2-33


          ◇


 常之倉市、バトルエリア内病院設備、待合室にて。


「……それで?」


「それで?」


 眉間に皺を寄せた由佳の問いに対し、一場は笑いながらその発言を復唱する。


「だから、いつあいつらの襲撃に気付いたか、って聞いてるの!」


「携帯回線が落ちたタイミング、かな。緊急展開を潰すのは過激派の潰し合いではよくある話だし?」


 由佳の怒声を嘲笑うかのように、一場はそう即答する。


 革新教団を名乗る2人組の強襲に対し、一場が騙し討ちに近い手口で反撃してから、彼が真希達の元へ戻ってくるのにはそう時間はかからなかった。


 戦闘中、何があったかについては、「軽く半殺しにしたら怯えて逃げていきやがった」、としか語られなかったが、聞こえてきた銃声と爆発音、悲鳴の数々からその証言に大筋の間違いはないのは恐ろしいながら理解出来た。


 真希と真也は巡り巡る状況の変化に唖然とするしか無かったが、起きた事態をある程度察していた由佳だけは、


「だったら、なんですぐに教えてくれなかったの!?」


 と、一場に怒りをぶちまけていたのだ。


「回線吹っ飛んだ時点で連絡手段ないだろ。それに、俺の下で任務付いてる奴が、爆発起きた時点でやっと襲撃に気付くなんて、ありえないと思うんだが普通?」


 一場は、サングラス越しに由佳の瞳を一瞥する。その視線に対し、由佳は「うっ……」と息を飲み、わざとらしく目を逸らす。


「で、お前さんはまた出来もしないのに独断専行しようとしやがった。ついこの前独断専行で死にかけたってのに、学習能力ってもんがないのか?」


 お前さんの脳味噌は鳥か何かか? と、一場は人差し指で由佳の額を2,3叩く。明らかな意趣返しに彼女は「やめて」と一場の手を払いのけるに留まった。


「そんなロクに仕事こなせてない奴が、命の恩人様に対して『一発殴らなきゃ気が済まない』なんて、よく言えたもんだよなあ?」


 一場の視線が不意に真也の方へと向けられた。


「~ッ! ! 足痛くなったから私もう休む!!」


 苦し紛れの言い訳を吐くと、由佳は真也を鋭く睨んでから、松葉杖を器用に駆使して一場達の元から逃げていく。


「……なあ、良かったのか」


 由佳の姿が見えなくなる前に、恐る恐る口を開いたのは真也だった。


「いいんだよ別に。あいつのカッコづけ癖はいい加減矯正しないと、ロクな大人になれやしねーんだよ」


 一場は笑うが、この短い間でも最もロクなことをしていない人物筆頭が言っていい発言だとは、真也には到底思えなかった。


「……あと、あのボンクラ共騙す為に色々言ったが、お前さん達2人を守るって話は嘘じゃないからな」


 当面の間にはなるがな、と一場は付け加える。


「で、前任者がどうやってたかは知らんが俺と由佳だけで守り切るのには流石に限度がある。だから草津真也、お前さんもちょっと手伝えよ」


 バイト代も出してやるからさ、そう言って一場はサングラス越しに真也に向けて軽くウインクを飛ばす。


「……、ああ!」


 一場の発言に真也は一瞬固まるが、やがて理解が追い付くと、彼は力強く頷き、一場から差し出された手を強く握りしめた。


「姉さん、良かった。俺達、助かった!」


 真也は真希の方を振り向き、満面の笑みでその安堵を表現していく。


 対する真希は、何も言わず、微笑みで彼の喜びに答えていく。


 車椅子に座る真希も、彼の持つ感情に同意見だった。


 本当に、本当に良かったと思う。










 ……あんな、低俗な連中に攫われることに、ならなくて、本当に良かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る