第十六話
「突然の訪問申し訳ありません。今日はいろいろよろしくお願いします。これ…つまらないものですが…」
「これはこれは…丁寧にありがとうございます」
そう言いながら頭を下げるしっかり者のカミサンを見て慌てて頭を下げる俺と勇気。会う事ばかり気になってて手土産とか全く考えてなかった失礼な俺とは違って、そこら辺も本当にしっかりしているカミサンに感謝。
そんな状況にあたふたしながら顔をあげると、芸術品と間違えてしまうのではないか?と思うほど整われたお顔で上品に笑う女性の顔がありましたよ。
言いたいことわかるよ、カミサン。
でもよ。俺も罪悪感はあるけど、目の前に芸術品があったらガン見しちゃうの仕方なくない?って思ったら、呆れた顔してやれやれなんて言ってるよ。
はいはいすいませんでしたねぇなんて言いあってたら、目の前の芸術品がほほほと上品に笑いながら『 立ち話もなんですから』と家の中に招いてくれた。
爽やかで落ち着いた花の香りがする廊下を歩きながら中庭のような場所を見ると、カコンカコンとししおどしの音がする。思わず目を閉じて音を聞こうと静かにしていると
「すげぇ!まるで温泉宿みたいだ!あたり一面散らかってるうちとは大違い!」
「こらっ勇気!余計な事言わないの!…すいません、うるさくて…」
「いえいえ、お子様は元気が一番ですからね。年よりばかりの我が家にはとてもよい刺激ですよ」
それをぶち壊す息子の声。
さすがわが家族である。
ま、まぁ…そんな会話をしながら歩くエンゲリスさんなんだけど、見ている限りでは20代と言われてもおかしくない容姿。
この方どっかで見た事があるんだけどなぁ…
絵画で見た貝殻の上で裸になってる女性の絵のような…なんだっけか?忘れちゃったけど、そんな美術品のような綺麗だけど透明感がある感じかなぁ?
それに落ち着いた雰囲気が加わり、全体的に神秘的な雰囲気が漂よわせてるように見える。
そんな彼女に通された温泉宿の一室のような落ち着いた畳張りの部屋で座らせていただいていると、会長さんが人数分のお茶を持ってきてくれて、ありがたいやら申し訳ないやら。我にかえって恐縮していると、会長さんやエンゲリスさんがイデアの方に向かって手招きをしてるんだ。
緊張していて気が付かなかったんだけど、イデア、部屋の片隅でまるで使用人のように立ったままだったんだよ。いやぁ駄目だなぁ俺。
「イデア、せっかくだから座らせてもらおう」
「いえ、ご主人様。エルフ様のような高貴な方がいるお部屋に私のような奴隷がいる訳にはまいりません!とてもとても恐れ多い事です!!!」
「だから!こっちには奴隷なんていないし!今日はイデアちゃんの相談もしたいんだから一緒にいてくれないと困っちゃうでしょ!」
ひたすら恐縮しているイデアを強引に座らせると、会長さんもエンゲリスさんもにこやかに笑いながら俺らの前に座ってくれたんで、その流れのまま勢いで話をさせてもらう。
コンビニアルテミスに入ったところからイデアとの出会い。会長さんを通してエンゲリスさんの事を知った事。
そして、もしかしたらイデアが生きていく上で必要な事が聞けるかもしれない、そのヒントが欲しいと思ったことを言うと、エンゲリスさんがとっても険しい表情してるのよ!
「…あの駄女神があ!!!!!!」
「お願い!ちょっと落ち着いて!」
慌てて止めだす会長さんと、訳が分からず戸惑ってる俺らを尻目に、エンゲリスさんは俺らの世代に見覚えがあるものを持ち出して、庭に飛び出し何かやりはじめたんだよ。
「あの馬鹿!悔い改めなさい!神の分際で人に迷惑かけるのが当たり前だと思うなよ!調子に乗るな!!!!コノヤロウ!!!コノヤロウ!!!!」
「やめてぇ!!儂の天女様イメージが壊れちゃう!!壊れちゃう!!!!」
・・・・・
・・・
・・
「あれ…」
「…うん、きっと藁人形だよね?…しっかり白装束に五寸釘だよね?」
「エルフって自然を大切にするんじゃなかったっけ?あの木だけボロボロなんだけど大丈夫なのかなぁ?」
「父さん母さん…そういう問題じゃない気がするんだけど、俺がおかしいの?」
いやぁ、聖母と思えるほど清らかな雰囲気の女性がいきなり豹変したらそりゃ慌てるわ!あの瞬間で俺が持ってたイメージもガラガラ崩れたわ!
しまいには、何だあれ?
なんか叫んだって思ったら、ドゴン!って大きい音がして火柱立ってるんよ!
「父さん!母さん!今、メ◯ゾー◯だって!!」
「「それ以上言っちゃ駄目!!!!」」
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