2-28

    ◇


『戦闘モードを解除、スタンバイモードに移行します』


「よっ、と」


 耳元で電子音声が響くと、一場を包む電磁式形状記憶合金で出来た鎧の緊張は解かれ、彼は筋肉をほぐすように手足を軽く動かした。


『どういう、ことだ・・・?』


 続けて聞こえてくるのは目の前で震えていた大柄の男の声。


「どうもこうも、って、俺はお前さん達の味方で、志を同じくする者、ってことさ」


 一場は親指で左肩を指差しながら男に向け手を差し伸べるが、


『しっ、信じられるか!!』


 怒声ともにその手は弾かれる。


「別に信じてくれなんて言ってねーよ」


 まあ聞けよ、と一場は男の行動に意を介すことなく再び手を伸ばす。


「確かに俺はまだ教団の門戸を叩いちゃいない。そもそも散々同胞の命を奪ってきた奴なんざ、そう簡単に歓迎されるワケがない」


 だから言うならばファンみたいなもんかな、と一場は付け加えた。


「更に付け加えれば殺ししかしてこなかった俺は勉強不足でさ、公安の馬鹿共が囲っていた教団の姫君の影響力がどれほどまでのものか、すぐに判断することが出来なかった。だから」


『……我らを利用したということか』


 怒気の籠もった声が一場の発言を遮る。


「人聞きの悪い言い方をされるのならそういうことだ。まあ、ちょっとやり過ぎたのは謝るが」


 大柄の男の感情の機微など気にすることもなく一場は肩を竦めた。視線の先にあるのは未だに意識の戻らない小柄の男の姿だ。


「俺が無作為に送ったSOSに何も返答が無ければ、草津真希は既に終わった偶像、返答あったとしてもUGXに籍を置いてる教団信者からが関の山……、と思ってたが、まさか武装して救出に来る奴らが現れるときた」


 こればかりは流石の俺も予想外だったよ、と笑う。


「まあ、お前さん達が動いてくれたおかげで、草津真希の”価値”を推し量ることが出来たよ。予想を遙かに越えた収穫、これで俺のライフプランも大幅改善が期待出来る」


 そういう意味でもお礼をいわなきゃいけないな、と一場は軽く頭を下げる。


『……貴様、何が目的だ?』


 大柄の男の口調は、まるで道化師に問いを投げかけるかのように不安に満ちていた。


「なぁに、特段大した話じゃあない。暫くの間、UGXの中で草津真希様を守り続け、暫くしたら、草津様を連れて教団の門戸を堂々と叩く。俺が最低最悪の同胞殺しだとしても、草津様を守り続けた”実績”があれば、幹部共も俺を迎えざるを得ないだろ?」


 いいプランだとは思わないか? と一場は満面の笑みを仮面越しに浮かべた。


『貴様、草津様を愚弄するつもりか!?』


 大柄の男の怒りの沸点は爆発する。再度一場に掴みかかろうと動き出すが、


「最低の言い方をすれば仰る通りだが」


 一場は差し出していた手を握りしめ、大柄の男の胸部へ軽く当てると、


「それで? 怒ったところでお前さんに何が出来る?」


 氷のように冷たい声で言い放つ。力こそ込めなかったが、その後の景色を思い出した大柄の男の怒りは瞬く間に凍り付いた。


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