2-19

「貴方達、教団の人間ね……」


 男達に対し、自身の体を真希の盾にしながら由佳は言う。彼女の視線は大柄の男の左肩、夜明けを連想させるような太陽のエンブレムに注がれていた。


「その通り」


「で、あれば要件は分かるな?」


 大柄の男の肯定の後に小柄の男が続くと、


「悪いけど、貴方達の要求には答えられない」


 毅然とした態度で由佳はそう返答する。


「な、なあ、一体何がどうなって……」


 その一方で、何処へ向けていいか分からない真也の疑問が虚空を駆ける。


 現れたのはULではなく全身装甲づくめの2人組、銃を持ち、こちらに何かを要求しようとしている。行動は分かるが理由の理解が追いつかない。


 真也の表情に、あーもう、と由佳は少し憤ると、


「目の前にいる2人は真希が前にいた革新教団の信者よ。何処から聞いたか知らないけど、真希が公安の手から離れたことを知って、連れ戻しにきたの」


 そうよね? と小声で素早く説明し終えると視線を真希に向ける。彼女は首を縦に振り、それに同意した。


「おぉ、草津様!!」


「なんとお痛ましい御姿に!!」


 由佳の影から真希の顔が垣間見えた瞬間だった。唸るように低い声だった筈の2人が突如として豹変する。真也のことを言っているのは流石に状況で察しがつくが、


「草津様、早く我らの元へ!」


「さあ、早く草津様をこちらに差し出せ!」


 待合室に入ってきた時の平静さは瞬く間に失われた。興奮の様は声から読み取れるが、感情の見えない巨大な眼球を思わせるその頭部から発せられると思うと途端に気味が悪くなった。


 伝聞だけで知っていたものとは違う、この得体のしれなさ、ULの時とは別のベクトルの恐怖が滲み出てくる。


「っ⁉︎」


 目の前で起きる凶行に唖然としていると、不意に、入院着の袖に違和感が走る。


「……ごめん、あまり、見ないでくれた方がいいかな」


 真希の手だった。自身の顔を俯け、絞るように声を出す。そして、もう一つの手は由佳の松葉杖を握っていた。


 声も手も、震えていた。表情は見えないが、彼女がどんな顔をしているかは、想像出来てしまった。


「わかった」


 真也が決意するより先に由佳がその言葉を口にした。


「さっきも言ったけど、私達UGXは彼女を引き渡すつもりは一切ない。例え武力による脅迫があっても絶対に屈しはしない」


 男達に向けて啖呵を切ると、由佳は松葉杖から手を離し、左手首に数日前に見せたものとは違う、灰色の端末を巻きつける。


「おっ、おい?」


「怪我なら気にしないで。草津君は真希を守ってて」


 真也の動揺を他所に彼女は端末の操作を始めていく。真也の思考の整理は追いつかないが、彼女が行おうとしている行為、装着した端末の正体だけは理解出来た。


 由佳のつけた装備は、戦闘機の風防を彷彿とさせる頭部が特徴的な、米国製の対UL用特殊兵装の代表格、Cイーグルの第3世代改修モデルに追加された端末だ。


 軍事マニアの直倉から興奮気味に解説されたので印象には残っていたが、まさかその端末が、従来の物理法則から明らかに乖離した特異な現象を引き起こす為のものだとは思いもしなかった。


 そして由佳は、その対UL特殊兵装を身に纏い、教団の人間に立ち向かおうとしている。2対1、防衛しながらの戦い、更に彼女自身も手負いの状況だ。無謀過ぎるにも限度があった。


「大丈夫、大丈夫」


 まるで自己暗示のように由佳は呟くが、


「大丈夫なワケねえだろが、ケガ人は引っ込んでろ」


 不意に、真也達の後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る