2-29
「まあ、落ち着けよ」
とって食う気なんて更々ねえんだからさ、と一場は男から拳を離してから軽く笑う。
「勿論、俺が教団に入りたいと願うのは、組織の中で権力が欲しいとか牛耳りたいとか、そういう下らない理由じゃない。心の底から人類の革新に荷担したい、そう願っているからさ」
『……革新を願う者の、やり口とは到底、思えん、な』
恐怖を押さえ込むように唇を震わせながら、大柄の男が一場の主張に口を挟んだ。
「それについては、否定しない。何せ、俺に出来る手段なんて、こんな最低の方法しか残されていないんだ」
だから大目に見ろよ、と一場はため息を吐く。
「……ありふれた昔話にはなるが、俺には昔、彗星症の妹がいたんだが、例によってULのクソ野郎共に殺されてな。その時、ただの人間だった俺には何も出来なかった」
大柄の男の意を介することもなく、一場は語り出す。
「妹の敵のULは当然のこと、当時、現場に間に合わなかったUGXの連中を俺は滅茶苦茶に憎んださ。俺が、あいつらがしっかりしてればこんなことにはならなかったと。それで、自衛隊の対UL部隊に入隊した」
公的に彗星症になれるのも自衛隊だけだったってもあるが、と付け加える。
「だが、それが何もかも間違いだった。最初の頃はUL狩りに専念していたが、ULの大規模掃討作戦が終わった頃から状況が変わってきた。国家にとっての敵がULから、国の意に従わない彗星症発症者に切り替わったのさ」
その後は地獄だよ地獄、と自嘲気味に笑う。
「国の命令一つで殺したくもない人間、それも同胞を殺し続ける日々。はじめは仕事だと割り切ろうとしたが、流石に無理があった。最後には心がぶっ壊れて強制除隊。今じゃ天下りであんだけ憎んでたUGXの一員と来た。皮肉にも程があるね」
『……』
一場の独白に大柄の男は文字通り言葉を失っていた。
「で、UGXに所属しても俺に貼られるのは”同胞殺し”のレッテルで、与えられた仕事も国連の意に従う為のハザード対策部隊の指揮ときた。普通の彗星症発症者なら白い目向けられるのはただの人間共だけで済むが、俺はそれ以上に同胞からも恨まれている。居場所なんて何処にも残されちゃいなかったのさ」
まっ、自業自得なんて言われたらそこまでだが、と一場は言うと、
「で、あるはずだった居場所を奪ったのは誰か、と言われれば、この国、いや、国を牛耳り俺達彗星症患者を食い物にする低脳な人間共だ。そんな連中に一泡吹かせて、元の居場所を取り戻すには、革新教団、強いては草津様に頼らざるを得ないのさ」
一場は締めくくると左肩にある紋章を軽く撫でる。
『……その話を、我々が信じると思っているのか?』
大柄の男はそう呟くが、その視線は一場のものと交わらぬように逸らされていた。
「さっきも言ったかもしれないが、信じて貰うなんて希望的観測は最初から捨ててるさ。まあ、強いて言うならこの力だけは信じて貰いたい、ってところかな」
その言葉とともに一場は装甲で覆われた拳をわざとらしく握りしめた。
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