさんの背中が見えた。

「おはよう。昨日はなんにもなかった?」

「おとうさん、仕事は?」ぐるりと見まわしたけど、見当たらない。「おかあさんは?」

「クリスマスプレゼント、買いに行くか」おとうさんはぼくの質問には応えないで、ぺたんこの靴下を見て言った。「もうサンタクロースが誰かなんてバレてるんだろう?」


 外はとてもよい天気だった。おとうさんとぼくは自動車に乗ってドライブに出掛けた。

「ねえ、朝からこんなの食べていいの?」ぼくは大好きなハンバーガーを頬張りながら聞いた。「おかあさんにバレたら、おとうさんぶっ飛ばされるよ」

「そうだな」おとうさんは少し笑ってコーヒーを飲んだ。「それ食べたらデパートに行こう」

 ぼくはデパートで外国製のボールペンとノート、さらに最新の恐竜図鑑まで買ってもらった。「ありがとう。ぼくはがんばるよ」

「冬休みの自由研究? こないだは馬鹿にしてわるかった。ごめんな」デパートの外で煙草を吸うおとうさんが言った。

「もう気にしてないよ。研究成果がちゃんと出たら知らせるね」

「待ってるよ」煙草を吸い終えたお父さんが言う。「そろそろ車に戻ろうか」


「今日はたのしかったね」ぼくは買ってもらった瓶入りの金平糖を口のなかで転がしながら言った。「来年のクリスマスは弟もいるもんね。今度は四人でデパートに来よう。ぼくはよいお兄ちゃんになるよ」

「おかあさんな」おとうさんはぼくを見ずに言った。「いま病院にいるんだ」

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