2-6


「教団の中枢にまで関わっていた君だ、本来なら両親と一緒に投獄されてもおかしくなかったが、当時君がまだ未成年だったこと、彗星症の進行が進み過ぎていて受入可能な受刑者施設がなかったこと、政治的判断や公安の思惑ほか諸々の理由で、公安の監視下のもとで保護されることになった」


 この中で真也が聞いていた事実は、真希が未成年を理由に逮捕されなかったことくらいで、彗星症の進行度なんて聞いたことのない話だった。


「君は姓を母親のものに変え、彗星症発症者ではない一般人として振る舞うことを公安から指示された。だが、長い間普通の生活をしてこなかった君を一般社会に馴染ませる身元引受人が必要だった。そこで出てくるのが草津真也、お前さんとそのご家族だな?」


 不意に一場の視線が真也へと注がれる。


「……はい」


 今まで蚊帳の外に置かれていた自分に話が回って来たことに狼狽しながらも真也はそう答えた。


「草津真希を引取る事が出来、かつ極力怪しまれないようにする条件を満たしていたのは彼女の家族と一番距離を置いていた草津真也の一家だった。公安もUL迎撃には手を回せるが彼女の身辺を24時間監視は出来なかった、だから草津真也は簡易の監視役及び彼女の社会復帰の支援役を公安から仰せつかった」


 間違いないよな、と一場が訊ねる。


「……ああ」


 はっきり言って語弊だらけの質問で心の底では反論したかったが、質問の芯そのものに間違いはなく、渋々それに同意する。


「オーケー、じゃあ休憩に入る前に最後に一つだけ。赤宮さん、彗星症の症状拡大を予防する措置について公安から指示を受けたか。噂だと、教団の教えでは人類の進化を阻害する要素として禁じられているらしいが」


 一場の視線が再度真希へと戻った。


「いえ、予防措置に関してはあたしの方から提案しましたが、あの人、公安の人はそれを一蹴しました。あと、予防措置に関しては教団は禁じていません」


 ただ推奨していなかっただけです、と真希は彼への返答にそう付け加える。


 また、真也の知らない話が出てきた。彗星症の症状拡大とはなんだ? 予防措置を断られた?


「……休憩に入ろう。聴取を中断する」


 一場がスマートウォッチの録音機能を停止させた直後、彼と、そして由佳が大きくため息を吐くと、


「だろうとは思ってたけど、こりゃとんでもない話になってやがるなあ」


「全くよ」


 各々、聴取に関する感想を口にする。


「……なっ、なあ、一体どういうこと、なんだ?」


 録音が終わったことから、ようやく真也は疑問を投げかけることが出来た。だが、分からないことが多すぎて、質問が曖昧になってしまった上に、誰に何から聞き始めればいいか、それすらも自分にも分からなかった。


 真也の戸惑いに対して、すぐに彼の方を見たのは由佳だったが、


「そうね、その発言も含めて草津くんを一発殴らないと気が済まないわ、私」


 そしたら教えてあげる、と酷く冷たい視線を真也へと投げかけてくる。その眼光はかつて公民教師に向けていたものよりも更に冷たく、鋭い、軽蔑の目だった。


「やめとけやめとけ、病院で暴力沙汰なんて。それにこのガキは公安にいいように操られてただけだ」


 言わばコイツも被害者だ、と一場は笑いながら由佳を制止するが、その言葉の節々には真也に向けられた棘が見え隠れしていた。


「でもっ」


「ああそれでも、赤宮真希の監督責任者として色々説教しなきゃならないのは間違いない」


 そう言って、一場は自身のサングラスを軽くずらすと、


「じゃあ、事情聴取パート2と今後の処遇に関して、責任者同士でじっくり話し合おうか」


 なあ、吸血王子君? と一場は黒と紅の肉眼で真也を睨みつけた。

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