2-21


「ダミーモード解除、バトルシークエンス、スタート」


 豹変した一場の声に応じ、彼のスマートウォッチは妖しく輝き出す。


『バトルシークエンス承認。通信回線確保失敗。ミリタリーモードに移行します』


 スマートウォッチの男性音声が響く。


『回線確保成功。CF-MUX666の起動認証へ移行します』


「貴様!」


 教団の男が怒声と共に動き出す。彼らの向かう先は、つい先ほど手放したばかりの自動小銃だ。


「ったくあの野郎、板金修理だけで良いって言ったのにシステムまで初期化しやがって」


 教団の男達の行動に意を介することもなく一場は悪態をつくと、


「まっ、ヘマこくつもりが毛頭ねえが、下がっときな」


 この男は妖しい笑みを真也達に投げかけると、左腕を掲げ、異形の紅い瞳と対をなす、黒の右目を覆うようにスマートウォッチの液晶画面を眼前で交差させる。


『認証完了』


 スマートウォッチから放たれた光が、一場に刻まれている網膜の構造を瞬時に解析し、適正な装着者であることを認識していく。


「昇華式起動」


「このッ!」


 起動の為の言葉と、男達が火器に手を触れたのはほぼ同時だった。


『Put on Calamity』


 電子音声が響くタイミングで、奴等の銃口は再度真也達に向けられる。


 行動自体は一場の方が早かったが、それでも、銃器の展開速度には敵わない。小銃のトリガーにはもう、人差し指が掛かっていた。


 だが、


「遅ぇよ」


「ッ!?」


 一場がその言葉を発した刹那、爆発音と共に彼の姿は消える。そして、その音は彼方から、自動小銃から放たれたものでは無かった。


「なっ!?」


「うぐっ!」


 続けて響くのは金属同士の衝突音と男達の悲鳴。真也達に照準を向けていた筈の彼らは宙を舞い、打撃音と共に重力に引かれるよりも早く地面へと叩きつけられた。


『CF-MUX666 "Shadow Eagle"』


 男達が立っていた場所から、スマートウォッチの電子音声が聞こえてくる。


『Destroy in name of our justice』


 奇襲を受け、蹲る教団の信者達の目の前には、自動小銃を奪い取った黒と赤の魔人が立ち塞がっていた。

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