第五幕 懐かしさ
大学帰りの夕暮れ。横を走る公園のベンチに二人の男女を見つけた。
あの二人は付き合っているのだろうか、そんなどうでもいい疑問がそこを通り過ぎた後にも頭の片隅に居残っていた。何故だろうか、昔の彼女を思い出していた。
自転車で秋の風を切る。枯れた葉の色あせた匂いが鼻腔に香る。これが懐かしい匂いだった。
もう四年ぐらい経つ記憶はすでに朧げでまともに顔も思い出せないのに、この匂いは覚えている。一緒に散歩へ出掛けた思い出の匂い。
僕が車椅子を押していた、あの時。あの日も、こんな雰囲気だった。そうだ。
背中に当たる夕日が冷たく感じる。
影に隠れる、今の顔はどんな風だろう。たぶん、崩れかけだ。
何も思い出せないのに、この気持ちは矛盾している。そう思うと、胸が熱くなるのが分かった。
気がつけば、自転車を止めて、泣いていた。
君はどんな顔だっけ。
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