2-18

     ◇

 

 常之倉市、バトルエリア内病院設備内、廊下。


「ああ、クソ!」


 遠くからの爆発音を耳にした真也は、問診室を飛び出し、真希達のところへと一目散に駆け出していく。


 ……なんだこのタイミングはッ!?


 反射的に動き出したせいで、行動と思考が逆転する。


「今後のことについて話し合う前に、また休憩だ。ちょっくら屋上で煙草吸ってくるわ」


 そう言って、あの男、一場は真也に問診室で待つようにと指示して出て行った。そして、その数分もしないうちに異音と振動が響いたのだ。


 爆発、というのもは非日常、想定された出来事を除外すれば恐怖を煽る対象でしかないが、今の真也にはそれ以上に数日前の悪夢を連想させる引き金の意味合いが強くなっていた。


 待っていろ、と言われたが、素直に指示に従いきれるほどあの男を信用しきってはいなかったし、事態が事態だ。例外だと言い聞かせて真也は走り出していた。


 急激な運動作用によって依然残る傷に痛みが走るが、唇を噛みしめそれを誤魔化す。昇ってきた階段を二段飛ばしで下りきり、待合室へと辿り着く。


「真希ッ!」


 眼前に彼女の姿を捉えると思わず叫んでしまう。幸い、状況は真希達から離れる前と殆ど変わっていなかった。


「変に叫ぶなッ」

 

 由佳が小声で窘める。車椅子に座る真希の身を守るように立つ彼女の眼光はULに対峙していた時の鋭さに変わっていた。


「敵が"誰"だか分からないのに、私達の場所を知らせるような真似はしないでッ」


 忠告しながら、由佳は視線を待合室へ繋がる通路に向けて左右させていく。


「誰って、ULじゃないのか?」


「そうよ」


 説明は省くけどね、と真也の問いに即答した。由佳の返答を補強するかのように真希は無言で強く頷いた。


「静かに」


 由佳は右人差し指を自身の口元に立てて、目を瞑った。


 ……カツン、カツン。


 彼女の指示に従い見様見真似で息を潜めると、廊下の奥から甲高い、足音を思わせる異音が近づいてくる。


「……二人か」


 目を開いた由佳が小さく呟く。真也には全く分からなかったが、足音だけで特定出来るらしい。


「ところで、ゼンさんは?」


 身体の警戒はそのままに由佳の視線が真也へと注がれる。


「たっ、煙草吸いにいくって屋上に行ったきりで」


 彼女の放つオーラに気圧されつつも真也は素直に答えると、


「はぁっ!?」


 自身が必死で築き上げた静寂など忘れたかのように驚嘆の声を漏らす。


「ばっ、馬鹿ッ。場所がバレるってお前言ってただろ」


「もう遅いわよ!」


 というより何やってんのよあの人は、と真也の突っ込みに由佳はやけくそ気味に切り返すと、自身の上司への愚痴を口にしていくと、


「そうだな、もう遅い」


 聞いたことの無い男の声が空間を木霊していく。


「動かないで頂こうか」


 また別の男の声が響く。


「なっ……」


 二つの声の先へ視線を向ける。その先には大柄と小柄、対照的な二人の男らしき人物が立っていた。


 二人は、全身にダークオリーブの装甲服を身に纏い、その頭部には漫画に出てくる、目玉の妖怪を連想させるような複眼式カメラの集合体を備えたヘッドユニットを共に装着していた。独特なヘッドユニット、二輪車のバイクウェアに必要最低限の可動式装甲を配置させたようなそれは、


「上之宮の、タイプゼロ……?」


 真也ですら知っている、対UL戦闘用に開発された国産特殊兵装の代表例が、守るべき筈の彗星症発症者へ向け、対人用自動小銃を突きつけていた。


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