2-22


「あー、惜しかったな。躊躇なく引き金引いてたらチャンスがあったものを」


 まっ出来るワケねーか、と黒と赤の魔人が嘲笑いながら、倒れた小柄の男を蹴り上げる。小柄の男はサッカーボールのように吹き飛んだ。


「それにちゃんと銃で脅迫するなら、こう、だ」


 魔人は躊躇いもなく奪い取った二丁の自動小銃のトリガーを引き、大柄の男の周辺に鉛の雨を降らせてみせた。銃声音の嵐が鳴り、大柄の男は声をひっくり返して叫び、先に吹き飛んだ小柄の男のもとへと逃げていく。


「おっと、驚かせちまったな」


 スマンスマン、と魔人-一場は軽口を叩きながら真也達の方へと振り向いた。


 その魔人の姿は、かつて真也が纏った装備、分厚い装甲に覆われたヤマシロとは対照的に極端に細身で、鋭利だった。


 全身を覆う人工筋肉の上に光を吸う黒の装甲が敷き詰められ、装甲の切れ間からは赤い補強フレームがその隙間を埋めていた。


 余分な突起物は殆どなかったが、足元や指先は相手を瞬時に突き刺せるように尖っており、最小限の合理性がより鋭さを際立たせる。


 左肩には一場の携帯端末に映されていた騎士のエンブレム-目元を覆う西洋兜を被った骸骨騎士が櫛状の峰を持つ短剣を構えた特徴的なそれが低視認性塗装で描かれていた。


 そして頭部は、同じイーグルの名を冠した米国製対UL装備と同様に戦闘機の風防を連想させる透明の防護ユニットの中に、赤い複眼が一対になって妖しく煌めく。


「なんだ、あれは……」


 あまりの違和感に真也は思わず呟いてしまう。一場の纏うそれは、頭部の特徴を除けば、由佳が一瞬使いかけた第3世代改修タイプとも、直倉が熱く語っていた最新型の第4世代相当タイプとも違う、真也が目にしたことのない”イーグル”だった。


 真也の知る従来機に比べると、余りにも細すぎるフォルムと黒と赤の特徴的な機体色は、力強い鷲のイメージよりも痩せこけた鴉を連想させる。それほどまで異質に見えた。


「あれは叢雲技研が研究中の実験機、貴方が使ったヤマシロと同じ、第4世代機のプロトタイプよ」


 そうやって溜息を吐きながら説明したのは、由佳だった。


「解説ご苦労、ついでに言えば今後を見据えた、対ハザード用殺人特化の第4世代、な」


 赤い複眼を光らせながら一場は言う。殺人特化、対UL装備にとってあまりにも矛盾に満ちた補足だったが、例え自身に殺意を向けられていないとしても恐怖を湧き立たせるその異形には、違和感がなかった。


「おっと、まだ逃げるなよ?」


 振り向きざまに一場はまた発砲する。銃弾はその場を去ろうとしていた二人組の足元に突き刺さった。


「ついさっき、革新教団に草津真希を引き渡す準備があると言ったのは本当だ。ただ違うのは、それが今じゃないってことだけだ」


 残念だったな、と一場は肩を竦め、


「ああ、あと、まだあんた方を一発も殴ってなかったな」


 使ったの肘と蹴りとこのオモチャだけだしな、そう言って悪戯気味に2丁の銃を振り回すと、


「そういうわけで、もうちょっと遊んでくれよな」


 男達の悲鳴と一場の悪魔の笑い声が交差していった。


 

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