第三幕 雪の降る日

「あ」

喉の奥から詰まるように声が出た。

駅のホームに続く階段を下っていると、降りたすぐにあるベンチに元カレが座っていた。彼の地元は此処では無いような気がしていたけれど、こんな無人駅に何故居るのだろう。

何となく、それとなく緊張してしまって、ローファーのコツコツという音よりも心音が大きく聴こえる。

どうか、どうせなら気づかないで欲しいと思いつつ、駆け足になりそうな速度で階段を降りた。

しかし、その音で気づいてしまったのか、こちらを向いてしまった。

「......」

スマートフォンの白っぽい光が彼の顔をほんのり明るめる。

「おう」

緩やかな笑顔が見える。それを見るだけで、心臓がぐっと縮こまるのが分かる。

「......うん」

雪混じりの風が吹き付ける。

「珍しいな、お前がこんな所に居るなんて」

スマートフォンの電源を切ると、彼はそう言った。

「寝過ごしたの......」

頭が温まり、頬が火照る。何も考えられない。

「本当に珍しいな。そういうの無いと思ってた。俺も同じなんだけど」

「そう......」

無邪気に笑うその顔がいつまでも恋しい。

雪が強くなってきた。

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